パネルディスカッション
地域における雇用機会と就業支援

パネリスト
藤本雅彦、望月雅彦、高見具広、小野昌子(司会)
フォーラム名
第85回労働政策フォーラム「地域における雇用機会と就業支援」(2016年5月11日)仙台開催

小野 自己紹介を兼ねて、私の専門研究と地域研究についてお話をさせていただきます。専門は労働経済学で、主に非正規雇用やNPOの就労といった研究を行っています。東北には、震災後、復興支援のヒアリング調査で訪れたご縁があります。NPOがどのような復興支援を担っているかに着目し、震災から1年半ほど後に被災3県を訪問してヒアリング調査を実施しました。また、地域創造先進地域として注目されている事例について、どういったところが創造的で地域創生に結びついているかという研究も行ってきました。こうした経緯もあり、前半の報告を大変興味深く拝聴しました。

パネルでは、三つの論点を設定したいと思います。

一つ目は、大きなテーマですが、地域創生とは何かということを考えたいと思います。地域活性化という言葉は昔から使われてきましたが、地域創生とは違うイメージもあろうかと思います。地方創生、地方活性化という言葉に対して、皆さんがどう考えておられるかという点もお聞かせいただければと思います。また、藤本先生からは、企業や工場を誘致しても撤退したら地域創造につながらないとの指摘がありました。一方、宮城県では積極的に企業や工場を誘致しているという報告がありましたし、高見さんも地方創生の一つの選択肢として企業誘致はあり得ると指摘しています。では、企業誘致や工場誘致をするのであれば、どこに気をつけなければならないのでしょうか。こうした点も考えたいと思います。

論点2は、UIJターンです。ここで好循環の仕組みが形成されると、地域の人口流出に歯止めをかけることができるのか。どうやったら地元に戻ってきてくれるのかということも考えてみたいと思います。

そして論点3は、ハリケーン・カトリーナが襲ったニューオーリンズが衰退せずに蘇ったように、東北も震災をきっかけに復活するためにはどうすればいいかという問題です。

地域創生とは――企業・工場の誘致は有効か

藤本 私は、企業誘致を全て否定しているわけではありません。問題は、70~80年代は大きな工業団地をつくり、製造業を呼び込んで工場を建てるというパラダイムでしたが、これがもはや厳しいという現実があります。ただ、宮城県の報告にもあったように自動車産業は例外中の例外です。同産業は最後の砦で、宮城県が自動車産業を誘致したのは素晴らしいことで、経済効果もあると思います。

自動車産業は非常に裾野が広いので、一旦、定着すると、移転しにくい特徴がある。厄介なのは、電機産業です。製品のアーキテクチャーがモジュール化してしまうと競争力を保つのが非常に厳しいので、秋田県にかほ市のTDKや福島県会津若松市の富士通の撤退のように、数千人の雇用が失われてしまいます。ですので、企業を誘致する時は、企業をきちんとセレクトすべきです。沖縄県はコールセンターとITの誘致に特化していますが、こうしたケースでは雇用に結びつく可能性が高いと思います。

望月 私たちの仕事はお客様を運ぶことなので、単純に、たくさん観光客の方に来ていただき、地域にお金を落としてもらうという意味で活性化という言葉を使っています。例えば三陸鉄道の場合、観光客で全線通して乗る人はあまりいません。NHKの「あまちゃん」の舞台だった久慈から普代まで乗ると単価が800円程度です。10万人が乗ると、8,000万円が会社の収入になります。ところが、観光客の皆さんは、宿に泊まって食事して、お土産を買って帰ります。そうすると、地域には1万5,000円が落ちます。10万人来れば15億円が落ちる。こうしてお金が回っていけば、雇用も生まれ地域が活性化するということです。ですから、私どもの大きな役割は、交流人口の拡大によって地域の活性化に貢献することだと考えています。

