第三次メルケル政権、SPDと連立協定
―労働分野の政策、中道左派色が濃厚に

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2013年12月

キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は、11月27日、約2カ月 の交渉を経て、連立政権樹立に合意するに至った。 締結された連立協定のうち、労働分野では、SPDの中道左派的な政策を大きく取り入れ、全国一律8.5ユーロの法定最低賃金制度の導入や、労働者派遣期間の制限(最長18カ月)、派遣労働者と基幹労働者との均等賃金化(9カ月以内)を重要課題として挙げている。そのほか、フルタイム就労者に対する一時的にパートタイム就労へと移行する権利(復帰権)の保障や女性役員の割当規制の導入も盛りこんでいる。第三次メルケル政権が正式に発足するのは、同年12月17日の見込み。

CDU/CSU、選挙では大勝利も連立パートナーを失う

2013年9月22日(日)に投開票が行われたドイツ連邦議会選挙(投票率71.5%)では、メルケル首相率いる中道右派の保守政党であるCDU/CSUが、過半数まであと5議席にせまる311議席を獲得(2013年得票率41.5%、議席占有率49.3%)する大勝利に終わった。しかし、前政権(第二次メルケル政権)で連立パートナーであった自由主義政党のドイツ自由民主党(FDP)は、躍進した前回選挙(2009年得票率15.6%)から大きく議席を減らし、議席獲得に必要な得票率5%の要件をも満たせなかった(2013年得票率4.8%、議席占有率0%)。

そこで、CDU/CSUは、第一次メルケル政権における大連立の相手方であったSPD(2013年得票率25.7%、議席占有率30.6%)と連立交渉を行い、同党の中道左派的な政策を取り入れる形で、同年11月27日、連立協定を締結するにいたった。戦後西ドイツで3回目にあたる大連立政権の正式な発足は、連立協定受諾の可否に関するSPD党員選挙(同年12月14日に開票予定)を経た同年12月17日になる見込みである。

全国一律の法定最賃制度導入を明記

選挙戦における大きな争点の1つは、すでに一部地域・一部産業において実施済みであった法定の最低賃金制度を、全地域・全産業に拡大して制度化するかどうか、であった。この点について、第一党のCDU/CSUは、大きく譲歩する形で、第二党のSPDが主張していた全国一律8.5ユーロによる法定最低賃金制度の導入案を受け入れるに至った。

連立協定によれば、その運用開始は2015年1月1日であるが、最初の2年間(2016年12月31日まで)のみ、「業種レベルにおいて代表的な協約当事者の労働協約」による逸脱を認めるという例外規定が経過措置的に設けられる。2016年12月31日までに最低賃金基準を達成していない労働協約は、2017年1月1日以降、連邦全体における法定最低賃金基準が適用される。

また、最低賃金の額は、定期的に見直される(最初の見直しは2017年6月10日、効力発生は2018年1月1日)。その役割は、委員長1名(選出方法の詳細は未定)、労使の利益代表者各3名、投票権のない学識経験者各1名(労使の頂上組織の提案に基づいて招聘)で構成される委員会が担うこととされている。

派遣労働をめぐる“規制緩和の揺り戻し”がさらに加速

派遣労働をめぐっては、前シュレーダー政権下において、大幅な規制緩和が実施された(2002年労働市場改革法)が、すでに第二次メルケル政権下において、派遣業向け最低賃金制度の整備や均等処遇原則の強化など、派遣労働に対する規制の再構築が行われていた(2011年改正労働者派遣法)。第三次メルケル政権においては、このような“規制緩和の揺り戻し”の傾向をさらに前に進め、派遣労働はあくまで「一時的」利用のためにある制度であることを、さらにはっきりさせるための政策を実施することにした。

連立協定によれば、そのような政策の具体的措置として、派遣期間の制限(最長18カ月。ただし、派遣先業種の労働協約当事者の労働協約等による例外的逸脱を許容)、派遣労働者と基幹労働者の労働報酬に関する均等処遇化(9カ月以内)、ストライキ代替労働力としての派遣労働者利用の禁止などを法律に明記することとされている。

その他の労働関連施策

さらに、連立協定によれば、例えば子どもの保育や家族の介護を行う労働者を念頭において、「期限つきパートタイム労働請求権」を創設し、それにより、パートタイム就労を希望した労働者がふたたび元の労働時間に復帰する可能性(復帰権)を保障することとされた。

その他、労働者越境的配置法の適用範囲の拡大(一部業種から全業種へ)、労働協約法上の一般的拘束力宣言の要件緩和(50%適用条項の緩和など)、公共調達法における協約遵守規制を連邦レベルでも導入するか否かの検討、協約単一性原則の法定、労働者のデータに関する保護の法定、労働関係における内部告発者保護、さらには、短期間就労者向け失業手当の改善、850ユーロ以下の僅少労働者(社会保険料納付義務が減免されているミディジョブ・ミニジョブ労働者)等に対する「連帯年金」制度の導入(2017年以降)、女性役員の割当規制の導入などが挙げられている。

参考資料

  1. Koalitionsvertrag zwischen CDU, CSU und SPD (18. Legislaturperiode), Deutschlands Zukunft gestalten(CDU版リンク先を新しいウィンドウでひらくSPD版リンク先を新しいウィンドウでひらく)
  2. Der Bundeswahlleiter, Vorläufiges amtliches Ergebnis der Bundestagswahl 2013, Pressmitteilung 23. 9. 2013リンク先を新しいウィンドウでひらく
  3. Der Bundeswahlleiter, Endgültiges amtliches Ergebnis der Bundestagswahl 2013, Pressmitteilung 9. 10. 2013リンク先を新しいウィンドウでひらく

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