労働政策研究報告書No.161
雇用の多様化の変遷<そのⅢ>:2003・2007・2010
―厚生労働省「多様化調査」の特別集計より―

平成25年11月5日

概要

研究の目的

近年の雇用労働の大きな特徴の一つである非正規化の進展に関して、この面の総合的な政府統計の一つである厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の特別集計(今回は、平成15年、19年及び22年の3回分)により、この間の非正規雇用の動向を捉えるとともに、ときどきの問題意識に基づいた所要の分析を行い、政策的なインプリケーションを導出することを目的とした研究である。この取組(同調査の特別集計)は、JILPTの前身である日本労働研究機構(JIL)時代から継続して実施してきており、今回は4度目となる。

研究の方法

厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の特別集計

主な事実発見

(平成15年~22年における雇用の多様化の変遷)
  1. 平成15年から22年までの雇用の非正規化の進展については、平成15年(非正規の割合:34.6%)から平成19年(同37.8%)にかけてはかなりみられたが、平成22年(同38.7%)にかけては小幅にとどまった。この間、契約社員や嘱託社員といったフルタイム型の非正規の割合の上昇が引き続きみられた一方で、派遣労働者の割合が平成15年に比べ19年には倍増したものの22年ではかなり低下した。派遣の動きは製造業でとくに顕著であり、前半における増加は製造業務派遣の解禁を、後半の減少はリーマンショック後の縮小をそれぞれ反映していると考えられる。
  2. 事業所が非正規を活用する理由については、契約社員は「専門業務への対応」や「即戦力の人材確保」など、派遣労働者は「即戦力の人材確保」や「景気変動の雇用量調整」など、パートタイム労働者(以下「パート」という。)は「賃金やその他の労務コスト節約」、「日や週の中の繁閑対応」などを挙げる事業所が多く、その順位にもあまり変化はないが、平成19年には派遣労働者で「正社員を確保難」、パートで「長い営業時間」が上位に来ていた。景気拡大期においては、労務コストや雇用調整といった理由のほか形態特有の就業態様に基づく理由がより前面に出る傾向が垣間見られた。
  3. 非正規雇用者の形態ごとの年齢構成については、契約社員や嘱託社員で60歳以上の比率が上昇している。事業所の高年齢者雇用対応の増大を反映していると考えられる。派遣労働者では、20歳代の比率が低下傾向にある一方、30歳代や40歳代の比率に上昇傾向がみられる。派遣で働く人々の年齢の高まりが窺われる。
  4. 非正規雇用者が現在の形態を選択した理由については、フルタイム型の非正規では「正社員としての雇用機会がなかった」を挙げる比率が高いが、それ以外には「専門的な資格・技能の活用」が多く、また、女性では「家計の補助」を挙げる比率も高い。一方、パートでは、「自分の都合のよい時間に働ける」の比率が高い。
  5. 職業生活全体の満足度については、平成15年から19年にかけて低下し、22年にかけては横ばいないし上昇のパターンが総じてみられている。なお、正社員の満足度はこの間上昇傾向にあった(図表1参照)。

図表1 職業生活全体満足度(D.I.)の推移

図表1画像

 (注) 「満足度D.I.」とは、「満足」及び「やや満足」と回答した割合から「不満」及び「やや不満」と回答した割合を差し引いたものである(%)。

(テーマ別分析/雇用継続措置導入を背景とした60歳代前半層の嘱託社員の動向)
  1. 平成15年から同19年への変化に比べ同19年から同22年への変化において、55~59歳の正社員から60~64歳の嘱託社員への転換の程度が大きくなっているとみられ、そうした傾向は契約社員への転換でもみられる。なお、パートへの転換は減少している。また、60~64歳層の嘱託社員は、他の形態よりも満足度も相対的に高い。高年齢者雇用安定法による雇用確保措置の導入を背景として60~64歳層の雇用継続はほぼ成功裏に行われたといえる。一方、60~64歳層の嘱託社員における経年変化では、満足度はやや低下しているといえる。雇用継続に当たって、賃金面の調整は行われたものの、その他の就業条件や就業環境は先行的に実施されていた制度がほぼ踏襲されており、大きな変化は生じなかったことに起因するところが大きいことが窺われる。今後は、仕事の内容や労働時間などの就業条件・環境面でも所要の対応が求められる部分もあるといえる。また、賃金面の調整についても、一定水準の確保は必要となろう(図表2参照)。

