基礎情報:ドイツ(2013年)
6. 労使関係

6-1 労使関係

ドイツの労使関係は、(1) 産業別労働組合と使用者団体によって形成される労使関係(協約自治)と、(2) 従業員代表と個別使用者によって形成される労使関係(事業所自治)の二元的労使関係をとるところに特徴がある。

ドイツは東西ドイツ統一後の1990年代後、旧東ドイツ地域を中心に大量の失業者を抱え、また、ドイツ経済の低迷もあり、労働市場や労使協約の硬直性に関する批判が経済界や政府から出るようになった。

そうした批判を受けて2000年代はじめに労働市場柔軟化のためのさまざまな改革が行われた。近年では労使交渉システムの比重が全国や産業レベルから企業レベルへのシフトが見られたり、従業員代表の中に労働組合の制御を離れるものが登場したりするなど、二元的労使関係のあり方には、若干の変化が見られる。

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6-2 労働組合

ドイツ労働総同盟(DGB)の傘下には、8つの産業別労働組合がある。組合員数は、長期的に減少し続けているが、2011年は0.6%減で、2009年の1.7%減、2010年の1.1%減と比べると、下げ幅はかなり小さかった。その中で、金属産業労組(IGメタル)の組合員数が0.3%増加したほか、教育学術労組(GEW)や警察官労組(GdP)も、若い労働者を含む新規組合員の獲得に成功し、数を増やした。このほかIGメタルに次ぐ組合員数を抱える統一サービス産業労組(ベルディ)は、前年の2.0%減から、2011年は1.1%減と下げ幅を半減させた。

表:DGB加盟労働組合状況(2011年)
組合名 組合員数 変化率
(2010~2011年)
ナショナルセンター
DGB(ドイツ労働総同盟)
6,193,252人 -0.6%
産業別労働組合 金属産業労組 (IG Metall) 2,245,760人 0.3%
統一サービス産業労組 (Ver.di) 2,070,990人 -1.1%
鉱業・化学・エネルギー労組 (IG BCE) 672,195人 -0.5%
建設・農業・環境産業労組 (IG BAU) 305,775人 -2.8%
教育学術労組 (GEW) 263,129人 1.1%
鉄道交通労組 (EVG) 220,704人 -5.1%
食品・飲料労組 (NGG) 205,637人 0
警察官労組 (GdP) 171,709人 0.7%

資料出所:欧州労使関係研究所(EIRO), 2012年

2011年にIGメタルの組合員数が増加に転じた理由について、経済社会科学研究所(WSI)は、「金属・鉄鋼産業の好調な成長と雇用の伸び、組織化の成果が反映されたため」と見ている。IGメタルは近年、従業員代表委員会がない企業に新たに委員会を設立する取り組みや、正規と非正規の均等待遇を求める取り組み、再生可能エネルギー分野など新産業分野の組織化に取り組んでおり、このような活動が功を奏したのではないかと関係者は見ている。

そのほか統一サービス産業労組(ベルディ)は、かなりの規模の組合員の退職や雇用減少があったにもかかわらず、下げ幅を狭めた。主な要因に、構成員の中で大きな存在を占めるヘルスケア分野の組織化を積極的に進めたことが挙げられる。ただ、そのベルディも民間のヘルスケアサービスが提供されている新規事業所の組織化には苦戦を強いられている。

資料出所:JILPT(2012)「海外労働情報

労働協約の動向

1. 派遣労働者に対する特別手当、金属産業で初の導入(2012年5月)

金属産業で働く派遣労働者に対する特別手当の導入について、IGメタル(金属産業労働組合)は5月22日、2つの派遣事業主団体と合意した。IGメタルが、事業主団体のBAP(人材サービス 業者全国使用者連盟)およびiGZ(ドイツ労働者派遣事業協会)と合意して導入が決定した特別手当は、正規労働者と派遣労働者の格差是正を目的とし、同一の派遣先企業での就労期間によって、給与の15%~50%の手当を受けとることができる。協約期間は、2012年11月1日から2017年12月31日までとなっている。これにより、派遣労働者と正規労働者の賃金格差が大幅に縮まり、派遣労働者の均等待遇に向けて大きく前進することになった。

