インダストリー4.0と労働の未来

カテゴリー:人材育成・職業能力開発

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2015年6月

2010年にドイツが発表した「ハイテク戦略2020」の一環で実施されているプロジェクト「インダストリー4.0」が内外の注目を集めている。製造分野のイノベーションを進め、第4次産業革命をもたらそうとするこの計画は、新たなテクノロジーの活用に対応できる人材の育成や労働市場におけるマッチングが成否の鍵を握ると見られている。

多様なステークホルダーが参加

ドイツは2006年に初の科学技術イノベーション計画、「ハイテク戦略」を策定したが、これが2010年に発表された「ハイテク戦略2020」に引き継がれている。同戦略として複数あるプロジェクトの1つが「インダストリー4.0」である。

2006年に設置された政府諮問機関の「研究連合(Forschungsunion)」が中心になり、その後「ドイツ工学アカデミー(acatech)」等が加わって主な方針が策定され、2011年末にインダストリー4.0のプラットフォームが組織された(図1)。

なお、「研究連合」は、企業、大学、研究機関の著名な代表者28人で構成されている。「ドイツ工学アカデミー」は科学技術の専門家らが中心となって、政策立案者に対して技術的な評価や将来を見通した提案などを行う非営利組織である。

図1:インダストリー4.0の組織図
図1:インダストリー4.0の組織図

インダストリー4.0には、連邦教育研究省(BMBF)、連邦経済エネルギー省(BMWi)などの主務省庁のほか、ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)、ドイツ機械工業連盟(VDMA)、ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)の3つの業界団体、各企業、大学や研究機関、労働組合などの様々なステークホルダー(関係者)が参加している。産官学と労働組合が協力することで、「従来の単純労働から労働者を解放し、より質の高い労働内容にシフトするための体制を目指す」点が特徴として挙げられる。

インダストリー4.0は、主にドイツ国内で実施されているが、欧州委員会の「欧州戦略2020(注1)」ともリンクしており、今後の進展状況によっては、EUレベルのプロジェクトに格上げされる可能性もある。

スマート工場構想

インダストリー4.0は、インターネット(例:ビックデータ)を徹底活用することで飛躍的な生産の効率化を進め、第4次産業革命を起こそうとするものである。

第1次産業革命は18世紀後半の「蒸気機関の発明による自動化」、第2次産業革命は20世紀初頭の「電動化と分業化」、第3次産業革命は「20世紀後半の電子制御による自動化」、そして21世紀の第4次産業革命として、ドイツは「スマート工場の実現(インターネットとモノの融合)」を目指している。

スマート工場の実現には、全く未知の新技術を用いるのではなく、既存の様々な分野の技術を応用してつなげていくことを想定している。最終的には、個々のニーズに応じた細かい加工や生産の自動化を可能にし、生産から消費に至る全行程の変革を目指している(図2、3)。

図2:スマート工場
図2:スマート工場の構想図

図3:生産全体の流れ
図3:生産性全体の流れ

鍵になる人材育成やマッチング

インダストリー4.0を実現するための鍵となるのは、人材育成支援であり、そのためのプログラムとして「アカデミーキューブ」や「ソフトウエアキャンパス」などがある。

「アカデミーキューブ」は、人材のマッチングと訓練のための総合支援サイトである(図4)。主にコンピューターサイエンスやIT、エンジニアリング分野における求人のマッチングサイトであると同時に、求職者に一部不足している技能や知識を補うために、eラーニングによる教育訓練を実施している。

一方、「ソフトウエアキャンパス」は、産学連携の高度人材育成プログラムである。コンピューターサイエンスやIT、エンジニアリング分野の特に優秀な学生(修士/博士課程)を対象に将来の幹部候補や起業家などの人材育成を行っている。大学の教員、研究機関の研究員のほか、すでに実務界で活躍するIT企業の幹部やなどがメンターとなって、学生たちの指導にあたっている。

図4:アカデミーキューブ
図4:アカデミーキューブの概要図

図1-4出所:acatech/Forschungsunion(2013)sichernUmsetzungsempfehlungen für das ZukunftsprojektIndustrie 4.0.

労働の未来

インダストリー4.0の実現に伴って、人々の働き方はどのように変わるのだろうか。

プロジェクトの進展に伴い、こうした点にも関心が集まっており、連邦労働社会省(BMAS)は4月22日、「労働4.0(Arbeiten 4.0)」というフレームワークを立ち上げ、その中でデジタル化時代における労働上の課題を討議する場を設置した。BMASは、2016年末までにその成果をまとめるとしている。

ドイツ国内では、今後MINT(数学、IT、自然科学、工学)分野の高度技能人材の需要がさらに高まり、「アカデミーキューブ」や「ソフトウエアキャンパス」などの人材の育成支援やマッチングの重要性が増すと考えられている。

イノベーションの舞台となるのは、製造現場である。ILOは1月に発表した「世界の雇用と社会の展望」と題する報告書で、製造現場の変化予測を行っているが、その内容をインダストリー4.0の参考として紹介する。同報告書では、「今後、機械操作や組立工などのいわゆる中級技能職は、自動化やデジタル化の進展によって代替されて大きく減少し、こうした業務に就いている労働者は、今後新たな技能を習得しなければ、より低技能の仕事に移行せざるを得ない状況に陥るリスクがある」としている。その上で「中級技能職の消滅速度は、途上国や新興国よりも先進国で速くなっており、求められる技能水準の二極化が進み、所得格差の拡大にも影響を及ぼすだろう」として、「今後は企業や労働者が新たな技術や技能にアクセスする機会を支援する政策の役割が重要になってくる」と結論付けている。

インダストリー4.0の作業部会でもILOの報告と同様のことを結論付けており、「今後、スマート工場における労働者の役割は大きく変化する。そのための継続的な専門能力の開発が必要になり、生涯学習と継続教育訓練を有効に組み合わせて、推進すべきデジタル学習技術などを調査する必要がある」としている。

参考資料

  • BMAS(2015)"Grünbuch Arbeiten 4.0", Acatech/Forschungsunion(2013) Umsetzungsempfehlungen für das ZukunftsprojektIndustrie 4.0.,EIT ICT Labs IVZW News Tuesday, 11 January 2011, Software Campus - The best education for top talents, GTAI(Germany Trade & Invest)サイトほか。

関連資料

2015年6月 ドイツの記事一覧

関連情報