図表2 60~64歳層男性嘱託社員の賃金額と「賃金」満足度スコア(平成22年調査)

図表2画像

(注) 「満足度スコア」とは、「満足」=2点、「やや満足」=1点、「どちらともいえない」=0点、「やや不満」=−1点、「不満」=−2点とそれぞれ点数を与えて、無回答を除いて平均をとったものである。

平成22年データによる。以下の図表で調査年の記載がないものは、平成22年データによるものである。

(テーマ別分析/パート労働法の改正施行を背景としたパートの動向)
  1. 改正「パート労働法」の施行を背景として、パートに対して福利厚生施設等の利用や能力開発関係を中心に制度適用に相当の進展がみられ、正社員への登用制度の普及も進んでいる。また、均等・均衡待遇に関しても、一定程度の改善がみられている。その一方で、正社員とパートとの「職務分離」とみられる動きも窺われ、「正社員を重要業務に特化するため」を理由にパートを活用している事業所では、正社員との賃金格差が平成15年の74.0から同22年には73.5へやや拡大していると試算された。また、フルタイム型の非正規雇用である契約社員の活用が進む中で、パートの比較対照の「通常の労働者」として契約社員を捉えているのではないかとみられる動きもみられる(図表3参照)。

図表3 正社員、契約社員と比べたパートタイム労働者の平均賃金(時間当たり換算)の水準(女性、20~59歳)

①正社員とパートがいて契約社員のいない事業所(正社員=100)

図表3(1) 画像

②正社員、契約社員、パートいずれもいる事業所(正社員=100)

図表3(2) 画像

③正社員、契約社員、パートいずれもいる事業所(契約社員=100)

図表3(3) 画像

(テーマ別分析/製造業務派遣解禁とリーマンショックとを背景とした製造業務派遣の動向)
  1. 製造業務派遣の解禁は、折からの輸出主導型の景気回復を背景として、高卒男性、さらにはその若年層を中心として、量的に拡大した雇用機会を提供した。賃金面でも、非正規雇用形態で「物の製造業務」に就く場合において、パートや臨時的雇用者(=短期のアルバイト就業)に比べれば、それを上回るものであった。しかしながら、正社員の雇用機会がないことから非自発的に派遣労働形態を選択した層が多く、正社員との比較において相対的に劣位にあることはもとより、契約社員と比べても賃金が見劣りする状況となり、労働時間も相対的に長いなど、質的な就業条件・環境には納得感ないし満足感が得られにくいものであった(図表4参照)。また、提供された「物の製造業務」の仕事には、簡単で責任の小さい仕事である場合もみられ、キャリア形成に展望を持ちにくいものであったことも推測された。とはいえ、リーマンショック以降、製造業務派遣の雇用は大きく縮小したが、平成22年においては満足度も回復してきており、その雇用には一定の平準化といってよい状況も窺われる。

図表4 「物の製造業務」従事者の満足度スコアの推移(男性)―職業生活全体―

図表4画像

(注) 現在在学中の人を除いた集計である。

(テーマ別分析/正社員・パート間の賃金格差分析)
  1. 賃金関数を推計することによりパートの賃金に関して分析し、次のような結果が得られた。正社員とパートとの賃金格差は、両者の労働時間の長さの差は当然として、年齢とともに賃金が増加する賃金増加率の差、勤続年数の差、昇進・昇格制度をはじめとした各種制度の適用割合の差などが大きな要因となっていることが示された(図表5参照)。個人属性に関する差異の中でも勤続年数の違いが大きな要因となっている。仕事の内容・やりがい、会社の教育訓練・能力開発のあり方、正社員との人間関係などの不満が高まると、女性パートは別の会社で働きたいという確率が高まることも析出されており、女性パートの勤続年数を延ばすためには、こうした不満を解消する取り組みが重要であるといえる。

