スコットランドの製油所で労使紛争、労組側が全面的敗北

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2013年11月

賃金凍結や年金制度変更などをめぐるスコットランドのグレンジマス製油所の労使紛争は、労働組合側の全面的な敗北で終結した。提案を労組側が受諾しない場合には製油所の閉鎖も辞さないとの強硬な姿勢を経営側が示し、国内最大の産業別労組も妥結に追い込まれた。向こう3年間のストライキ凍結も合意内容に含まれていると見られる。

経営側、年金制度の確定拠出型への変更や賃金凍結など提案

スコットランド唯一の石油化学コンプレックスであるグレンジマス製油所は、製油施設と石油化学プラントで従業員1370人及び契約社員2000人余りを雇用し、スコットランドの燃料需要の大半を担う注1

今回の労使紛争は、製油所の労組幹部が就業時間中に政治活動を行ったとの理由で、経営側のイネオス社注2が同幹部を停職処分としたことが直接の原因だ。処分を受けた労組ユナイト(製造業、建設業、運輸業、公共部門などで労働者142万人を組織する国内最大の産別)の幹部は、製油所の25年来の従業員で、製油所の労組議長のほか、製油所が所在するフォルカーク選挙区の労働党議長も務めていた。同幹部は、2015年に実施予定の総選挙に向けた同地域の労働党候補者に労組関係者を擁立すべく、自派の党員の拡大を図って組合員を労働党に勧誘、製油所の従業員もこれに含まれていたとみられる注3。労働党本部は事態を重く見て注4、内部調査を実施のうえ、結果を現地の警察当局に提供して捜査を依頼、警察署は検証の結果として、不正に関する十分な証拠はなかったとの判断を7月に示していた。しかし、経営側は独自の調査を行う意向を示し、同幹部に対する追及を継続した。

並行して、経営側は9月29日に製油所の再生計画を公表した。新たな設備投資(ガスターミナルの建設)に向けた資金調達に政府からの助成を申請する一方で、製油所の将来のためには従業員にも負担を求めるとして、現行の労働協約による労働条件の引き下げを提案する内容だ。製油所は年間1億5000万ポンドの損失を出しており注5、また年金基金も2億ポンドの赤字状態にあるとして、経営側は経費削減の必要を主張、合意が得られなければ設備投資は行わず、製油所を閉鎖するとの方針を示した。

現地メディアによれば、労働条件引き下げ案の主な内容は、確定給付制度(最終給与基準年金)から確定拠出制度への年金制度の変更、2017年までの賃金凍結及び一時金の支給停止、シフト手当や時間外手当の削減、休暇や解雇などに関する条件の切り下げ、さらに規模は明確にされていないが、一定の人員削減が含んでいたとみられる。年金制度の変更をめぐっては、2008年4月にも同種の提案(新規採用者に対する最終給与基準年金の廃止、従業員に一定割合の拠出)をめぐって労使紛争が発生し、48時間にわたるストの結果、経営側が提案を撤回した経緯がある注6

労組、プラント閉鎖の回避のため経営案に合意

労組は再生計画の発表に先立って、既に9月27日には組合幹部に対する処分への抗議を目的とするストライキの実施を決め、10月初めから時間外労働拒否などの争議を開始していた。これに対して経営側は、ストが実施されれば安全面に不安が生じるとの理由から製油所の操業停止を予告、少なくとも年内のスト実施はないとの保証がなければ、交渉に応じることはできないとの意向を示した。10月半ばに開始された公的な仲裁機関(ACAS)を挟んでの交渉も決裂、労組側は年内はストを実施しないとの譲歩を行ったものの、経営側は年明けの保証がなければ到底受け入れられないとして、10月16日に製油所の操業を停止した。加えて、従業員に対して労働条件切り下げに同意するよう直接呼びかけ、期限までに合意した従業員には最高で1万5000ポンドの一時金や、確定拠出年金における雇用主拠出の条件の優遇などを約束した。労組は、この提案を拒否するよう組合員に求めたが、経営側の発表によれば、従業員のおよそ半数(665名)が経営側の案を受け入れたという。しかし、期限内に労組が合意しなかったことを理由に、経営側は10月22日、石油化学プラントを即座に閉鎖・売却し、従業員800人を解雇するとの方針を発表した。さらに、プラントの閉鎖は将来的に製油施設の閉鎖につながる、との可能性が示唆されていた。

経営側の強硬な姿勢に対して、労組は一転してプランを受け入れることを決め、これに基づく対案を提出、経営側がこれに合意したことで、同25日、プラントの閉鎖は撤回された。合意内容の詳細は不明だが、経営側の発表として現地メディアが伝えるところでは、年金制度の変更、3年間の賃金凍結をはじめとする労働条件の切り下げのほか、同じく3年間(ガスターミナルの建設期間中)はストを行わないこと、またプラントにおけるフルタイムの専従の廃止などを含む注7。経営側は今後の整理解雇の可能性を否定していない。また前後して、新たな設備投資に関する政府助成の申請に対して、イギリス・スコットランド両政府から合計1億3400万ポンドの助成が実施されることが決まった。

なお、紛争の直接の原因となった組合幹部に関して、経営側は独自の調査結果に基づき、懲戒委員会の開催を予定していたが、同幹部はこれに先立って製油所を退職した。経営側による調査結果に、不利な内容が含まれていたことが一因とみられる注8

経営側によるプラント閉鎖の発表以降、メディアなどでは労組に対する批判的な意見が多くみられた注9。国内最大の産別労組が、伝統的に労組が強く、組織率も高い職場における争議で敗北したこと、また背後で誘引となった政治活動の内容が明るみに出たことで、一般からの労働組合への関心や支持が一層低下するのではないかとの危惧の声も出ている。

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