資料シリーズ No.202
厚生労働省「多様化調査」の再集計・分析結果
―雇用の多様化の変遷(その4)/平成15・19・22・26年調査―

平成30年5月15日

概要

研究の目的

雇用の多様化に関する代表的な政府統計の一つである厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(「多様化調査」)データの再集計を通じて、近年における非正規雇用の動向を捉えるための基礎データを整備・提供する。併せて、ときどきの問題意識に基づいた所要の分析を行い、政策的なインプリケーションを導出することをめざす。JILPTでは、これまでも同様の取組を行ってきており、今回で4回目となる。

研究の方法

厚生労働省「多様化調査」(平成15年、19年、22年、26年の4回分)個票データの再分析。

主な事実発見

(第Ⅰ部・再集計結果から)

  1. 多様な「雇用の多様化」の進展がみられているが、一方で、契約社員、派遣労働者、パートタイム労働者の3つの非正規形態が3つとも活用されている事業所はごくわずかであり、パートのみ活用の事業所が全体の半数程度を占め、それ以外はそれぞれ1つの形態かせいぜい2つの形態を活用している。3形態いずれもいない事業所も3割程度あった。
  2. 契約、派遣、パートの3形態がそれぞれいる・いない及びいる事業所における従業員に占める割合に影響を与える事項を回帰分析により析出した結果、高めるもの(プラス)、低めるもの(マイナス)それぞれ図表1のような結果となった。
  3. 勤続年数別に賃金の推移(勤続プロファイル)をみたところ、パートの賃金についても、宿泊・飲食サービス業や小売業など活用度合が高い産業で「勤続効」(勤続とともに賃金に上昇傾向)がみられることなど、「まだら模様」ではあるものの一定の就業環境の整備の進展が窺われた。
  4. 「独身・親と同居」から「末子年齢:16歳以上」までの6つのライフステージを設定し形態構成や形態選択理由などを概観した。その中で、各ステージで主たる家計維持者である人の中で非正規雇用者の割合は総じて上昇してきており、例えば「末子年齢:5歳以下」の女性においても契約やパートを中心に上昇がみられた。
  5. 在学中の20~24歳の就業者、いわゆる「学生アルバイト」について試みに集計したところ、サービスや販売の仕事が多く、週16~17時間程度就業し、月に6~7万円程度の賃金を得ているといった平均的な描像が示された。

    図表1 それぞれの雇用就業形態のいる・いない及び従業員に占める割合に関する回帰分析結果

    図表1画像画像クリックで拡大表示

    注:< >内は、回帰係数のプラス・マイナスを示している。

(第Ⅱ部・テーマ別分析結果から)

  1. 多様な形態で働く人々の仕事満足度には平成26年では総じて上昇がみられており、経済状況の影響を受けやすいこと、派遣労働者の満足度は相対的に低く、非自発的な就業であることがその背景にあることなどが示された。多変量解析を行い、「職業生活全体」の満足度は仕事のやりがい、職場の人間関係、スキルアップの機会に規定されている面が大きく、また、パートや派遣では「雇用の安定性」も重要な要素であることなどの分析結果から、職業人としてまた人間としての成長が感じられるような働き方の提供が、職業生活の満足度にも寄与すると考えられるとしている。
  2. 子育て中の女性が不完全就業となる要因としては育児負担があり、また、育児負担を軽減する環境があるかどうかも関係していることが推測される。これらの要因に関して、それぞれクロス集計により概観したうえで、多項ロジットモデルによる多変量解析を行った結果、育児負担が女性の不完全就業を高める要因となっていることを確認するとともに、親との同居や保育所等の地域での保育環境の整備が子育て中の女性が不完全就業となることを抑制し、就業時間のより長いパートタイム就業ばかりでなくフルタイム就業となることも促す効果があり、その効果は平成22年に比べ26年においてより顕著となっていることが示されている。そのうえで、女性の就業促進のための社会インフラ整備の重要性を指摘している。
  3. 標準的な説明変数による賃金関数を推計することを通じて、正規・非正規の賃金格差を中心に分析した結果、正社員の賃金に対してそれぞれ、契約社員の賃金は8割台半ば、派遣労働者は8割程度、パートは7割をやや下回る水準となっている。その中で、平成15年から26年までの間では、契約社員やパートの格差には縮小傾向がみられている。派遣労働者については、総じて変動が大きく方向が定まっていない(図表2)。特定の産業の特定の職業(特定産職)についてみると、契約社員に縮小傾向がみられる特定産職が多く、パートでも「各種商品・食料品小売業の販売職」などで縮小傾向がみられている。その中で、「情報通信業の専門的技術的職業」の契約社員や派遣労働者には、正社員との間での格差そのものが析出されておらず、相対的に高度な技術を要する職域では、派遣労働者には正社員と遜色ない賃金が支払われているといえる(図表3)。

