第三国の専門技能人材の獲得へ
 ―11月から3段階に分けて制度改正

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2023年11月

第三国(EU域外)の「専門技能人材の移住をさらに促進する法律(注1)」が11月18日に一部施行される。20年3月に施行された「専門技能人材移民法(FachKrEG)」の改正法に当たり、今後、24年3月、同6月の計3段階に分けて制度刷新が行われる。対象外国人の年収要件の引下げや家族帯同要件の緩和、ポイント制等の導入により、積極的な人材獲得を目指す。

労働力不足による生産低下への懸念

近年ドイツでは記録的な労働力不足が続いている。ドイツ商工会議所(DIHK)の23年の調査(注2)によると、対象企業(2.2万社)の半数以上で欠員が埋まらず、このまま200万人近い欠員が補充されない場合、約1,000億ユーロ相当の生産を断念しなければならない。

また、喫緊の問題とは別に、連邦統計局の推計によると、2036年までに団塊世代の1,290万人が法定の年金受給年齢に達する。これは、現在の労働力人口(4,300万人)の3割に相当し、進展する高齢化による将来的な労働力不足についても対策が求められている(注3)

 こうした事情を背景に、ドイツでは近年、既存の受入制度を小刻みに見直している。第三国出身者を対象とした既存制度は、これまでブルーカード(注4)等の高度人材の受入れ促進が中心であったが、近年はより幅広い専門技能人材の受入れ促進へ拡大している。以下に、今回の改正の主な概要を紹介する。

第1段階―2023年11月18日、「保有資格と就労先職業の関連性」の要件を緩和

11月18日から、申請者が保有する職業訓練資格や高等教育資格と関連のない職業であっても、その技能や知識を生かせる職業であれば、就労可能な滞在許可の付与が可能になる。従来は、訓練資格や教育資格に対応した職業のみに限定して認められていた(ただし、医師や弁護士等の規制が厳しい職業については、従来通り保有資格と就労先の関連性が今後も維持される)。

また、EU指令2021/1883(注5)による国内法整備に基づき、原則として高度人材に付与されるEUブルーカード付与のための年収要件が引下げられる。2023年は不足職種(ボトルネック職種)と労働市場への新規参入者(過去3年以内に大学を卒業した者は全職業に適用)については、年収3万9,682ユーロ以上、それ以外の場合は年収4万3,800ユーロ以上になる。また、EUブルーカードの不足職種リスト(注6)も従来から大幅に拡大し、ブルーカード保持者の転職規制も緩和される。また、特に不足しているIT専門家については、大学を卒業していなくても、3年以上の同等の職業経験があることを証明できればEUブルーカードの取得が可能になる(年収要件は年3万9,682ユーロ以上)。

第2段階―2024年3月1日、訓練資格の「事前認定」がなくても就労可能に

これまで、ドイツ国外の職業訓練資格を有する第三国出身者は、原則としてドイツの職業訓練資格との同等性が認められない限り、就労することができなかった(必ず入国前に認定手続きを開始するか、部分認定の通知を受ける必要があった)。24年3月1日からは、当該外国人と雇用主の双方が同等性の認定を得るために積極的に取り組む「認定パートナーシップ」の締結を条件に、事前認定がなくてもドイツ国内での就労が可能になる。「認定パートナーシップ」の基本要件は、雇用契約に加えて、送り出し国における少なくとも2年以上の訓練を必要とする職業訓練資格もしくは教育資格、および欧州言語共通参照枠(CEFR)A2レベルのドイツ語能力である。

また、職業訓練資格の認定措置完了を目的とする一時滞在許可は、これまで最長は計2年だったが、3月1日からは、最長で計3年となり、雇用主はより柔軟な対応が可能になる。また、措置期間中の就労(副業)は、これまでの週10時間から20時間に引き上げられ、これにより専門技能人材候補者が労働市場に参入しやすくなる。

このほか3月からは、本人が配偶者や未成年の子を帯同してドイツに移住する場合の要件となっていた「十分な居住スペースがある」という証明書類が不要になる。さらに、本人の親(要件を満たした場合は配偶者の親も)の帯同も可能になる(これまでは特別な事情がある場合に限って限定的に認められていた)。ただし、これには本人による経済的支援の保証等に加えて、「24年3月1以降に初めてドイツの滞在許可を取得する場合」という条件が設定されている(したがって、過去にドイツに入国してすでに就労している第三国外国人労働者には適用されない)。また、(EUブルーカード付与でなく)、専門技能人材としての滞在許可の付与については、特に不足するIT分野の場合、職業訓練資格や学位、語学力は不問とし、必要な職業経験を3年から2年に短縮することで、当該外国人の労働市場へのアクセスをさらに容易にする。

第3段階―2024年6月1日、求職者に「チャンスカード」を付与

24年6月から第三国出身者のドイツ国内の求職に関して、ポイント制に基づく通称「チャンスカード(Chancenkarte)」という求職機会カードが導入される。チャンスカードは、第三国出身者で国外の職業訓練資格の認定を受けて滞在法18条の専門技能人材と見なされた者には無条件で付与される。それ以外の場合は、ドイツ語(CEFR A1レベル)か英語(CEFR B2レベル)の語学力と、国外の少なくとも2年以上の職業訓練資格か教育資格、または在外ドイツ商行会議所発行の職業訓練資格を証明する書類を提出の上で、6ポイント以上を獲得すれば付与され、ドイツに滞在して求職活動を行うことができるようになる。ポイントとして考慮される要素は、「学位または職業訓練資格」、「一定期間の職業経験」「ドイツ語能力またはドイツ滞在歴(ドイツとのつながり)」「年齢(注7)」「パートナーや配偶者の帯同可能性」などだが、詳細は連邦政府が法規命令で都度定めるとしている。

チャンスカードの期限は最長1年間だが、その間ドイツで自活できることが条件となる(状況に応じて最長2年まで延長可能)。また、ドイツ滞在中は週20時間までの就労が許可される。

また、時限措置である西バルカン諸国(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)出身者に対して、ドイツへの入国と、規制のない職種であれば連邦雇用エージェンシーによる承認を得てドイツへの労働市場アクセスを認める制度―いわゆる「西バルカン・ルール(Westbalkanregelung)」―は、24年6月から年5万人に受入上限数を拡大する(現在は年2.5万人)。この西バルカン諸国出身者の多くは、紛争等により2015年に難民として多数ドイツに入国しており、2016年以降は、合法的な外国人労働力受け入れの手法として頻繁に利用されている(注8)

今回の改正法は、2028年末にレビューを行い、必要に応じてさらなる制度改正が行われる可能性がある。

参考資料

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