依然として大きい年金の官民格差
―制度一元化が政府の最終目標

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年5月

中国の年金制度は、「官」と「民」が違う「二重制」となっており、「年金双軌制」と呼ばれている。受給される年金額の格差など、「官」に有利な制度の問題点が指摘され、政府は再三にわたって改善策を講じてきた。しかし、社会科学院が2月に発表した報告書によると、「官民格差」は一向に縮小していないことが明らかになった。政府は制度の一元化を最終目標としているが、具体論はまだ見えていない。

公務員、保険料の本人負担なし

中国には大きく分けて4つの年金制度が存在する。公務員、都市企業従業員、農村居住者、都市居住者と対象によって分かれている。このうち、公務員と都市企業従業員を対象にした年金制度の格差がたびたび問題化されていた。両者とも雇用労働という点で共通しながらも、保険料の負担額、年金額が大きく隔っている(図表1)。保険料の負担額は、公務員の場合は本人ゼロで、全額を政府が支出する。都市企業従業員の場合は、本人8%、企業20%の料率を負担している。一方、年金額は、公務員が退職前賃金の80~90%程度の水準なのに対し、都市企業従業員は40~50%の水準にとどまっている。

図表1:都市従業員年金制度と公務員年金制度概況
  都市企業従業員年金 公務員年金
(政府系事業組織従業員を含む)
対象者 都市部の企業に勤める者 公務員や政府系事業組織に勤める者
負担者 企業→賃金の20%
個人→賃金の8%
政府統一財政より支出
個人負担なし
支給方式 基礎年金と個人口座の積立金 政府統一財政より支給
支給水準 退職前賃金の40%~50% 退職前賃金の80%~90%

出所:人的資源社会保障部

年金額、最大で50倍の差

社会科学院の報告書は「中国社会保障収入再分配状況調査」と題している。それによると、公務員と政府系事業組織の退職者の92.3%が月額平均400元以上の年金額を受給しており、2000元以下はひとりもいなかった。一方、都市企業従業員の年金額は75.4%が2000元を下回っていた。調査対象全員のうちの年金額の最高額は1万元、最低額は200元で、その差は50倍にものぼった。受給者の40%弱が「受給額が少なく、生活費を賄えていない」と回答している。

こうした年金の二重制度は、1980年代に、市場経済の発展に伴って、企業従業員を対象とした年金制度を設計したときに端を発している。従来からあった公務員や国有企業労働者向けの年金制度をそのままにして、企業従業員を包括した社会保障システムをつくったことが原因だ。そのため、「官民分離」は出発時点から抱えていた問題といえるが、企業従業員の増加に伴って、その制度的欠陥が目立つようになった。

効果希薄な格差緩和策

この年金における官民での状況の大きな隔たりは、しばしば中国における官民格差の「象徴」とみなされている。そこで年金額の格差を緩和するために、政府は2005~2012年まで8年連続で都市企業従業員の年金額を増額した。2012年には全国平均で月1721元に達している。2013年も増額し、1893元に達すると予測されている(図表2)。しかし前述の社会科学院の調査の通り、公務員は9割以上が4000元以上を受給し、2000元以下の受給者は存在していないことを考えれば、こうした措置も焼け石に水といったところである。

図表2:都市企業従業員年金平均受給額の推移(単位:元/月)

図表2:都市企業従業員年金平均受給額の推移(単位:元/月)2005-2013年

出所:人的資源社会保障部等

また、公務員年金に対して、2008年2月に政府は《政府系事業組織従業員年金保険制度改革の試行方案》を可決した。山西、上海、浙江、広東、重慶の5省市を試行地域として実施するとした。まず、政府系事業組織に対して分類を行い、行政機能事業組織は政府機関に編入し、公務員年金の対象とする。営利機能事業組織は企業に転換し、従業員には企業年金を適用する。残りの非営利組織従業員も、企業年金が適用される。統計によると、中国の事業組織は130万ほど存在しており、非営利組織従業員がその多数を占めている。従業員数は3000万人以上に上るため、実施されれば影響は大きい。

しかし、この改革方案は結果として、多数の反対意見と幾ばくかの社会の混乱をもたらした。反対意見としては、方案が事業組織の従業員を対象にしており、公務員が対象外であったため、公平性を欠くとして問題視された。また、非営利事業組織の従業員の間で、年金受給額の減少に対する不安が高まり、特に教育分野で早期退職が頻発した。広東省華南農業大学を早期退職した講師の場合、方案実施前の退職であれば月3500元以上受給できる。しかし方案実施後の退職では、月1600元程度になる可能性があったため、退職を選択した。こうした反対意見と混乱の結果、各試行対象地域は事態を重く受け止め、実際の制度開始には至らなかった。

なお、深セン市は、同市の公務員全体ではなく、このうちの「有期契約の公務員」を対象に、新たな制度を試行している。対象は1800人超で、保険料率を18%とし、このうち負担の割合は市政府10%、本人8%としている。ほかに、市政府が「深セン市地方養老保険」として1%分を加算して負担している。

政府、一元化に向け研究開始

人的資源社会保障部は昨年から特別委員会を設置し、公務員向け職域年金制度の研究を開始している。この委員会の最終的な目標は、「年金一元化」(公務員、事業組織と企業の基本年金保険モデルの統一)である。2012年6月、国務院は『社会保障の第12次5ヵ年計画』を公布し、公務員向け年金制度一元化の研究を発表した。しかしながら、未だに、公務員や事業組織の年金改革に関する具体的な方法は発表されていない。

  1. 都市居住者には自営業者、パートタイム労働者、非就業者が含まれる。

参考資料

  • 人的資源社会保障部、経済観察報、新華社通信、新浪網、中華網

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