基礎情報:ドイツ(2013年)
4. 賃金・労働時間・解雇法制

4-1 最低賃金制度

ドイツは、ヨーロッパでは少数派の法定最低賃金制度がない国である。その代わりに、労使は主に産別を中心に賃金交渉を行い、そこで決定された協約賃金を拡張適用することで、未組織労働者にも波及する仕組みを取ってきた。この手法により、一部の業種には最低賃金が存在する。最低賃金等の労働条件は、原則として、産業・地域別(主に州単位)の事業主団体・労働組合間の団体交渉により締結される労働協約(Tarifvertrag)によって規定される。当該労働協約は、締結した労使に対して効力を発するのが原則であるが、「労働協約法(Tarifvertragsgesetz:TVG)」第5条に基づく「一般的拘束力宣言(Allgemeinverbindlicherklaerung)」174)により、労働者の50%以上に適用される労働協約が存在する産業における未組織労働者への拡張適用が可能となっている。

なお、労働者派遣法(Arbeitnehmeruberlassungssungsgesetz:AÜG)第3a条の改正により、2012年1月1日より労働者派遣業も最低賃金設定業種となっている。

「労働者送り出し法(Arbeitnehmer-Entsendegesetz:AEntG)」

2009年4月24日に施行された労働者送り出し法の改正により、労働協約の一般的拘束力が宣言された業種のうち、法定のものに関しては、ドイツ国外の事業主にも労働協約上の最低賃金等の労働条件が強制適用される(「労働者送り出し法(AEntG)」第3条)。具体的には、建設業(第一次元請、屋根葺き、電気工事、壁紙張り・塗装)、建物清掃業、郵便サービス、警備、炭鉱特殊掘削業務、業務用繊維製品クリーニング、廃棄物収集(含む道路清掃)・除雪、継続教育訓練サービス及び介護サービスの業種について労働協約上の最低賃金の適用が可能となっている(「労働者送り出し法(AEntG)」第4条)。2012年1月現在、以下の職種について労働協約上の最低賃金が発効している。

  • 建設業
  • 屋根葺き
  • 電気工事
  • 建物清掃業
  • 壁紙張り・塗装
  • 介護サービス
  • 警備
  • 業務用繊維製品クリーニング
  • 鉱山特殊業
  • ゴミ収集・処理業

資料出所:BA(2013) "Mindestlohne im Sinne des Arbeitnehmer-Entsendegesetzes"

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4-2 最低賃金額の推移

法定最低賃金額なし(4-1 最低賃金制度を参照)

4-3 労働時間制度

根拠法令:
労働時間法、連邦労働者最低休暇法
法定労働時間:
平日1日8時間を越えてはならない(休憩を除いた時間)
罰則:
法定労働時間を超えて労働させた場合、15,000ユーロ以下の過料。さらに、当該行為を (1) 故意によって行い、それによって労働者の健康又は労働能力に危険を及ぼした場合、又は
(2) 執拗に繰り返すことにより行った場合は、1年以下の自由刑又は罰金刑。
過失で健康を脅かした場合、6か月の自由刑又は罰金。
適用関係:
適用除外
  • 事業所組織法5条3項の管理職従業員(※注)及び主任医師
  • 公務機関の長、その代理者、公務に従事する労働者で人事決定権限を有する者
  • 家政共同体において、その保護の下にある者と共同生活をし、この者を独自の責任で教育、介護又は看護する労働者
  • 聖職者(他の法律の適用)
  • その他別の法律の適用がある者として、(1) 18才未満の者(年少者労働保護法による)、(2) 船員(船員法による)等
 
※注 事業所組織法5条3項の管理職従業員とは、
  1. 労働者を自己の判断で採用し、解雇する権限を有している者、
  2. 包括的代理権あるいは使用者との関係において重要な業務代理権を有している者、
  3. その他、特別の経験と知識が必要とされる職務を通常行っており本質的に自由に決定を下す立場にある者
法定労働時間の特例:
定期的に長時間の手待時間がある場合、労働協約又は労働協約に基づく事業所協定により、平日に10時間を超えて労働時間を延長可能。
 