企業誘致については、私はもともと岩手県の職員で、14~5年前に企業立地の担当課長をしていました。そのとき、世界一の工場といわれた岩手県の富士通が撤退し、パナソニックも撤退しました。ということで、当時、私は「企業立地推進課長」ではなくて、「企業撤退阻止課長」だったわけです。そのとき感じたことは、フォローアップが重要だということです。来ていただいた企業が、その地に根づき、業績を上げれば撤退しなくて済むわけです。ですから、地域で業績を上げるため、何かお手伝いできないかと、岩手県職員は御用聞きをしました。私が担当課長だった時は国道を改良しました。というのも、関東自動車(現・トヨタ自動車東北)は釜石市から完成車を輸送していましたが、その途中の道路のカーブがきついので、何とかならないかという相談がありました。そこで、私は県の県土整備部長にかけあいました。部長から「一企業のために道路を直すのか」と言われましたが、「それで企業の業績が上がり、雇用創出につながるのであれば、そうすべきです」と答え、国道を改良したことがあります。このように、誘致だけでなく、その後のニーズを汲み取るフォローアップは大事なことだと思います。

また、特徴のある企業を誘致することも必要です。岩手の久慈に北日本造船というケミカルタンカーをつくる会社を誘致したことがありますが、単なるコスト競争だと韓国に負けてしまいますが、同社のように特殊な技術を持っていれば、企業の特色を活かしながら、結果として地域の雇用拡大につながると感じています。

高見 「地域活性化」という言葉は、地域が良くなる、もしくは地域を良くすることと同じ意味合いで使われていますが、「活性化」という言葉の響きとして、経済的な状況に中心的な関心があるようにも聞こえます。では、地域が活性化したとはどのような状態を指すのでしょうか。これを定義するのは意外にも難しいように思います。成功事例といえば、若い人や人口が増えている地域のことと思われがちですが、人口がどのくらい増えるかは地理的条件に大きく左右されますし、地域の取り組みによって即座に激的に変わるものでもありません。では、どういう意味で「成功事例」なのかというと、私なりの考えを申し上げるならば、「その地域が生き残る道を見つけた」事例という理解がフィットすると思っています。

これまでインタビューしたうちでは、長崎県小値賀町という離島の事例が当てはまります。ここは、佐世保からフェリーで2時間半かかるので、出身者は出ていく一方で、戻ってこない。島の人は「ここには何もない」と言っていましたが、江戸時代に捕鯨の町として栄え、非常に趣のある古民家がある。また、路地の雰囲気も、地元の人から見ると寂れているとしか思えないけれど、見方によっては風情がある。それをIターンの人が、宿泊客も呼び込めると考えて、観光事業を始めたのです。地元の人は気づかなかった資源を活用することで、修学旅行生や外国人もたくさん来るようになり、新聞・テレビの取材も増えて、改めて地元の人がこの資源に気づいたということです。観光事業が繁盛すると雇用創出につながります。そうやって、地元が活気付いてきていることを知った出身者が、弁当屋や居酒屋を始めるという形でUターンするケースもあり、よい方向に回り始めてるように見えます。

良い循環が回り出したとはいえ、では地元を出た100人のうち何人が戻ってきたかと問われると厳しいのですが、小値賀町のように、自分たちで地域の生きる道を見つけて、地元の資源を事業に結びつけ、地域が自信をつける。こうした循環になるのが、いわゆる好事例だと認識しています。

小野 会場からも、地域活性化の定義に関するご意見が届いています。地域活性化というと、どうしても企業誘致や工場誘致を想起してしまいますが、藤本先生や望月社長が言われたように、既に地元で頑張っている企業をどう支援していくかが重要です。特に、藤本先生が報告されたような将来性のある中小企業をどう発掘して支援していくのか、そこに地方創生への道が隠されているのではないかと思います。東北の地場産業では、水産業が大きなシェアを占めていますが、現在、水産業の支援の現状と可能性についてお話しいただけますか。

中小企業再生に必要な付加価値

藤本 構造的に、地方経済が急激に右肩上がりに成長するなどというのは非現実的です。むしろ経済が成長しない状況でも、地方の魅力をどう発掘し、そこに暮らす人たちが幸せかどうかという視点に変えていかなければなりません。もはや経済的な盛り上がりが全てとは言えない時代になっています。

