なぜアメリカの労働者はストライキをするのか(そして勝つのか)?

  • カテゴリー:労使関係
  • フォーカス:2023年12月
ステフェンJシルヴィア氏

ステフェン J シルヴィア
(Prof. Stephen J. Silvia, PhD)
アメリカン大学国際関係学部教授

労働政策研究・研修機構(JILPT)は2023年11月29日、アメリカン大学(ワシントンD.C.)のステフェン・シルヴィア教授を講師に迎え、「なぜアメリカの労働者はストライキをするのか(そして勝つのか)?」と題する国際研究会を開催した。シルヴィア教授は1990年にイエール大学で政治学の博士号を取得後、フランスやドイツでの滞在研究を経て、アメリカン大学で教鞭を執っている。本研究会では、豊富な労働経済データとともに、ストライキ増加の要因を6つの角度から説明した。以下にその概要を紹介する。

配布資料(英語) Why are American Workers Striking (and Winning)?(PDF:2.20MB)

逼迫した労働市場

アメリカでは、コロナ後にストライキが急増している。

その要因を探ると主に6つの要因が見えてくる。まず1つは、「労働市場の逼迫」だ。ご承知の通り、アメリカは、コロナ期に失業率が急増し、その後、労働市場が大きく逼迫し、人手不足の状態となった。これがストライキ増加の背景の1つとなっている。ただし、同様に労働市場が逼迫していた2000年代前半やコロナ前には、現在ほどのストライキの増加はみられない。したがって、労働市場の逼迫だけがストライキ増加の要因というわけではない。

なお、BLS(労働統計局)が発表する「大規模ストライキの件数(千人以上の参加労働者数)」だけを見ると、ストライキの急増ぶりは読み取れない。しかし、ストライキへの「参加労働者数」と「労働損失日数」を見ると、明らかに2022年から2023年にかけて大きく増加していることが分かる。労使関係・労働争議に関する専門家の間では、BLSが発表する統計だけでは、実際のストライキの現状を把握できないのではないかという疑問が以前からあった。そのため、2021年からコーネル大学の労使関係研究所において、AIを活用してインターネット上の全てストライキの情報を収集・分析し、独自のデータ新しいウィンドウ公開を始めた。開始から2年しか経っていないが、すでにBLSの公表数値との乖離が見られ、今後、データ公開が続けば関心が高くなるのではないかと考えている。

JILPT関連報道:アメリカ国別トピック 2023年4月

コロナの影響

アメリカでは、2021年半ばから「大量離職(Great Resignation)」や「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる現象が注目を集めている。特に退職者数の推移を見ると、金融危機後も横ばいだった数値が、コロナ後に大きく増加している。もちろん、コロナで命を落としたり、満足に働けなくなった人もいたかもしれないが、最も言われているのは、引き続き勤続することで会社ロイヤリティ(忠誠心)を示す人が減り、会社に対する不満を辞めることで表現する人が増えたのではないかということである。

アメリカの民間労働者の労働組合組織率は6%程度で、労働組合員であればストライキを通じて、その不満の声を上げ、労働条件を改善することができるが、大多数の労働者はそうした手段を持たない。それが、このような大量離職につながり、ストライキ増加の要因の1つになっている可能性がある。

新たな労働組合指導者の登場

近年、労働組合の指導者が相次いで交代し(アメリカでは労働組合指導者が辞める割合が高くなっている)、新しい指導者が誕生している。例えば、全米自動車労組(UAW)のショーン・フェイン会長、俳優組合・全米テレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG―AFTRA)のフラン・ドレシャー会長、全米トラック運転手組合(チームスターズ)のショーン・M・オブライエン会長などである。UAWもSAG-AFTRAも11月、ストライキによって、大きな勝利を収めたことが国内外で大々的に報道されているのでご存じの方も多いかもしれない。また、チームスターズのオブライエン会長は、アメリカ史上最大のストライキを回避した交渉手腕と大幅な賃金引き上げと労働条件の改善を勝ち取ったことで注目を集めている。まだ他にもいるが、こうした新しい労働指導者の存在が、ストライキの増加や勝利に大きく関係している。