  •  ※ 定期的に長時間の手待時間がある場合とは、10時間を超える労働時間延長が労働保護法上有害でないと認められる程度で、具体的には全労働の25%ないし30%程度以上の手待時間があることが必要であると一般的に解されている。
弾力的労働時間制度
6か月又は24週間単位の変形制
6か月又は24週以内(労働協約又は事業所協定でこれより長い期間の設定可)の期間を平均して週日の労働時間が1日8時間を超えない場合、 1日10時間まで労働時間を延長できる(但し、 夜間労働者については、 変形期間は1か月又は4週以内)。
時間外労働(上限規制、割増賃金率):
上限規制
労働協約又は事業所協定に定めをおくことにより、定期的に長時間の待機時間がある場合(労働協約又は事業所協定の定めが必要)、週日に1日10時間まで労働時間を延長することが可能。但し、12か月平均の週労働時間が48時間を越えてはならない(7条)。
緊急事態又は非常事態が発生した場合は、同法の労働/休養時間規定から外れてよい(14条)。さらに特別な前提条件下では、管轄官庁が同法労働時間からの逸脱を認可することもできる(15条)。
 
割増賃金率
法令上の規定なし。
一般に身体障害者は時間外労働に拒否権を持つ。妊婦、 授乳者に対する時間外労働は禁止。
休日労働(割増賃金率):
原則として、日曜日及び法定の祭日は労働者を就業させてはならない。但し、マスメディア及び輸送業務等については例外が認められている。
 
割増賃金率
法令上の規定なし
年次有給休暇制度における継続勤務要件:
労働契約が成立してから6か月以上
年次有給休暇の付与日数:
1暦年につき24週日(週日とは日曜日、日曜日以外の所定休日及び法定祝日を除く暦日)、週5日制の場合は20週日
年次有給休暇の連続付与:
連続12週日の付与を要するが、労働協約等で異なる定めも可能。
年次有給休暇の付与方法:
使用者が労働者の希望を配慮した上で決定(使用者に決定権)。但し、従業員代表がある場合には、代表と同意の上で定める。
未消化年休の取扱い:
休暇は休暇年度内に付与、取得するものとされているため繰越しは原則として認められない。事業所の都合、又は個人的な都合で繰り越された場合にも翌年3月末までに取得しなければならない。

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4-4 解雇法制

個別的解雇

民法典第134条は、法の一般原則による解雇無効の可能性並びに性差別禁止及び母性保護等の個別規定による解雇無効の可能性を認めているが、これ以外は、期間の定めのない契約については、労働者及び使用者側からの一方的な一定書式による解約を認めている。予告期間については、民法典622条に規定されている。

1969年に制定された解雇保護法(2003年改正)は、以下の解雇を、社会的に正当な理由がない解雇として無効としている。適用は、従業員10名以上の事業所(パートタイムは比率で考慮される)。

  1. 労働者の一身に基づく理由がない場合
  2. 労働者の行動に基づく理由がない場合
  3. 緊急の経営上の必要性に基づかない場合
  4. 従業員代表委員会の合意なしに労働者を解雇した場合
  5. 労働者を同一の事業所又は同一企業の別の事業所で雇用を継続することが可能な場合等。

また、個別の労働法令により次のような特別解雇制限がある。

  1. 従業員代表委員会委員及び職員委員会委員の解雇(在職中及び終了後1年間)(事業所組織法、職員代表法)
  2. 6か月以上雇用が継続されている重度障害者の解雇(中央福祉事務所の同意が必要)(重度障害者法)
  3. 妊娠中及び出産後4週間以内の女性労働者の解雇(母性保護法)
  4. 法定の育児休暇を取得中の労働者(連邦育児手当法)
  5. 兵役についている労働者の解雇及びその前後に兵役を利用としたその労働者の解雇(職場保護法)
  6. 訓練期間中の労働者の解雇(職業訓練法)
  7. 操業短縮中の解雇

上記に就いては別途規定があり、制限されている。

集団的解雇

経済的理由による解雇について解雇制限法による規制がある。

一定規模以上の事業所が一定以上の人数の解雇を行おうとする場合(労働者数が21~59人の事業所で6人以上の解雇を行う場合等)、使用者は公共職業安定所に届け出なければならない。

労働者が経済的不利益を被る場合、それを緩和するために、従業員代表委員会と使用者との間で、被解雇者選出基準、退職金、解雇保障金等について定める社会計画を策定しなければならない。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ドイツ」