水産業について一言で言うと、これまでは付加価値への取り組みが十分ではなかった。例えば、釜石の小野水産という会社は、給食用の食材を提供していましたが、震災後、徹底的に味を追求して、とても美味しい食材を通販で売り出すことに切り替えました。結果として、震災前よりも売り上げが伸びているそうです。商品を学校給食や小売・流通に流すと、結局、コストが重要になって、なかなか付加価値で勝負できなかった。そこに付加価値をつけて、通販に切り替えることで、売り上げを伸ばすことに成功したのです。世界の三大漁場の一つは三陸沖ですから、可能性は十分にあります。例えば、北海道で捕れたタラコが、九州で明太子に加工されると高い値段が付くということと同じです。気仙沼のフカも、いろいろな付加価値をつけていますが、それをグローバルに考えてみると、可能性はもっと広がります。

ただ、中小企業政策全般にいえますが、問題は中途半端な支援と教育だったということです。中途半端な教育というのは、セミナーや講習会をちょっとやって、経営者に促しても、自分の会社の事として展開させることができません。もう一つの中途半端な支援というのは、補助金政策です。申請が上手な会社だけが補助金を受けてしまう。事業革新で付加価値をつけて、これからグローバルに戦える会社に補助金が渡っているかという検証はできていません。

実は、宮城県農林水産部と一緒に「東北発水産業イノベーションプロジェクト」を今年度から立ち上げることにしました。水産加工業を中心としたビジネスモデルと、その支援の政策のあり方について、水産関係に造詣の深い人に集まってもらい、新しい水産業の可能性について、モデルをつくりながら実践的な政策を実現していこうというものです。それから、新しい水産業モデルを浸透させるために、RIPSのような地域イノベーションプロデューサー塾の水産業版をつくる。こうした3年ぐらいのプロジェクトを今、始めようとしているところです。

小野 「中途半端な支援や教育」のところで望月社長がうなずいていらっしゃいましたが。

望月 国から補助金があると言われ、補助金が出るからやる、ではだめなんです。三陸鉄道では物販に力を入れており、地域の特産物を三鉄のブランド力で売っていこうとしています。例えば、震災の翌年から、全国のイオン、マックスバリューで骨取りサンマを売り出しています。サンマの産地では小型のものは、バケツ1杯500円ほどで売られていますが、岩手県の久慈市漁協がサンマから骨だけ抜き取る技術を持っているので、骨だけ取って、4尾ほどパッケージに入れて、シソ味、バジル味のような形にして、298円で全国のイオンで売っています。こういったパッケージ商品は、10万パック売れるとヒット商品だそうですが、すでに290万パック出ています。お年寄りから子供まで、フライパンで簡単に焼けて、骨が刺さらないということで大ヒットしている。三陸鉄道は、そのパッケージに当社のアイドルキャラクターを使ってもらい、その使用料が1個売れると2~3円入ってきます。

ですので、補助金が欲しい人ではなく、成功するべき人に支援することが大事だということを骨取りサンマの商品を思い出して、つくづく感じました。

高成長・革新企業の要件は何か

高見 藤本先生に何点かお聞きしたいことがあります。1点目は、高成長企業をどう見つけるのかということです。高成長企業、特に革新企業をどう定義して見つけるのかという点を教えていただければと思います。2点目は、雇用創出までの道筋です。中小企業に経営課題を聞き、客観的な分析結果を示し、それを事業や意思決定に活かしてもらうという支援策が、雇用創出にどうつながるのかです。事業革新がありさえすれば即雇用が生まれるとも限りませんので、どのような道筋で雇用増につながるのか、ご教示いただければと思います。

藤本 まず、高成長企業の要件ですが、一つのヒントとして、最近の経営学の概念に「経験デザイン思考」という手法があります。デザインというのは、パッケージのデザインではなく、事業そのものをデザインする。そのキーになるのは、バリューイノベーションという考え方です。ですから、同じ事業をやっていても、違う価値を見つけていく。それによってイノベーションを起こしていく企業が非常に伸びています。