JILPT関連報道:アメリカ国別トピック 2023年11月

連邦レベルでの政治的支援

ストライキ増加を後押ししているもう1つの要因に、2021年1月に第46代米国大統領に就任した民主党のジョー・バイデン大統領の存在がある。バイデン大統領は、これまでのどの大統領よりも労働組合を支援する大統領である(個人的には、フランクリン・ルーズベルト大統領を超えると考えている)。彼はこれまでに、労働者の組織化と権限強化に関するタスクフォースの設置や、インフレ削減法(IRA)を成立させ、電気自動車(EV)への移行を促すため、大規模な財政支援を行っている。IRAでは一定の賃金水準を満たすことを支援の条件とする形で、UAWのストライキを間接的に支援している(UAWはこの政策を逆手にとって、自動車会社との賃金引き上げの交渉を有利に進めた)。こうした政策は、米国内にある外資系自動車メーカー(テスラ、ドイツや日本の自動車メーカーなど)にも影響を与えている。また、現役の大統領として、初めてUAWのストライキの現場に直接足を運び、その支持を表明した。アマゾンやスターバックスの労働者代表をホワイトハウスに招待して激励したりもしている。

JILPT関連報道:アメリカ国別トピック 2022年4月

このほか、全国労働関係委員会(NLRB)のトップを含めた判事の刷新をした。これにより労使紛争については、労働組合や労働者にとってプラスになる判断が出されるようになっている。

インフレの高まり

コロナ後の急激なインフレの進行は、大幅な賃金引き上げを求めるストライキの増加の大きな理由の1つである。

今回示したデータは、連邦準備制度理事会の比較的保守的なデータであるが、これまでに説明した4つの要因がなかったとしても、急激なインフレによるストライキの増加は説明できるかもしれない。

ストライキの波

最後に、ストライキの波について説明したい。これは、早期に起きたストライキの成功がほかのストライキを誘発するということである。国内外で注目を集めたUAWのストライキと大きな成功(4年半で25%賃上げ)は、チームスターズとUPSの交渉やハリウッドにおけるストライキの交渉など、その他へも波及している。複数の大学でもストライキが行われており、この流れは、インフレが落ち着き、物価が下がった後でも続いている。

小括

ストライキ急増の6つの要因は以上のとおりであるが、最後にその影響について私見を述べる。1つ目として、ストライキによる賃上げの影響は、労働組合がない産業や企業にも波及した。例えば、FEDEXで賃上げがされたり、アメリカ国内の日本やドイツの自動車メーカー、テスラなどでも大きく賃金が引き上げられたりした。しかし、これまでのところ、労働市場全体で見れば、実質賃金の急増とはなっておらず、ストライキの効果やその波及状況を評価するのは時期尚早である。2つ目として、こうした流れに乗って、労働者をもっと組織化すべきだという機運はあるが、今後組織化の波は続くのか、については若干疑念がある。例えば、2年前にスターバックスやアマゾン等で労働組合が結成されたが、未だに団体交渉による労働協約は締結されていない。その意味で、アメリカにおける労働組合の組織化、労使交渉には大きなハードルがある。

JILPT関連報道:アメリカ国別トピック 2022年4月、7月

講師プロフィール

写真:ステフェン・J・シルヴィア氏

ステフェン・J・シルヴィア(Prof. Stephen J. Silvia, PhD.)
アメリカン大学国際関係学部教授

コーネル大学労使関係学士号、イエール大学政治学博士取得。アメリカとドイツを中心に、国際比較労使関係、国際比較経済政策を中心に研究。

現在はアメリカン大学で、国際経済学、国際関係論、比較政治学等を教えている。著書に「The UAW’s Southern Gamble: Organizing Workers at Foreign-Owned Vehicle Plants. Ithaca, N.Y.: Cornell University Press, 2023」等がある。

(英語プロフィール)https://www.american.edu/sis/faculty/ssilvia.cfm新しいウィンドウ

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