公開選抜制度で公務員の昇進に変化
中央政府の公務員の昇進に関して、一部に適用する「公開選抜制度」は2010年に開始され、以降、参加機関、公募職位、選抜者の数とも増えている。従来は「党委員会の推薦」を基本としていたが、筆記・面接の試験を重視する制度を導入し、選抜の透明性を担保するのが目的だ。
幅広く募集、透明化した選抜制度を実施
公務員の昇進について、中国公務員法43条は「任職予定の職務に要求される政治思想の素質・業務能力・文化程度・任職経歴などの条件および資格を備えなければならない。」「飛び級は認めない。ただし品行方正、能力に秀でている、勤務状況が特に優秀な者あるいは特殊な職務の場合については、1階級の飛び級昇進も認められうる。」と定めている(「昇進」とは、付表の例えば「19-27級」から「18-26級」の上位への移動を指す)。44条は、次のように昇進手続きも規定している。
- 当該組織の共産党委員会と人事部が民主的推薦により、考察対象者を確定する
- 当該組織の人事部門は考察の手はずを整えて、任職提案を提出して、必要があれば一定範囲で提案について論議する。
- 管理権限に基づいて討論し、昇進の可否を決定する。
- 規定に基づき任職の手続きを履行する。
政府は2009年に「2010~2020年における公務員の人事制度改革の深化に関する計画綱領」を発表した。綱領は、2015年度までに、局級以下(8-13級以下)の昇進の場合には、少なくとも全体3分の1を競争的選抜者が占めなければならない、と定めた。従来の昇進制度の基本は「党委員会と人事部の推薦」を基本としており、選考基準も不明確で、透明性が欠けているとの考えに基づくものだ。
この綱領に基づき、一部の昇進に限り、公開選抜制度を適用することとし、中央政府は2010年に制度をスタートさせた。この制度では、省レベル以下の公務員が、中央政府が公募する職位に申し込むことができる。飛び級も認められる。
制度は次のような仕組みになっている(図表1)。資格審査の合格者(大卒以上の学歴や2年以上の基礎機関での経験が必要)には筆記試験と面接試験が課せられている。筆記試験は論文とケースメソッド分析で構成されており、合わせて3時間程度で、職位によってその内容が異なる。面接試験は「才徳兼備」を大きな判断目安としている。双方の試験で、選抜ポストの2倍の合格者を選ぶ。その後、身体検査を経て、選考委員が会議で検討し、合格発表し、1週間の期限の後に、問題が生じなければ、就任手続きとなる。
図表1:公開選抜のプロセス
出所:『2012年中国中央機関公務員公開選抜公告』、『公務員公開選抜弁法(試行),2013年1月』
順調に拡大する「公開選抜制度」
開始以降、毎年、参加機関、公募職位、選抜者数の数はいずれも増加しつづけ、公募職位のランクも上位に広がっている(図表2)。直近の12年には、175の職位を公募し、9435人が応募した結果、132人が選ばれた。13年1月には、「公務員選抜方法(試行)」が改めて定められて、この制度の長期的継続が保障されることになった。
こうした動きは中央政府だけでなく、各地方政府にも拡がりつつある。北京市は2010年より公務員公開選抜(北京市のような省レベル政府の場合は、市・県・郷の各レベルの政府からの選抜が対象)を実施しており、過去3回で計278名が選抜された。その他、天津市・山西省・黒竜江省・陝西省なども「公務員公開選抜方法」を制定している。
年 | 2010 | 2011 | 2012 |
---|---|---|---|
予定職位数 | 30 | 84 | 175 |
参加機関数 | 11 | 27 | 44 |
最高職位 | ― | 副処長 | 処長 |
- 出所:公務員局
- 注:職位の種類については、下部の付表を参照
期待される公開・公平・客観性、そして政策決定の民主性
公開選抜制度は公開性、公平性、客観性を基本原則としている。公開での競争により優れた人材を選抜する。選抜プロセスの透明化により公平性を確認する。推薦によらずテストで決めることで、客観性が担保される。こうして選ばれた人材は誰もが納得する上、公務員の積極性も高めることができる。中国人事科学研究院の呉江曾院長は、公務員公開選抜制度について、「公務員選抜制度の社会的信用を高めるために、公開選抜は最適な方法だ。この方法によって、政府の政策決定における民主性も高まるだろう」と評している。
国家行政機関 | 行政級別 | 中央政府 | 省レベル政府 (自治区・直轄市) |
市レベル 政府 |
県レベル 政府 |
郷レベル 政府 |
級別 | 指導職務 | 指導職務 | 指導職務 | 指導職務 | 指導職務 | |
非指導職務 | 非指導職務 | 非指導職務 | 非指導職務 | 非指導職務 | ||
1級 | 正国家級 | 国務院総理 | ||||
2-4級 | 副国家級 | 国務院副総理・国務委員 | ||||
4-8級 | 正省部級 | 部長 | 省長・自治区政府主席・市長 | |||
6-10級 | 副省部級 | 副部長・局長 | 副省長・副自治区政府主席・副市長 | |||
8-13級 | 正庁局級 | 司長 | 庁長・局長 | 市長 | ||
巡視員 | 巡視員 | |||||
10-15級 | 副庁局級 | 副司長 | 副庁長・副局長 | 副市長 | ||
副巡視員 | 副巡視員 | |||||
12-18級 | 正県処級 | 処長 | 処長 | 局長 | 県長 | |
調研員 | 調研員 | 調研員 | ||||
14-20級 | 副県処級 | 副処長 | 副処長 | 副局長 | 副県長 | |
副調研員 | 副調研員 | 副調研員 | ||||
16-22級 | 正郷科級 | 処長 | 局長 | 郷長 | ||
主任科員 | 主任科員 | 主任科員 | 主任科員 | |||
17-24級 | 副郷科級 | 副処長 | 副局長 | 副郷長 | ||
副主任科員 | 副主任科員 | 副主任科員 | 副主任科員 | |||
18-26級 | 科員級 | |||||
科員 | 科員 | 科員 | 科員 | 科員 | ||
19-27級 | 辮事員級 | |||||
辮事員 | 辮事員 | 辮事員 | 辮事員 | 辮事員 |
- 出所:中国公務員法
- 6-10級以上は全て指導職務に該当。8-13級以下は上段が指導職務、下段が非指導職務。
- 中国公務員では指導職務の行政等級は、おおまかに国家級、省部級、庁局級、県処級、郷科級に分かれている。普通は、8-13級で正局級といわれ、10-15級で副局級といわれる。局長と呼ばれていても、局級とは限らない。
- 中央政府6-10級の局長は、中国国務院各部・委員会管理の国家局の局長である。
参考資料
- 中国公務員網、人民網、人民日報
2013年5月 中国の記事一覧
- 依然として大きい年金の官民格差―制度一元化が政府の最終目標
- 13年の大卒就職、過去最高の厳しさに
- 公開選抜制度で公務員の昇進に変化
関連情報
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