例えば「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、もともとはサーカス団です。しかし「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、ライオンなどの動物使いやピエロをやめて、芸術性を徹底的に高めて、新しいイノベーションを起こしました。このように、現在持っている価値の違う側面に焦点を当て、そこへ新たな意味的な価値を持ってきます。この塾で最初に事業構想を拡大する際、顧客に新しい意味を提供できるかどうかということが、一つのキーポイントになっています。その価値をどう考えるかということについて徹底的に議論しますが、それが高成長企業の一つの要件になっているのではないかと思っています。

マーケティング分析がどう雇用創出につながるか、これは非常に難しい問題です。全て解析することはできませんが、卒塾した会社を毎年フォローアップ調査しています。基本的に、地方の中小企業はマーケティングが上手くない。どうしても経営者の経験の中でしか物が見えない。これが国内や海外でどういう付加価値を持っているのかが見えなかったりします。例えば、卒塾生の中で、日本の伝統工芸の「技」を活用した「生涯を添い遂げるグラス」を作っている会社があります。グラスが割れても、割れたグラスの破片を箱に入れて戻すと、新品が返ってきます。これが、「生涯を添い遂げる」という新たな発想です。1個5,000円ほどのグラスですが、飛ぶように売れています。海外では特に評価が高く、それが成長を促し、その会社だけでなく職人の方々の新たな雇用が生まれます。そんなに難しいロジックではありません。中小企業の一番大きな問題は、マーケティング力が圧倒的に乏しいことです。そこで、RIASの人たちにチームを組んでもらい、調査したり、新しい事業の意味について調べて、それを提供してもらう。そうすることで、経営者の発想がかなり広がってきます。

今年度は、最初からRIASの支援者とRIPSの経営者が一体的に協力しています。一つのプロジェクトチームに、4~5人の経営者と、2~3人の支援者が入り、一つひとつの事業構想をヒアリングし、市場のエビデンスを提供しながら支援する。そしてグループ・ディスカッションしながら、事業革新の発想を拡大させています。

雇用創出までには10年タームの時間が必要

高見 アメリカのリトルトン市のケースでは、15年間で雇用が2倍、税収は3倍になったわけですが、逆に言うと雇用を創出するまで15年かかっています。日本でも、雇用創出にはそのくらいの期間がかかるとみた方がよいのでしょうか。それとも、もう少し短い期間で達成できるものなのでしょうか。

藤本 時間はかかります。リトルトンでも10年経ってようやくそこそこの雇用増になりました。

RIPSは震災復興の財源で始めたため、復興期間が終わると予算も途絶えてしまいますが、次に、内閣府の地方創生に財源を乗りかえて何とか継続しています。

現在、東北では震災復興の建設がブームになっていますが、必ずシュリンクします。東北は手厚い公共投資のおかげで5年は持っていますが、そろそろ息切れです。東北の経済はもともと縮小していたわけですから、建設需要が途切れてきたら、拍車がかかる。だから10年は続けないと効果は出ないだろうと思います。今から始めても、花開くのは5年後、10年後になると考えています。

小野 望月社長にお伺いしたいのは、東北の復興、地方創生における地元企業の役割です。どのように地域と関わるべきだとお考えですか。

望月 地域の特徴で言えば、東北はやはり祭だと思います。そこで地域とのかかわり合いを持つことはすごく大事なことだと思います。誘致企業でも、祭りに参加している企業は、いい企業です。例えば岩手のさんさ踊り、仙台では七夕まつりがありますが、そこへチームを出すような企業は、地域と一緒にやっていこうという気持ちが強い。そういった企業に積極的にアプローチして、前向きに取り組んでもらい、業績が上がれば、雇用も増えていく。そうなっていけば一番いいでしょう。

小野 復興による潤沢な資金で、現在は経済が順調に回っているように見えますが、実は先々どうなるかが見えていない。東北における震災復興と地方創生の違いがどこにあるのか、お話しいただければと思います。

