労働時間と働き方:EU
労働時間政策とワーク・ライフ・バランス

1. EU労働時間指令

現行のEU労働時間指令は、1993年に制定され、2000年に改正された。指令は、1)24時間につき最低連続11時間の休息期間を付与、2)6時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定)、3)7日毎に最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与、4)1週間の労働時間について、時間外労働を含め、平均週48時間以内の上限を設定(算定期間は4カ月)、5)最低4週間の年次有給休暇を付与――などを内容としている。また、週48時間労働の特例規定(オプト・アウト)を設け、使用者があらかじめ労働者個人の同意を得ている場合には、4カ月平均週48時間を超えて労働させることができるとした(イギリス、マルタなどが活用)。

欧州委員会は、2004年9月、1)週48時間労働制の適用除外要件の厳格化、2)待機時間に関する新定義の導入、3)代償休息期間の付与期限の設定――の3点を主な内容とする労働時間指令の改正案を発表した。

改正案は、平均週労働時間の上限を、時間外労働を含め48時間とする規定を維持した。また、平均週労働時間の算定基礎期間を最長4カ月とする現行規定を据え置いたが、加盟国は国内法によりこの最長期間を1年まで延長できることとした。ただし、最長期間の延長には事前のソーシャル・パートナーとの協議が必要。

労働時間の上限規制については、現行指令の特例規定で労働者個人の同意があれば可能とされている適用除外を、中央・地方・産業別労使の団体協約等による合意が必要とした。ただし、労働組合や従業員代表組織がなく団体交渉が行われていない事業所については、労働者個人の同意のみで可能とされた。また、労働者個人の同意には、1)書面によること、2)労働契約締結時や試用期間中の同意は無効、3)適用除外の有効期間は1年以内(更新可能)、4)団体協約で規定されていない限り、いかなる場合も週65時間を超えて労働させてはならないこと、5)使用者は労働者の勤務時間を記録し、監督当局の要請により開示する義務があること―等のより厳格な条件が課せられた。

欧州委員会はまた、労働時間と休憩時間の間に位置する「待機時間(On-call time)」という新たな概念を導入した。待機時間は「労働者が職場において、使用者の要請があった場合に職務を遂行できる状態で待機している義務を負っている時間」と定義され、待機時間のうち実際に仕事をしていない「不活性待機時間(Inactive parts of on-call time)」は、労働時間に含めなくとも良いとされた。ただし、加盟国は国内法や団体協約において規定した場合には、不活性待機時間を労働時間に算入することができる。

休息期間と週休について、現行指令は同等の代償休息期間が与えられることを条件にその適用除外を認めているが、改正案は、新たにこの代償休息期間を72時間以内に与えなければならないと規定した。

改正案の発表後、雇用社会問題相理事会において数度に渡りこの問題に関する討議が行われたが、加盟国間で大きな意見の相違があり、合意に達しなかった。

2005年5月、欧州議会(European Parliament)は、欧州委員会の労働時間指令改正案に関する第一読会において討議を行い、いくつかの修正を加えた改正案を5月11日に採択した。主な修正点は、1)週48時間労働制(時間外労働を含む)の特例規定(オプト・アウト)を3年間で徐々に廃止、2)「不活性待機時間」は労働時間に算入、3)週48時間労働制の算定期間を4カ月から1年に延長する際の条件をより詳細に規定――などである。

欧州議会は、特例規定について、「制限のない労働時間制は、労働者の健康と安全だけでなく、仕事と家庭の両立に深刻な危険を及ぼす」として、労働時間の柔軟化に反対している。欧州議会の修正案が正式に成立するためには、雇用社会問題相理事会の承認を得る必要がある。

欧州労連(ETUC)は欧州議会の決定を歓迎し、「理事会と欧州委員会に対し、今が特例規定に終止符を打つべき時であるとの明確なメッセージを送った」と評価した。欧州産業経営者連盟(UNICE)は、労働時間の柔軟性を縮小させる改正案の修正は、欧州の「成長と雇用」を促進するためのリスボン戦略に反するものであるとして、落胆を示した。とりわけ、週48時間労働制の特例規定の廃止に強く反対し、団体交渉もしくは本人同意に基づく適用除外を明確に規定すべきであると主張した。

従来からこの適用除外を広く活用してきたイギリスは、ブレア首相が「世界の新興経済との競争に直面している欧州経済には、柔軟性を諦める余裕などないはずだ」とし、特例規定の廃止に全く同意できない旨を表明した。

欧州委員会は、欧州議会の修正案に基づき、指令の改正案を修正することもできるが、シュビドラ雇用社会問題担当委員は、特例規定の廃止に反対を表明した。

雇用社会問題相理事会は、欧州議会の修正案を踏まえ、理事会としての案の取りまとめを行う。理事会が欧州議会の修正案を全て認めない限り、指令の成立には今後さらにかなりの期間を要することが予想される。

