法定最低賃金の引上げ率、団体協約賃金を上回る
 ―IAB分析

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  • 国別労働トピック:2024年1月

ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)(注1)の分析によると、最低賃金が導入された2015年1月から23年9月までに、最賃は41.2%引上げられた一方で、団体協約賃金は21.7%に留まり、最賃上昇率が19.5ポイント上回っていた。さらに、近年の急な物価上昇は、最賃と団体協約賃金の購買力を著しく低下させたものの、22年の3回の改定による最賃の大幅な引上げは、その購買力低下を相殺する以上のものであったことも判明した。以下にその概要を紹介する。

最低賃金、22年は3回の改定で25.6%増

最低賃金は、2015年導入以降、2年毎(2016年、18年、20年)に最低賃金委員会(労使学で構成)の勧告を受けて、引上げられてきた。コロナ禍の20年6月30日には、「21年から2年かけて半年ごとに4段階の引上げ(21年1月に9.50ユーロ、7月に9.60ユーロ、22年1月に 9.82ユーロ、7月に10.45ユーロ)」という勧告が出され、それをもとに政府が引上げを行った。22年は、このほかに最低賃金委員会の勧告を経ずに、政治主導による引上げ(10月1日から時給12ユーロ)が行われ、1年で計25.6%引上げられた(図表1)。

なお、直近では最低賃金委員会が23年6月26日に、24年と25年の二段階に分けて、それぞれ時給12.41ユーロと12.82ユーロに引き上げる勧告を発表し、2025年までの改定額がすでに決まっている。

図表1:法定最低賃金(時給)の推移(2015年~2025年)
画像:図表1

注:22年10月の引上げのみ、最低賃金委員会の勧告を経ずに政府主導による法案審議によって引上げられた。

出所:政府広報をもとに作成。

この2025年まで確定している最低賃金を、2015年1月を100とした指数で表記した場合、図表2の通りになる。これに団体協約指数と消費者物価指数を重ねてみると、2022年の最低賃金の引上げがいかに高いものであったか分かる。

図表2:最低賃金、団体協約賃金、消費者物価指数の推移(2015年=100)
画像:図表2
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出所:IAB(2023).

さらに、同じく2015年1月を100として、「2015年1月から2022年1月まで」と、「2022年1月から2023年9月まで」の2期に色分けして、最低賃金、団体協約賃金、消費者物価指数の変化率を示してみると、図表3になる。

図表3:最低賃金、団体協約賃金、消費者物価指数の変化率(2015年1月=100)
画像:図表3

出所:IAB(2023).

名目ベースでは、それぞれ最低賃金が41.2ポイント、団体協約賃金が21.7ポイント、消費者物価指数が26.5ポイント増えている。しかし、実質ベースで見ると、最低賃金が11.6ポイント増となる反面、団体協約はマイナス3.8%ポイントに落ち込むことが分かる。

IABの分析と結論

通常、最低賃金の改定の検討にあたっては、最低賃金法(MiLoG)9条に基づき、①労働者の必要最低限の生活を保障する額であること、②公正で機能的な条件の競争力を維持できる額であること、③雇用危機を招かない額であること(雇用確保)、④協約賃金の動向に従うこと、の4点を考慮した総合的な評価を行うことが定められているが、この中で、最も重視されてきたのは、「④協約賃金の動向(上昇率)」である。④を重視する理由として最低賃金委員会は、「労働協約当事者(労使)は、協約締結時に労働者の利益や企業競争力の維持、さらに雇用確保なども含む包括的な判断をするからだ」と説明する。

この最低賃金の方針に沿うと、本来であれば、最低賃金と団体協約の上昇率はほぼ同率となるはずであった。しかし、2022年の政治主導による引上げの結果、団体協約の上昇率21.7%に対して、最低賃金の上昇率は41.2%と、ほぼ2倍の差が生じることになった。さらに、近年の物価上昇は、最低賃金と団体協約賃金の購買力を著しく低下させ、実質ベースで団体協約賃金はマイナスに落ち込んだが、最低賃金は、プラスを保っている。したがって、22年の3回の改定による最低賃金の大幅な引上げは、物価高騰(インフレ)による購買力の低下を相殺する以上のものであったと言える。

なお、IABの研究者らが昨年まとめた分析(注2)によると、「2015年の最低賃金の導入とその後の引上げは、2020年まで雇用の引き下げにほとんど影響を与えなかった」と結論付けている。しかし、2022年以降の引上げについては、未だ実証分析が困難なため、「この結論を、政治主導による12ユーロへの引上げ等にも適用して一般化することはできない」として、IABは、同時期の引上げが雇用へ与えた影響に関する結論を保留にしている。

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