藤本 幸か不幸か、ラッキーだったことは、震災がなければ、東北に縁もゆかりもない人がこれだけ東北に来ることはなかった。私どものプロデューサー塾にも、東北とは縁もゆかりもないけれど、震災を機に東北で事業を始めている方が何人かいます。こうした人たちは、地元で育って地元に定着する2代目経営者とは少し毛色が違います。地元のことしか知らない人は、どうしても発想が狭くなります。外から来る人たちが起業するのは、他のエリアの地方創生と異なる震災復興のメリットと言えるのではないでしょうか。

東北大学の学生がもっと地元企業に就職してくれたらいいと考える人もいると思いますが、現実の地元での就職先は、ご存じのように、公務員と電力会社と銀行が大半です。学生に尋ねると、公務員や地元志向の人は大体、地域に貢献したいと言います。しかし、本当に貢献したいのなら、20代の10年ぐらいは、いろいろなところで揉まれて、多様な発想を身に付けてから、戻ってきてもらう方が地域貢献になります。ずっと地元にいて、地元の発想や周りの経済しか知らないと、イノベーティブな事業計画を一緒に創ろうとしても、なかなか難しいのが実態です。ですので、Uターンを促進することが有効だと考えます。

地域間の幅広い連携・協力も必要に

望月 東日本大震災によって、東北はマイナスからスタートしました。特に観光でそう感じます。観光は、自動車産業と同じく非常に裾野が広い産業です。お土産、飲み屋、食堂など関連する分野は広い。日本に来た外国人観光客は、一昨年が1,341万人、昨年が1,970万人ですが、一昨年は東北に3%しか来ていません。沖縄1県よりも東北6県の合計が少ないという状況です。今、復興庁や観光庁でも、東北地域を観光で元気にしようと、いろいろな取り組みが始まっています。観光は裾野が広いですから、1人1万円としても、10万人が来れば10億円が地域に落ちる。そして、より広域で様々な取り組みをすることが重要です。例えば、三陸鉄道は岩手県の沿岸部を走っていますが、観光客の中には八戸から来る人もいれば盛岡や仙台から来る人もいます。広域的な取り組みによって東北全体の観光客を増やし、雇用も増やす好循環に持っていけるのではないかと考え、三陸鉄道もいろいろな取り組みを始めています。

そういう意味では、例えば、仙台空港がハブ空港としてLCC(格安航空会社)を受け入れ、仙台から入国して青森空港から帰国する、といったような協力・連携を幅広く進めていく必要があると思います。

切り札は地元愛、郷土愛か

小野 質問が幾つか来ています。地元愛や郷土愛を強調されると、県外に出ることへの罪悪感が生まれ、人材の可能性を狭めてしまうことにならないでしょうか。地方創生重視のリスクはないのでしょうかといった内容です。

高見 難しいですね。個人の観点と地域の観点では、目指す方向が一致しない部分もあるからです。地域の観点から言うと、出身者がUターンするためには、地元に雇用の場があることも必要条件ですが、結局は「地元が好きかどうか」に行き着きます。なので、今まで地元にあまり愛着がなかった人に、ここが好きだともう一回、思いを強くしてもらう。この地元愛の醸成が、一番ストレートな方策と思います。一方で、個人にとっては地元にとどまるのがよいのか、成長機会を求めて外に出るのがよいのかは、当人の希望が尊重されてしかるべきでしょう。地域にとってよいことと、個人にとってよいこととは別の話と思います。

望月 ここは何もないと言う人が、東北には結構います。ところが、美味しい水があったり、岩手の沿岸だとウニ、アワビ、山ではマツタケが採れたり、素晴らしい景色がある。しかし、何もないと言う人は、それが当たり前過ぎるからなんです。都会に行って初めて気がつく。そして、仕事や生活できる環境があれば、帰ってくる人は結構多いと思います。

最近、ある雑誌で紹介されていましたが、地元に愛着があり、自慢できる場所があると思っている人の1番は北海道だそうです。地元に自慢できるものがある、すごくいいところだと思えることが大切だということを、ぜひ学校でも教えてほしいです。そうした子供がもっと増えれば、地域をいったん出ても、Uターンする人も増えるのではないかと思います。