2. 労働時間の実態

欧州生活労働条件改善財団(European Foundation for the improvement of Living and Working Conditions) が2004年7月に発表したレポート「欧州の労働時間(Working time in Europe)」によると、2001年のEU15カ国の週平均労働時間は、フルタイム雇用者41.6時間、パートタイム雇用者19.7時間であった。フルタイム雇用者の週平均労働時間は、男性が女性より2~3時間上回っており、アイルランドとイギリスにおいてはその差が5時間を超えている。EU15カ国のフルタイム雇用者の週平均労働時間は、1997年~2002年にかけて30分減少し、自営業者については1時間減少した。

2004年5月EUに新規加盟した10カ国のフルタイム雇用者の週平均労働時間は、EU15カ国平均を1~4時間上回っている。新規加盟10カ国及び加盟候補3カ国(ブルガリア、ルーマニア、トルコ)においては、フルタイム雇用者の大多数が週40時間以上働いており、その5~10%は週48時間以上働いている。EU15カ国において週48時間以上働いているフルタイム雇用者は5%以下であるが、イギリスはその数字が20%を超えている。

EU15カ国のフルタイム雇用者のうち、男性の18%、女性の13%が時間外労働をしている。パートタイム雇用者については、男性の8%、女性の10%が時間外労働をしている。新規加盟国においては、時間外労働があまり一般的ではない。オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、イギリスでは、時間外労働する労働者の半分以上に対して、時間外労働手当が支払われていない。時間外労働するフルタイム雇用者のうち、女性の3分の1、男性の半数が時間外労働手当を受給しており、時間外労働手当の支払いに男女間格差が認められる。

始業・終業時間が固定された勤務時間制の割合が75%以上と依然として主流であり、とりわけ南欧や新規加盟国で顕著となっている。しかし、フランス、ドイツ、アイルランド、イギリスでは、雇用者の半数以上が何らかのフレックスタイム制の適用を受けている。フランス、アイルランドでは、20%以上の雇用者が自ら労働時間を決めることができる。EU15カ国平均では、雇用者の20%が何らかのフレックスタイム制(労働時間口座など)の適用を受けている。フレックスタイム制は、標準的な週労働時間で働く労働者、男性、高技能労働者、マニュアルに基づかない労働者などにより多く普及している。EU15カ国の雇用者の1.4%は雇用保障がなく、使用者からの呼び出しに短時間で応じなければならない待機労働に従事しており、労働時間の弾力化が労働者に好まれない場合もある。

3. ワーク・ライフ・バランス

欧州生活労働条件改善財団の調査によると、団体交渉で合意されたEU15カ国及びノルウェーの平均週労働時間は、1999年~2003年の間に38.6時間から38.0時間に減少した。イギリスでは、同期間に労使合意による平均週労働時間が1時間(2.5~3.0%)減少した。

しかし、過去10年間に労働強度が急激に上昇し、緩和される兆しも見えない。多くの人々がより短い時間でより速く働くようになり、欧州労働者の半数以上が非常に早い速度で厳しい締め切りに追われながら働いている状況が益々顕著となっている。欧州労働者の3人に1人が仕事にかかわる背中の痛みを訴えている。およそ2人に1人が苦痛や疲労を伴う姿勢での仕事を強いられている。調査に回答した欧州の労働者は、より柔軟な労働時間を好み、政府やソーシャル・パートナーの努力によってそれが実現することを望んでいる。

調査は、1)欧州の雇用者の半数が、平均で約10%労働時間を減らしたいと希望している、2)雇用者の20%以上が報酬なしでも3カ月間のサバティカル休暇を選択する、3)フルタイム雇用者の14%が、パートタイム雇用者への転向を目指したことがある、4)女性高齢労働者の40%が家族介護のための退職を考慮している、5)労働力人口の10~15%が生涯労働時間を減少させたいと希望している――などの結果を示した。

欧州におけるフレックスタイム制の導入率は、1988年の25%から1998年には29%に上昇した。フレックスタイム制は、高齢者よりも若年者に多く適用されている。

欧州生活労働条件改善財団は、ワーク・ライフ・バランス政策は、企業にとっては生産性と競争力の向上、労働者にとっては仕事の質の改善、職業訓練・能力開発へのアクセスの面で、大きな利益をもたらす顕著な証拠が見られるとしている。調査は、労働条件の改善、個人生活の充実、職業訓練やボランティアへのアクセスの向上のために、労働時間を生涯全般に渡って再配分できるよう、政策担当者が新しい時間と所得の選択肢を改善または創造していくべきである、と提案している。また、もし退職年齢が引き上げられ、職業生活が延長されるなら、政策担当者は、その代償として、人生でストレスを受けやすい期間により多くの有給休暇が取得できるよう保証すべきであると主張する。また、職業生活を通じた新しい労働時間の設定を可能にしていくためには、新しい社会保障制度の構築が不可欠であるとしている。

参考:

  1. 濱口桂一郎「EU労働時間指令の改正案とその影響」(世界の労働2004年10月)
  2. 欧州議会:ウェブサイト新しいウィンドウへ
  3. 欧州生活労働条件改善財団ウェブサイト[1]新しいウィンドウへ
  4. 欧州生活労働条件改善財団ウェブサイト[2] 新しいウィンドウへ

2005年5月 フォーカス: 労働時間と働き方

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