    図表2 賃金関数(OLS)から試算される格差指数の推移(正社員=100)

    図表2画像

    注:被説明変数は各年9月の賃金総額、説明変数は年齢、勤続年数、実労働時間、女性ダミー、産業、職種、最終学歴、企業規模のダミー変数を投入している

    図表3 賃金関数(OLS)から試算される格差指数の推移(正社員=100)―特定産職別―

    図表3画像画像クリックで拡大表示

    注:「医療・福祉のサービス職業」の平成15年は、賃金関数そのものにおいて有意性が析出されなかった。

    一方、関数による格差の試算は、投入する説明変数が変われば結果も変わるなど様々な制約があることに十分留意する必要がある。ちなみに、上述の標準的な賃金関数に事業所の非正規形態活用理由などを説明変数に追加した「拡大モデル」では、例えばパートの格差は、標準型の場合の31.7%から26.8%へとほぼ5ポイント縮小する。こうした結果を受けて、「同一労働同一賃金」を進めるに当たっては、何をもって「同一労働」というのかについて慎重に検討される必要があり、そのためには企業の労使、特に非正規形態の労働者も含めた労使の話し合いを通じて、企業の賃金決定システムにおいて同等の評価を受ける「同一労働」の規範(ルール)を形成することの重要性を指摘している。

  4. 有期雇用者が無期雇用への転換を希望する要因を分析した結果、契約社員で相対的に強いこと、子どもがいるライフステージであることや「仕事の内容・やりがい」に満足していることなどさまざまの要因が析出された。そうした結果から、その希望は働く人々の生活面のニーズも含めた様々な要素が考慮された結果であり、その職場への肯定的な評価が基礎にあることが窺われ、企業としてもそうした評価を的確に受け止め、働きやすく、成果を高めることができるような環境整備を図ることが求められると指摘している。
  5. 事業所におけるパートへの各種制度の適用状況について分析した結果、全般的とはいえず、産業や規模別にみていわば「まだら模様」にではあるが、福利厚生施設等の利用や昇進・昇格、正社員への転換を中心に進展がみられた(図表4)。一方、賞与支給については、適用割合に低下傾向がみられている。

    図表4 パートタイム労働者への制度適用のある事業所の割合の推移(産業計)

    図表4画像

政策的インプリケーション

  • 多様化の様相は極めて多様であり、それを一つの観点や意図で整理することはできない面があることにも十分留意することが重要であること。そのためにも、雇用の多様化がもたらす社会的メカニズムの変化に関して、データの蓄積と理解を進めることが必要であること。
  • 事業所における正社員との格差是正の観点からの「同一労働同一賃金」の推進に取り組まれるべきことはいうまでもない。他方、それとともに併せて、非正規形態で働く人々は正社員とは異なるニーズを抱えている場合も少なく、正社員との格差是正とは異なる観点から、賃金ばかりでなく福利厚生制度等も含めて、そのニーズに的確に対応した処遇(「的確な処遇」)をしていくという観点も併せて強調されてもよいと思われること。
  • 雇用の多様化の多様性に対処しつつ、総体的な「的確な処遇」を実現するためには、企業・事業所における非正規雇用者を含めた労使の話し合いとそれに基づいた処遇決定システムの構築が重要であること。また、企業内で個々の従業員が「声」を挙げることができ、適正な手続きによるものである限り何らの不利益を被ることがないようにすることも重要であること。さらに、決定された処遇ルールは、採用活動の際などには広く開示されることも必要であること。処遇ルールの内容が求職者等に十分に開示され、応募企業の選択に当たっての考慮に活かされるようにしてこそ、労働市場の機能が十二分に発揮されることとなる。
  • 雇用の多様化は様相が激しく変化するところであり、常にその動向を把握・観察する必要があるため、「多様化調査」は重要な役割を果たすものであること。その際、調査項目についても継続を基本としつつも、多様化の進展に合わせて適宜微調整をされることも重要であり、可能な範囲での対応が期待されること。

政策への貢献

  • 非正規雇用の動向に関する基礎的なデータを提供している。特に今回は、時系列的な推移が一覧できるよう整理した巻末付属集計表を掲示した。
  • ときどきの政策課題を念頭においたテーマについて、当該データを活用した分析を行い、基礎的なデータと政策インプリケーションを提供している。
  • 厚生労働省が行う労働統計の企画立案と推進に資する。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究」
サブテーマ「非正規労働者の処遇と就業条件の改善に関する研究」

研究期間

平成29年7月~30年3月

執筆担当者

浅尾 裕
労働政策研究・研修機構 特任研究員
藤本 隆史
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
李青雅
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

関連の研究成果

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