小野 藤本先生にRIPS、RIASについて、もう少し詳しくご説明いただきたいという質問が来ています。

藤本 そもそも今日の経営者の要件は三つあります。まず、ベースは経験だと思います。経験がなければ、人を動かし、事業を成し遂げることはできない。でも、狭い自分の経験の中だけで物を考えていると、イノベーションは起きない。そこで、経験をベースにしならが、もう一つ必要なことはアートの側面です。今の時代、アーティスティックな芸術家に近いところで、創造的な発想がどうしても要求されることがあります。3番目はサイエンスです。経営のあり方は各社で異なりますが、本質的に共通するロジックとしての部分は必ずあります。したがって、「経験」と「アート」と「サイエンス」、これが今の経営者にとって必要なものです。

こうした三つの要件を支援することが、両塾の教育カリキュラムでの一つのポリシーになっています。

観光、雇用・産業の情報発信を

小野 時間も残り少なくなってきました。最後に言い残したことがあれば、お願いします。

望月 人口減少社会に入り、岩手県も毎年1万人ぐらい減っています。その減り方は4月以降、毎月500人ぐらい減って、3月に5,000人減る。これは就職・進学で出ていった人が5,000人いるということです。ただ、岩手県立大学、岩手大学などに入学して、県外から岩手に来る人もいます。であれば、進学や就職で出ていく人にどうやって愛着を持ってもらうか。一方、仙台では、東北大学、東北学院大学、宮城教育大学に入学する人もたくさんいます。こうした人たちに、ここは良いところだといかに思ってもらうか。そういったアプローチをする必要があります。もう一つは、東北は情報発信がとても下手です。観光情報もそうですが、雇用・産業の情報発信が他の地域に比べて上手くないと思います。この辺りを改良していかないと、取り残されてしまいますので、情報発信の充実が重要だと考えています。

高見 どうしたらUIターンが促進され、地方活性化ができるかを考えるとき、非常に言いにくい話ですが、短期的に成果を求めにくい部分も大きいと感じています。例えばUターンを促す取り組みについて、中小製造業が集積する長野県岡谷市では、小学生を対象に地元企業のものづくりの魅力に触れさせて、将来的なUターンにつなげる取り組みをしていますが、小学生に伝えてUターンにつながるまで10年以上かかります。そうであっても、それは大変有効な方策と思いますし、大学3、4年生になってから、地元で就職して欲しいと言ったところでなかなか難しいのが実情でしょう。

本日はまちづくりの話はしませんでしたが、インタビューした事例では5年、10年ではなく、もっと長い30年、場合によっては50年という大変長い期間での取り組みも聞かれました。このたびの地方創生では、若い人がUIターンして地域を活性化させる取り組みが求められていますが、短期的な成果ばかりを追い求めず、地道で息の長い取り組みが重要だと考えています。

小野 ありがとうございました。議論を整理させていただきますと、地方創生、雇用創出の関係で、五つぐらいポイントがあったと思います。一つ目が、地元を再発見すること。二つ目が、地元愛を醸成すること。三つ目として、企業については、付加価値のあるものに特化させて特徴ある企業に育てていくことが地域の強みにつながるということ。四つ目は、情報発信を充実させて、雇用創出にもつなげていこうという点です。そして最後に、急ぎ過ぎないということ。少なくとも10年、15年という期間をかけて見守っていくことが重要ではないかというメッセージをいただきました。

本日のフォーラムが、皆様のお役に立てば幸いです。ご清聴ありがとうございました。

プロフィール(司会)

小野 晶子(おの・あきこ)

JILPT主任研究員

2003年日本労働研究機構(現JILPT)に入職、2010年より現職。専門分野は、NPOの労働、非正規労働(パート、派遣労働)、労働経済。最近の研究成果として、『NPOの就労に関する研究―恒常的成長と震災を機とした変化を捉える―』(労働政策研究報告書No.183, 2016年)、『NPO法人の活動と働き方に関する調査(団体調査・個人調査)―東日本大震災復興支援活動も視野に入れて―』(調査シリーズNo.139,2015年)などがある。

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