図表5 賃金関数によりみた正社員とパートタイム労働者との賃金格差の要因(女性)

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(注) 「係数の差に基づく格差」とは、事業所における正社員・パート間の賃金制度や評価の違いに基づく格差を示し、「個人属性の差に基づく格差」とは、正社員とパートそれぞれにおける平均的な属性の違い(年齢の違い、勤続年数の違い、など)に基づく格差を示す。

(テーマ別分析/事業所の活用理由の違いを背景とした有期契約労働者の就業実態と意識)
  1. 有期契約労働者の就業実態や満足度に対して、事業所の活用理由がどのような影響を与えているのかについて分析し、次のような結果が得られた。「専門的業務」を理由として活用している場合、雇用の安定性や賃金、定着性が高く、総じて満足度も高い。また、「即戦力」を理由としている場合、雇用の安定性や賃金は高いが定着性は低く、「仕事の内容・やりがい」の満足度が高い。これらの理由は総じてプラスの方向に働いているといえる。一方、「賃金節約」を理由としている場合、定着性は高いが、賃金は低く、満足度は多くの項目において低くなっている。また、「臨時・季節的」を理由としている場合、雇用の安定性、賃金、定着性いずれも低く、「福利厚生」、「教育訓練・能力開発のあり方」の満足度が低い。これらの理由は総じてマイナスの方向に働いているといえる(図表6参照)。

図表6 有期契約労働者の活用理由がその就業実態や満足度に与える影響に関する回帰分析結果のまとめ

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(注) +++は正に0.1%水準有意、++は正に1%水準有意、+は正に5%水準有意、---は負に0.1%水準有意、--は負に1%水準有意、-は負に5%水準有意であることを示す。

(テーマ別分析/労働時間の増加を希望する非正規雇用者の実態と要因−「隠れた失業」)
  1. 非正規雇用者をめぐる不本意性の一つとして「不完全就業」を取り上げ、追加就業を希望する短時間就業者の実態と要因を分析し、次のような結果が得られた。夫のいる女性は、現在の労働時間を増やすことは望まない傾向があるが、子どもがいると週35時間を超えない範囲で労働時間を増やすことを望む傾向が高くなる。また、40歳以上の女性の場合、家計の担い手(生計維持者)は、労働時間を増やすことを望む傾向がある。40歳以上の無配偶の女性は、フルタイム就業を望んでいながら不本意に短時間就業(非自発的パート就業)を行っている可能性が高いといえる(図表7参照)。このほか、不完全就業者は、総じて満足度が低くなっていることが示された。

図表7 不完全就業となる傾向に関する分析結果のまとめ(女性)(主な要因のみ掲示)

図表7画像

(注)1.「+」と「-」はそれぞれ正、負の影響を示す。また、「40前」と「40後」はそれぞれ40歳未満層、40歳以上層に有意な影響があることを示す。

2.「不完全就業者」とは、現在よりも労働時間を増やすことを希望している週35時間未満の就業者をいい、「その他の不完全就業者」は希望する週の労働時間が35時間未満の範囲内の人、「非自発的パート就業者」とはそれが35時間以上の人と定義している。

