交通スト収束、労組側が条件交渉へ
―中身詰まらず、再びストの可能性

カテゴリー:高齢者雇用労使関係

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  • 国別労働トピック:2008年1月

サルコジ大統領の提案した年金改革に反対する国鉄SNCFやパリ交通公団RATPの職員によるストライキは、労組側が政府の改革案に大筋で応じる姿勢を示し、11月22日に収束した。労組側は、具体的項目で自らに有利な条件を獲得する「条件闘争」に転じた格好だ。国鉄では同月29日に交渉が再開されたが、条件面での折り合いがつかず、妥結に至っていない(12月25日現在)。政府は強行姿勢を崩してはおらず、新年の2月か3月に大規模ストが実施される可能性も残っている。

年金改革の影響を軽減する措置を要求

交渉の焦点は「特別制度」とされる公務員の一部の年金制度改革で、「完全年金(フルペンション)を受給するのに必要な保険料拠出期間を現行の37.5年から40年に延長する」が政府案の柱。労組側は、この案の撤回が困難になったと判断、11月29日に再開した交渉では、労働者に不利な影響をいかに和らげるかに目標を転じ、具体的な軽減措置を使用者側に求めている。再開した交渉には、政府代表も加わっている。これは、改革の内容が後退しないように監視するためだとみられている。

労組側が強く要求しているのは退職前の賃金の増額。保険料拠出期間が37.5年の者は、現行制度では老齢年金を満額受給できるが、改革が実施されれば「期間不足」として年金は減額されることになる。そこで労組側は、年金算定の根拠となる従前賃金を上げ、年金額を増加させることにより、保険料拠出期間不足による減額を相殺したい考えだ。

労組側の要求に対し、使用者側は年金支給開始年齢を超えて就業を継続する者(大半の職員が55歳、運転士については50歳)に対しては、1四半期につき賃金を0.5%増額することを提案した。ただし、増額は2.5%を上限とする。また、年末のボーナスを2008年末に平均80ユーロ、2009年末に平均160ユーロ上乗せする案も示した。ボーナスの増加は、年金支給額の算定基準となる従前賃金が増加することになり、結果的に年金支給額の増加につながるとしている。さらに、2008年7月1日をもって定年を完全に廃止することも提案した。これにより国鉄職員は、理論的には自分の意思で退職する年齢を選択できるようになる。

こうした使用者側の提案に対して、労組側は「定年の廃止は以前から我々が要求していたもので、満足できる新たな提案が何ひとつない」と反発。交渉開始早々、「今後進展がなければ、新たな労働闘争を開始する」との声もあがった。その後も交渉は続いたが、妥結には至らなかった。

交渉が行き詰まりをみせるなか、国鉄のCGTとCFE-CGC(管理職組合総連盟)が「12月13日に24時間ストを実施する」と通告。しかし、2008年2月まで交渉を継続することなどで労使が合意、ストは中止となった。国鉄と同様に、11月26日から労使交渉を行っているパリ交通公団でも、交渉は難航している。最大労組であるCGTは、24時間ストを12月12日に予定していたが、使用者側が交渉の継続を確約。12月10日、CGTは「スト通告は取り下げないものの、完全な就業拒否は行わない」と発表した。

こうしたなか、フィヨン首相は12月10日、公的年金制度における特別制度の改革を実行に移すための政令を2008年初めに公布する予定であることを明らかにした。サルコジ大統領の「公的年金制度の改革」という公約実現に向けて、政府は強行戦略を貫く構えをみせている。一方、改革実施を阻止できなかった労組側は、改革による影響をなんとしても最小限に食い止めたい考えだ。労使の交渉が妥結に至らない場合には、2008年の2月あるいは3月に再び公共交通機関の大規模ストが実施される可能性も残っている。

参考

  • フランスのストライキ参加時の賃金の扱いについて
    ストライキに参加した職員に対して、その期間中の賃金は支給されない。また、代休など、日本でいうところの「有給休暇」として扱うことも認められない。国鉄職員の場合、ストライキに参加している間、1日あたり月給の30分の1が減給される。国鉄では、ストライキに参加している期間中は、当初からの休日、つまり出勤不要だった日の分まで減給される。パリ交通公団では、ストライキ参加した場合、1日あたり月給の20分の1が減給されるが、出勤するはずであった日数分のみ減給される。今回のストライキによる減給は、今後、数ヶ月の給与に分散して減給される予定。国鉄職員では、平均でおよそ540ユーロ、パリ交通公団職員では同じく700ユーロの減給となる見通しである。
    一部の労組では、この減給分を僅かであるが補填するシステムがある。CFDT (フランス民主労働同盟)では、1974年以来、組合費の一部を「労働組合運動全国金庫caisse nationale d'action syndicale」に積み立てている。これを財源として、ストライキの際、開始後3日目以降、組合員に対して1日当たり16ユーロを支給する。他にも、FO(労働者の力)なども類似の補填制度を持っているが、「食事代相当」とされ、金額的には僅かである。なお、最大労組のCGTにはこのような賃金補填制度はない。

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