女性クオータ法、成立

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年6月

連邦参議院は3月27日、女性クオータ法を承認した。同法の成立に伴い、大手企業108社は、2016年1月から監査役会の女性比率を30%以上とすることが義務付けられる。さらに大手企業3500社には、役員や管理職の女性比率を高めるための自主目標の設定、具体的措置、達成状況に関する報告義務が課される。女性クオータ制は、同時に公的部門にも適用される。

108社に法定義務

成立した「女性クオータ法(Gesetz zur Frauenquote)」の正式名称は、「民間企業及び公的部門の指導的地位における男女平等参加のための法律(Gesetz für die gleichberechtigte Teilhabe von Frauen und Männern an Führungspositionen in der Privatwirtschaft und im öffentlichen Dienst)」で、職場の意思決定に関与する上層部の男女平等参画を推進することで、一般労働者にもその効果を波及させることを目的としている。

今回の件で大きくクローズアップされた「監査役会(Aufsichtsrat)」は、取締役の任免、投資計画、人員計画、賃金の決定等について強い権限を有している。これは、従業員が企業経営の意思決定に参画できる「共同決定」というドイツ特有の制度に由来するもので、例えば従業員2000人超の上場企業では、共同決定法(MitbestG)に基づき、「監査役会」が設置される。監査役会は「株主代表」と「労働者代表」で構成され、その割合が1対1の場合、これを「完全な共同決定」という(注1)。今回、女性クオータ制が導入されるのは、完全な共同決定義務のある上場大手108社で、2016年以降、新たに監査役の委員を選出する場合、女性比率(男性比率も)を最低でも30%以上にする義務が課される。なお、最終的に成立した法律では、株主代表と労働者代表の総数に対して30%以上の比率であれば良いとされた。ただし、委員選出前に、どちらかが異義を申し立てた場合は、別個に30%規定が適用される。なお、女性が十分に選出されなかった場合には、空席を維持しなければならない(空席制裁:Sanktion leerer Stuhl)。

対象企業のうち、ヘンケル(メーカー)、ミュンヘン再保険(保険)、メルク(化学・医薬品メーカー)ではすでに、監査役の女性比率がそれぞれ43.8%、40.0%、37.5%に達している。その一方で、女性の監査役が1人もいないという企業もあり、後者は今回の法案成立で大きな影響を受けると見られている。

約3500社に自主目標

前述の108社以外にも、「上場企業か、従業員500人超の共同決定義務のある約3500社」を対象に、監査役会、取締役会、管理職(上級・中級の二層)における女性比率を高めるための目標値や具体的な取り組み内容を2015年9月末までに設定するよう同法では求めている。目標値の下限は規定されていないが、現状で女性比率が30%未満の場合、現状を上回る目標を設定しなければならない。最初の目標達成期限は2017年6月末で、次の目標設定と達成期限は5年以内とされている。ただし、自主目標を達成できなかった企業への法的制裁は特に設けられていない。

公的部門にも適用

同法は、公務部門や公的関係機関の女性クオータ制についても規定している。

ドイツでは従来から、公務部門における男女平等を推進するために2つの法律が制定されている。「連邦平等法(Bundesgleichstellungsgesetz)」は、連邦の各機関に対して、男女平等計画の策定を義務付けており、女性比率が50%未満の部門における採用や昇進の際に、同一の適性、能力、専門的業績がある場合には、女性を優先的に考慮しなければならない。また、「連邦委員会構成法(Bundesgremienbesetzungsgesetz)」は、連邦の活動に影響を持つ委員選出の際には、可能な限り男性と女性の数が均等になるように定めている。女性クオータ法は、上述の2つの法律を改正することで、より一層の男女平等の促進を図る。具体的には、連邦平等法の改正によって、行政機関、裁判所、連邦直属の公的機関(例:連邦雇用エージェンシー)、公的企業(例:社会保険組織や連邦銀行)に対して、従来の男女平等計画の中で、女性管理職の割合に関する具体的な目標値を階層ごとに定め、目標を達成するための具体的な措置をとることが義務付けられた。さらに連邦委員会構成法の改正によって、連邦が3人以上の委員を指名する監査役会(例:ドイツ鉄道株式会社)においては、2016年1月以降、連邦が指名する委員が男女ともに30%以上となるようにしなければならない。さらに2018年以降は、この比率が50%に引き上げられる(奇数の場合の1人の差は許容)。

背景に従前の政使協定

今回、企業における女性クオータ制を法律で義務化した背景には、2001年に政府と使用者団体が締結した政使協定(注2)が関係している。この協定では、指導的立場の女性比率の引き上げ、男女の機会均等、従業員のワークライフバランス支援などに企業が自主的に取り組むことが規定された。しかし、その後10年以上、指導的立場の女性比率はほとんど上昇せず、「企業の自主性に任せても解決しないという政策当局の判断があった」と、ドイツ経済研究所(DIW)のエルク・ホルスト博士は見ている。同博士は「今回の法定クオータ制の導入によって労働者の働き方や企業文化の変革、経済全体の活性化、社会保障制度の維持など、広範囲にわたる波及効果が期待できる」としている(注3)

DIWの管理職バロメーター調査(Managerinnen-Barometer)によると、2014年時点の上位200社の取締役会、監査役会における女性の割合は、それぞれ5.4%、18.4%に留まっている。

担当大臣は歓迎、経済界は反発

女性クオータ法は、司法・消費者保護省と家族・高齢者・女性・青少年省により共同で提出された。ハイコ・マース司法・消費者保護相は「女性クオータ制の導入は、女性の参政権導入以来の、平等への最大の貢献となるだろう。十分な資格を有した女性がいないという口実は受け付けない。今日非常に高いレベルの教育や訓練を受けた女性が大勢おり、どの監査役会でも空席という事態は起きないと確信している」と述べた上で、「クオータ制は、構造的に様々なレベルの女性の参加を促し、平等な権利へのマイルストーンとなるだろう」と語った。マヌエラ・シュヴェーズィヒ家族・高齢者・女性・青少年相は、「同法は、文化を変えるための始まりである。単なるクオータ以上の意味を持ち、多くの指導的立場の女性が増えることは、依然として大きい男女の賃金格差の改善にもつながる。その意味で賃金の平等にとっても歴史的な1歩と言えるだろう」と述べて、同法の成立を歓迎した。

一方で、経済界の反対は根強い。ドイツ使用者連盟(BDA)は「強制的に女性比率を定めても、根本的な問題解決にはつながらない」と反発している。

ドイチェ・ヴェレ(国際公共放送)のウテ・ヴァルター記者は論説記事で、「女性クオータ法は、企業や社会の文化を変えるかもしれないが、監査役会は取締役会より意思決定力を持たず、比率に満たない場合は空席のままになるため、効果の程度は疑問だ」としている。その上で、「昇進ルールのさらなる透明化、柔軟な労働時間の実施、育児や介護支援の強化、意思決定の中枢である企業の取締役会における女性の進出が重要だ」としている。

参考資料

  • BMJV Pressemitteilung 27.03.2015 Mehr Frauen in Führungspositionen - Bundesrat beschließt Gesetz zur Frauenquote,26.11.2014, 16:06 von Reuters/schu 30 Prozent Frauen: Dax-Konzerne müssen sich Quote verpassen,Deutsche Welle(06.03.2015, 05.03.2015, 11.12.2014, 26.11.2014), Statistisches Bundesamt Pressemitteilung Nr. 099 vom 16.03.2015ほか。

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