EU労働時間指令改正案、廃案に

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

EUの記事一覧

  • 国別労働トピック:2009年6月

労働時間の上限などを定める労働時間指令の改正案について、EUでは2004年以降協議が続いていたが、厳格な規制を求める欧州議会と、加盟国政府で構成される欧州理事会の間で合意が成立しなかったことから、4月末に廃案が決まった。これにより、イギリスなどが主張してきたオプトアウト(適用除外)は、当面維持されることになった。

改正案をめぐっては、オプトアウトの是非が最大の焦点となった。これは、使用者と従業員の合意により、指令の定める週48労働時間の上限を超えて労働することを認める例外規定だ。欧州委員会の当初の改正案(04年)はその維持を明記していたが、廃止を求める欧州議会に配慮して、3年後の見直しを盛り込む修正を05年に加えた。しかし、オプトアウトを広く利用していたイギリスがこれに強く反対して協議が膠着したことに加え、利用を求める加盟国がこの間増加したとの理由から、欧州委員会は条件を緩和し、全国レベルの労使合意などを前提に引き続きオプトアウトを認める内容で、昨年6月に欧州理事会の合意を取り付けていた。

また、呼び出し労働者(on-call worker)の待機時間を労働時間と見なすか否かも、論点のひとつとなった。現行の指令には待機時間に関する規定はなく、その扱いは各国の法制に委ねられていたが、2003年の欧州司法裁判所の判決で、待機時間を労働時間とみなすべきとする判断が示され、これを指令に反映する必要が生じていた。欧州理事会で合意した改正内容は、待機時間のうち職場で待機する時間(active on-call time)を労働時間とする一方、職場外で呼び出しを受ける可能性のある時間(inactive on-call time)については労働時間とみなさず、引き続き各国の判断に委ねるものとなった。

欧州議会は、指令改正の主眼であるこれら2点に関する理事会案の内容を容認せず、オプトアウトを指令成立から3年の猶予期間(加盟国が国内法制化の対応を求められる期間)をもって廃止すること、また欧州司法裁判所の判決に即して待機時間全体を労働時間と見なすことを修正案に盛り込んだ。さらにかねてからの主張として、複数の仕事を持つ労働者の労働時間はその合計を規制対象とし、これに必要な措置を加盟国が講じることを義務付ける修正を加えた。

欧州議会は12月にこの修正案を賛成多数で可決したが、欧州理事会は議会修正案への合意を拒否したため、両者の代表からなる調停委員会(conciliation committee)によって、妥協案が模索されることとなった。しかし、3月から4月にかけての協議は平行線をたどり、結果的に委員会の欧州議会側メンバーが続行を断念、5年近くにわたって協議されてきた改正案は、4月末に廃案となった。調停委員会で妥協案が合意されなかったのはこれが初めてだという。

欧州委員会のシュピドラ雇用・社会問題・機会均等担当委員は、欧州議会がオプトアウトの廃止に固執したことで、結果的に労働者保護が実現されなかった、と批判的なコメントを発表した。新たな改正案を提出する可能性についても、「今回の結果を熟慮のうえ、もしあるとすれば、今後の展開を決めなければならない」と慎重な立場だ。現地メディアは、6月の欧州議会選挙をはさんで、バローゾ委員長がこれに関する方針を決定する可能性が高いとみている。

ETUC(欧州労連)は今回の結果をうけて、協議決裂は残念だが、労働条件の最低基準を守るため、欧州議会には引き続き健闘を求める、との声明を発表した。一方、経営者団体のビジネス・ヨーロッパ(BusinessEurope)は、オプトアウト維持は喜ぶべきことだが、待機時間を労働時間とみなす欧州裁の判決は依然として有効であり、欧州委員会は何らかの解決策を示すべきである、としている。

参考

関連情報