UAW、外国系企業の工場で初の組織化成功か
―VW社工場、IGメタルと連携

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2014年2月

全米自動車労組(UAW)は12~14日、フォルクスワーゲン社(VW社)のテネシー洲チャタヌーガ工場で、団体交渉権を獲得するための従業員投票を実施する。過半数が賛成すれば、外国系企業の米国工場の労働組合組織化に、UAWは初の成功を収めることになる。また、労組の力が弱く、また外国系企業の工場が数多い南部で、今後の組織化のための橋頭堡を築くことを意味する。ドイツ流の従業員代表組織の構想が背景には流れており、ドイツ金属産業労組(IGメタル)との緊密な連携のもと、経営側も協力的な姿勢でいる。

労使の思惑が合致

話は2013年8月にさかのぼる。ドイツ・ボオルフスブルクのVW本社での労使協議の席上、経営側は、2011年の操業開始した米国チャタヌーガ工場に、ドイツ式の従業員代表組織をつくることを提案した。従業員の経営参加によって、生産性と品質向上を図るのが狙いだ。しかし、制約が一つあった。 労働組合と使用者が行う団体交渉の手続きについて定めている全国労働関係法(NLRA)の存在である。NLRAは、働かせ方や労働条件について従業員と協議するためには、従業員の投票によって選ばれる代表との団体交渉によらなければならないと規定している。だから、生産性と品質の向上を目指すために従業員代表制を経営側が利用したいのであれば、その相手は必然的に労働組合でなければならない。ヴォルフスブルクでの協議はそのためのものだった。経営側との協議には、IGメタルとともにアメリカから代表を派遣したUAW関係者も加わった。

UAW会長ボブ・キング氏は、チャタヌーガ工場が操業を開始する前年の2010年に、「フォルクスワーゲンは労働組合との交渉において長年の経験があり、労使がともに成功を目指す環境を整備するという21世紀型の労働組合をめざすUAWの方向と合致する」とし、「フォルクスワーゲンが従業員代表と作り上げてきた協力関係をチャタヌーガでも実現できる」と発言していた。そのうえで、「労働組合と従業員代表、そしてフォルクスワーゲンによる共同決定の仕組みと協力関係を尊重する組織化を開始する」との声明を発表ししていた。

経営側に協力するというUAWの組織化戦略にはフォルクスワーゲン側の思惑が一致したものとだったのである。

IGメタルの協力

協議は2013年8月以降も継続していた。その間に、UAWはIGメタルおよびドイツのフォルクスワーゲンの従業員代表組織と協力関係を強めていった。

その関係に基づき、IGメタル会長ベルトールド・フーバー氏は、「世界中の工場の労働条件を維持するためには、多国籍企業の労働者を代表する組織同士が直接に対話をして、協力関係をつくることが欠かせない」とする書簡をチャタヌーガ工場の従業員に送り、UAWの組織化を支援した。チャタヌーガ工場の使用者側もUAWの組織化活動を工場内で行うことを許可するという、米国内の外国自動車工場では異例の措置をとっていた。

過半数の従業員が組織化に賛成

NLRAは、使用者との団体交渉を労働者の代表に委ねるかどうかの判断を、従業員によるカードチェックと投票の2段階で行っている。従業員を対象に、団体交渉を労働組合に委ねるかどうか尋ねるものがカードチェックである。その数が対象となる従業員数の3分の1を超えれば、従業員による投票が実施される。その管理をするのは全国労働関係委員会(NLRB)である。投票の結果、過半数の従業員が賛成票を投じれば、労働組合は使用者と合法的に団体交渉を行うことが認められることになる。

カードチェックの段階で、すでに過半数を超える従業員が賛成しているとUAWは表明しており、2月12日から14日の日程で投票が行われることになっている。

経営協力と労組以外のグループとの連携

UAWは2月4日、5日の日程でワシントンD.Cで「全国コミュニティ・アクションプログラム、立法大会」と題する年次会議を開催した。

その壇上で、キング会長は、経営に協力的な団体交渉によって、メキシコなど海外に出ていた工場が米国内に回帰し、2011年以降で2万人の雇用が新たに生まれたことを紹介した。

そのうえで、外国自動車工場へのさらなる組織化の進展と、そのために、環境保護や貧困問題、移民、宗教、人権といった労組以外のグループとの連携を強化すると述べた。

そのグループとは、環境保護団体シエラクラブやグリーンピースといった団体のほか、グリーンエネルギーによる産業育成と雇用創出をめざす労働組合と環境保護団体、企業とのコンソーシアムであるブルー・グリーン・アライアンスが含まれている。

そして、組織化のターゲットとして、ミシシッピー州日産工場とアラバマ州メルセデス工場の名前をあげた。そのうち、シエラクラブ会長マイケル・ブリュネ氏が日産の社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏に、組織化を促す個人的な書簡を送ったことが紹介されたほか、グリーンピースとブルー・グリーン・アライアンスの会長も日産ミシシッピー工場の組織化を支持することを表明している。

このように、フォルクスワーゲンのように従業員代表制を求める企業に対しては、経営協力に応えるかたちで組織化を進めつつ、組織化を良しとしない企業に対しては、労組以外のグループと連携して、社会的な支持を得ることで組織化をすすめるという2つの方向をUAWはとっている。

労働組合の反転になるか

今回の組織化が、もともと労働組合の勢力が弱く、政治的にも労働組合を排除する傾向が強かった南部で、労働組合勢力の反転をもたらすかどうかが注目される。

労働組合は企業競争力の足かせとなり、雇用創出にとっても障害となるとする声が近年高まっており、労働組合の組織化を難しくする法改正が種レベルで近年続いていた。

今回のUAWの組織化は、ドイツ式の従業員代表による生産性と品質の向上を意識した労働組合と経営側の協力関係と共同決定の仕組みを導入することを目指している。また、国境を超えた産業別労働組合同士の協力関係の下で進められているということも特徴となっている。

こうした動きは、企業競争力を高めるための労働組合と経営側の協力関係やアメリカにおける従業員代表制の在り方、グローバル企業の活動において、大きな波及効果があると思われる。

(山崎 憲)

参考

  • Susan, R Hobbs,UAW’s Bob King Credits Coalition Building For Union Gains in Negotiation’s Organizing, Susan, R Hobbs, Feb.3, 2014,
  • Susan, R Hobbs,Volkswagen Workers to vote Feb. 12-14, On UAW Representation in NLRB election, Daily Labor Report, Feb 3, 2014,
  • Susan R. Hobbs, UAWnext hit Discussions with Volkswagen
  • Focus on Organizing Tennessee Plant, Daily Labor Report, Sep 6, 2013,

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