スト時の最低限の運行義務付け、法案を国会提出
政府は7月4日、公共交通機関のストライキの際に最低限の運行を義務づける法案を国会に提出した。国鉄や地下鉄、路線バス、児童送迎用のスクールバスなど、全ての公共交通機関が対象で、円滑な労使交渉によってストを減らし、国民の混乱を最小限に抑えるのが狙い。野党と労働組合は反発しているが、世論調査では賛成意見が約7割を占めている。政府は超過勤務促進策とともに、法案の早期成立に意欲を示しており、2008年1月1日の施行を目指している。
スト前の労使交渉実施も
法案の名前は、「公共交通機関における労使交渉とサービスの継続に関する法律案」。それによると、ストで運行ダイヤの混乱が予想される場合、最低限の運行を義務づけている。運行の具体的内容は、代替交通機関の有無や地域の現状・特殊性等を考慮して決定する。最低限の運行が不可能な場合には、支払い済みの運賃の全額又は一部を利用者に返還するケースも考えている。
法案はスト前の労使交渉の実施を義務づけている。労使交渉が決裂してストに突入するのではなく、ストを先行したうえで労使交渉を開始するケースがフランスでは少なくない。この規定を設けることによって、ストの乱発を防止し、利用者への影響を最小限に抑えることができる、と政府は期待している。
また、ストに参加する従業員は48時間前にその意思を表明しなければならない。スト不参加の従業員による運行計画策定の時間的余裕を経営側に与えるためだ。これによって、運休を最小限に抑え、詳細な運行情報を国民に提供できる、と政府は強調している。
さらに、スト日数が8日間以上になった場合に、経営側が従業員に対しスト続行の賛否を求めることができるようにした。スト不参加の組合員はもとより非組合員を含む全ての従業員に投票権が付与され、無記名形式で実施する。ストに対する従業員全員の意思を問うことによって、一部の過激な労組活動家による突出した要求を断念させるのが狙いだ(注1)。
法案には、スト中の賃金不払いも明記した。現在でもスト時の賃金は支払われない場合が多いが、「スト時の賃金を保障すべきだ」という労組の要求を牽制する目的で、あえて明文化したという。
他の公共機関への拡大検討
法案は、7月17日から上院(元老院)で審議を開始した。社会党、共産党、緑の党が反対したものの、7月19日、与党・UMP(民衆運動連合)及びUDF(フランス民主主義連合)の賛成多数で上院を通過、7月30日から下院(国民議会)の審議に入った。
公共交通機関に最低限の運行を義務付けるという政策は、サルコジ大統領の選挙公約の一つ。実現すれば、スト時の国民の混乱が減少するだけでなく、「スト権を奪うことなく、企業内での労使交渉が活発化する」と政府は主張している。
テレビ出演したフィヨン首相は、「この制度がうまく機能すれば、他の分野に広げないわけがない。法案の目的は、全ての国民に最良の公共サービスを恒常的に提供することだからである。公共交通機関での労使交渉が円滑に行われるようになれば、それをモデルとして、他の部門に広げることが可能である。その中には、小・中学校等の公的教育機関も入る」と述べた。
この発言を受けて、ダルコ教育相は翌日、「現段階では、この制度を公的教育機関に適用するつもりはない」と表明。大統領府は「今回の制度の適用範囲を拡大するというのは、あくまでもフィヨン首相の個人的な意見」としながらも、「公共サービスの継続、特に子供を継続的に受け入れる体制作りについては検討している」とコメントした。
労組・野党は反対、世論は賛成7割
これに対して労組や野党は、「スト権の侵害」と強く反発している。労組は、事前のスト通告の義務化により、労働者が参加を躊躇せざるを得なくなったり、経営側からストに参加しないように圧力がかけられたりする恐れがあるとし、「スト権の制限につながる重大な危険性をはらんだ法案」と主張した。スト続行の可否を決める投票については、CGT(労働総同盟)が「ストは個人の権利であり、こうした規定は全く意味をなさない」との見解を示した。野党も、今回の措置が交通機関にとどまらず全ての公共サービスへ拡大する可能性に触れ、「政府は労働組合の弱体化を狙っている」と批判した。
7月21日付のパリジャン誌が発表した世論調査結果によると、法案に賛成する国民は70%にのぼった。この措置が他の公共サービスへも適用されることに対しても、69%の国民が賛成している。なお、「スト権の見直しにあたる」として反対する国民は25%であった。
フランスでは、突然のストで乗務員の手配がつかずに運行ダイヤに大きな乱れが生じることが少なくない。また、教職員のストによる学校閉鎖で、子どもを預ける場所が見つからなかった場合には、保護者が仕事を休まざるを得ないというケースもある。今回の法案を歓迎する声は、こうしたフランス社会の現状に対する国民の不満を表しているともいえる。
下院も与党が過半数の議席を占めており、法案は大きな混乱も無く採択・成立へと向かうとみられる。しかし、こうしたあまりにもスピーディーな法案審議に対して労組は「我々に十分に検討する時間を与えず、一方的に自分達の政策を押し付けている」と反発。新政府の方針を批判する声が広がりをみせている。
注
- フランスでは、ストライキも多く労組の力が非常に強いという印象があるが、組合員自体は賃金労働者全体の1割以下に過ぎず、ストライキなどの労働闘争は、いわば「過激な労働組合員」が中心で、その他の労働者は冷めた目で捉えているケースも少なくない。ストライキへの参加は、個々の労働者の判断に任されており、組合の決定に反してストライキに参加しない組合員が出る場合もある。
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