  • 第一段階:6週間後、給与の15%分の特別手当
  • 第二段階:3カ月後、同20%
  • 第三段階:5カ月後、同30%
  • 第四段階:7カ月後、同45%
  • 第五段階:9カ月後、同50%

実際の額は、未熟練者で月186~621ユーロ、熟練者で月246~819ユーロになると見られ、対象産業で働く24万~28万人の派遣労働者が恩恵を受ける見込みである。

2. 化学など他産業にも派遣労働者の特別手当制度が波及(2012年6月)

この金属産業の協約が指針となり、他産業にも派遣労働者の特別手当制度が波及しつつある。6月19日には、IG BCE(鉱業・化学・エネルギー産業労働組合)が、化学産業で働く派遣労働者の特別手当導入について派遣事業主団体と合意した。協約内容は、金属産業の協約と同期間の段階設定(第1段階:6週間後~第5段階:9カ月後)と引き上げ率(15%~50%)になっている。協約期間も金属産業と同じく2012年11月1日から2017年12月31日までとなっている。IG BCEは続く8月3日も、ゴム加工業とプラスチック加工業の派遣労働者の特別手当導入に合意。こちらも、5月22日の金属産業と、6月19日の化学産業の協約内容に準じている。特別手当の引き上げ率は若干異なるものの、どの期間内に特別手当を引き上げるかなどの段階設定(第1段階:6週間後~第5段階:9カ月後)は同じである。協約期間は、2013年1月1日から2017年末までとなっている。

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6-3 労使紛争処理制度

労働紛争処理システムは、以下の通り複数存在する。

協約で取り決められた団体交渉による解決

組合と使用者団体または個々の使用者との間の、賃上げや労働時間の長さ、またはその配分については労働協約によって紛争の解決を図る。

事業所協定の紛争解決機関としての企業内調整委員会

紛争は、いわゆる企業内調整委員会(仲裁委員会Einigungsstelle)によって解決されるが、この委員会は「制度的企業内調停手続き」と言うことができる。このタイプ の調停の必要条件は、とりわけ事業所組織法第87 条によるいわゆる「社会的事項」に関して、例えば、企業の組織、労働時間の配分とある程度までその範囲および賃金の問題に関して、例えば、企業の組織、労働時間の配分とある程度までその範囲および賃金の 問題に関して、また事業所組織法第111 条に従ったいわゆる「社会的計画」に関して、事業所委員会に共同決定権があることである。

労働裁判所

労働裁判所(Gerichte für Arbeitssachen)は、「労働裁判所法(Arbeitsgerichtsgesetz:ArbGG)」)に基づき、労働関係から生じる、労働者と使用者との間の民事的権利争議を扱う。(1) 団体交渉協約の当事者間、(2) 彼らと団体交渉協約に関係する第三者間、(3) 団体交渉協約の存在の有無に関して独占的司法管轄権を持つ。労働裁判所の裁判官は、職業裁判官と、労働者及び使用者の関係者から選ばれる名誉裁判官(ehrenamtlichen Richtern)によって構成される。

審議は、三審制となっており、第一審は労働裁判所となっている(「労働裁判所法(ArbGG)」第8条第1項)。 第一審の判決に不服のある当事者は、訴訟物価格が600ユーロを超えるか、労働関係の存否又は解雇を争う場合か、第一審判決文に控訴が許される旨記載がある場合に限り、州労働裁判所(Landesarbeitsgericht:LAG)に控訴することができる。控訴審の州労働裁判所の判決に不服がある当事者は、州労働裁判所の判決又は決定において許された場合に限り、ドイツ連邦労働裁判所(Bundesarbeitsgericht:BAG) に上告することができる。

資料出所:厚生労働省「海外情勢報告」、JILPT(2004)「労働政策研究報告書 No.L-9, 諸外国における集団的労使紛争処理の制度と実態」、JILPT(2004)「ディスカッションペーパー 04-011, 諸外国の集団的労働条件決定システム

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