(テーマ別分析/社会保険等各種制度適用が非正規雇用に与える影響)
  1. 事業所における非正規の各形態の比率について、社会保険等の各種制度の適用の有無によってどのような違いがみられるかを分析し、様々な結果が得られた。平成22年調査を用いた分析結果によれば、例えば雇用保険制度をパートタイム労働者に適用している事業所は、パートタイム労働者比率が高く、将来も同比率を高めることが見込まれる。また、契約・嘱託社員へ厚生年金を適用する事業所ほどこれらの労働者比率が高く、将来もこれらの比率を高めると見込まれることからも窺えるように、フルタイム、あるいはそれに準ずる労働時間の非正規雇用者については、社会保険の適用による労働コスト増から雇用量を減らすのではなく、適切に社会保険を負担して活用するという結果になった。社会保険の適用による労働コスト増が、必ずしも将来の非正規雇用者比率を下げるとは限らないといえる。また、非正規雇用者に社内教育訓練制度を適用する事業所は、その比率が現状で相対的に高く、将来も同比率を高めると見込まれる。一方、自己啓発活動に対する援助制度を適用する事業所は、現状では正社員比率が高く、非正規雇用比率は低い。したがって、非正規雇用者比率を高めようとする事業所は、教育訓練制度は適用するものの、自己啓発援助制度までは適用しない傾向にあるといえる、などである(図表8参照)。

図表8 適用される雇用関連制度がそれぞれの形態の労働者比率及びその増減(過去・今後)に及ぼす影響分析結果のまとめ(平成22年調査)

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(注) 正負記号の表示のある箇所は統計上有意な結果が計測されたところであり、「+」は増加の、「−」は減少の効果を持つことを示している。

政策的インプリケーション

  1. この研究の眼目の一つは、代表性のしっかりした政府統計データの特別集計を通じて、この間における非正規雇用の動向を再確認することである。近年のように非正規雇用が一般化ないし普遍化した段階においては、非正規形態の従業員を量的に活用するだけの単なる「コスト・カット」の時期は過ぎ、正規雇用の社員と非正規形態の従業員とを問わず、どのようにその能力を高めて引き出し、企業の業績につなげ、それを従業員の処遇にも適切に反映させていくかが重要な時期となっているといえる。
  2. 例えば、高年齢者の当面の雇用継続が多くの場合「嘱託社員」という形態において実現されたが、今後は賃金調整だけではなく労働時間をはじめ就業条件・環境の整備が課題となるであろうこと、パートタイム労働者の均等・均衡待遇(処遇)を推進する際において正社員との業務分離の動きや契約社員等のフルタイム型の非正規形態との照応により対応しようとしている動きが示唆され、所要の考え方の整理の検討が求められること、派遣労働については製造業務派遣における就業環境の整備が課題であるとともに、いわゆる請負労働を含めた広範な非正規形態との連関を考慮する必要があることなど、近年のトピックスを受けた個々の形態における政策課題を指摘できる。
  3. 非正規雇用に関する政策推進に当たっては、所定の視点からセグメントに分けて課題を整理することが重要である。これまで、パート型とフルタイム型との区分、いわゆる非自発的就業といった区分軸が示されてきているが、それとともに、事業所側の活用理由による区分や従業員側の家族構成や生計維持者かどうかによる区分の重要性もあらためて確認できた。
  4. 社会保険をはじめとする各種制度の適用が非正規の雇用に及ぼす影響については、コスト論だけで想定されるような単純なものではないことが確認された。関係者の対応意識なども含め、的確な実態把握が求められる。
  5. 今回の研究から直接に導き出されるものでは必ずしもないが、労働政策の検討に当たっては働き方の多様化を念頭に置くことが必要であること、労使のコミュニケーションを通じて正規と非正規とを通じた企業における雇用・就業ルールが決定されることの重要性などが指摘できる。

政策への貢献

この研究の目的は、代表性のしっかりした政府統計データの特別集計を通じて、この間における非正規雇用の動向を把握し、関連する政策の検討に資する基礎的データを提供するとともに、分析を通じた政策課題を提示することである。この目的・趣旨に応じた活用を期待したい。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「正規・非正規の多様な働き方に関する調査研究」

研究期間

平成24年度~25年度

執筆担当者

浅尾 裕
労働政策研究・研修機構 労働政策研究所長
藤本 隆史
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
堀 春彦
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
高橋 康二
労働政策研究・研修機構 研究員
李 青雅
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー
中野 諭
労働政策研究・研修機構 研究員

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