超過勤務促進策7月に法案提出
―第2次フィヨン内閣発足

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2007年7月

フランスでは6月19日、国民議会(下院)総選挙を受けて第2次フィヨン内閣が発足し、翌20日に開かれた閣僚会議では、サルコジ大統領の「新たな労働政策の第一歩」とされる「労働・雇用・購買力のための法案」(注1)が承認され、7月の特別国会への提出が決定した。閣僚会議後にサルコジ氏は、与党・UMP党議員たちに対し「私の政策の中心にあるのは労働である」と断言。週35時間制の実施によって失われてしまった「労働の価値」を復活させ、実質GDP成長率を2%から3%へまで引き上げると主張し、「変えると約束したことは、全て必ず変えてみせる」と宣言した。さらに同日夜にはテレビ出演し、大統領選挙で主張し続けてきた「労働の価値」と購買力の向上を優先課題として取組み、その成功を確約すると述べ、国民に「変革」の実現を強くアピールした。

所得税・社会保険料を減免

今回の法案で、最も注目されるのが超過勤務手当にかかる所得税・社会保険料の減免措置である。同措置はサルコジ氏の経済活性化政策の柱で、「より多くの収入を得るために、もっと働きたいと望む人たちの可能性を広げるとともに、企業の活力を高める」ことを目的としている。法定労働時間を週35時間に据え置くものの、超過勤務の促進で労働時間の延長を目指すという「週35時間制の事実上の改革」として注目されていた。

法案によると、従業員については週35時間を超える超過勤務手当にかかる所得税と社会保険料の支払いが全額免除される。雇用主については、超過勤務1時間あたりの社会保険料負担が軽減される。中小・零細企業(従業員数20人以下)では、超過勤務1時間当たり1.5ユーロ、従業員数21人以上の企業では0.5ユーロ減額される。社会保険料負担の軽減額が企業規模で異なるのは、中小・零細企業に対する超過勤務手当の割増率に関する例外規定の廃止に伴う激変緩和措置の意味もある。これまで中小・零細企業については、2008年12月31日まで10%とするという例外規定が設けられていたが、今回の法案で2007年10月1日から企業の規模にかかわらず、割増賃金率を25%にすることが盛り込まれた。

こうした超過勤務手当にかかる所得税・社会保険料の軽減措置は、全賃金労働者を対象としている。民間企業のブルーカラーや一般事務職だけでなく、管理職やパートタイム労働者、公共部門の職員、そして年間労働時間制で働く者(例えば、繁忙期には週40時間だが閑散期には週30時間になるなど、年間の労働時間が雇用契約で定められている者)や年間労働日数制で働く者(年間の労働時間でなく「労働日数」が雇用契約で定められている者で、大企業の管理職などに多い)などにも適用されることとなる。

パートタイム労働者については、契約時間を超える就労に対する手当分の所得税・社会保険料が減免されるが、その適用範囲を「契約時間の10%以内」とする特別条項が設けられた。例えば、雇用契約上の労働時間が「週20時間」の場合、週当たり2時間分の超過勤務手当に対する所得税・社会保険料が減免されるが、それ以上の超過勤務分についてはこの措置は適用されない。これは、所得税・社会保険料の軽減を狙い、雇用契約上の労働時間をわざと短く設定し、超過勤務を増やすことで課税を逃れようとするケースを防ぐためである。

野党・労組は雇用効果に疑問

こうした措置により「労働コストの上昇が抑えられ、かつ購買力が向上する」と説明する政府に対し、野党及び労組は「この措置で恩恵を受けるのは、一部の賃金労働者にすぎない。労働者間の不平等が拡大し、雇用へのプラス効果は保証されない」と反発。CGT(労働総同盟)は、「社会保険料負担の軽減は雇用主にとっては非常に大きな魅力であり、雇用主は既存の従業員に超過勤務を強いる可能性がある。そうすれば、派遣労働者や季節労働者、有期の雇用契約で働く者などが、無期の雇用契約に転換される道を閉ざされるか、解雇される恐れがある」と主張した。また、社会保障制度の運営機関である全国老齢年金公庫(CNAV)及び全国家族手当金庫(CNAF)も、「社会保障制度が雇用政策の費用を拠出するのは筋違い」と強く反発している。

一方、経営者団体MEDEF(フランス企業運動)は、「従業員数20人以下の小規模な企業にとっては、社会保険料負担を1時間あたり1.5ユーロ軽減しても、超過勤務手当の割増率が引き上げられるため、コストの大幅削減にはつながらない」としながらも、「労働コストが高すぎるという認識がようやく芽生えた。豊かな国になるためには、より働く必要があり、労働者一人一人がより多く働けば、雇用が増加する」と、今回の法案に比較的好意的な姿勢をみせている。

こうした超過勤務促進策が実現されれば、年間で50~60億ユーロの所得税・社会保険料収入が減少するという。フィヨン首相は、「この政策で収入が減るだけで、支出が増えるわけではない。就労時間が長くなれば、超過勤務手当の分だけ給与が上がり、超過勤務手当にかかる所得税・社会保険料の免除により労働者の可処分所得が増し、労働者の購買力が向上する。個人消費が伸びた結果、企業の生産活動が活発化し、雇用が増加する」と主張しているが、その効果を疑問視する声も多い。

政府は法案を7月の特別国会に提出、10月1日からの実施を目指す。なお、大統領選挙後に発足した内閣は、直後に実施された国民議会総選挙で副首相格であったジュペ環境・持続的開発・エネルギー・運輸相が落選したため、発足からわずか1ヵ月での再組閣となった。大臣を辞職したジュペ氏の後任には、第1次内閣で経済・財務・雇用相だったボルロー氏が就任。経済・財務・雇用相には、ラガルド農業・漁業相が選ばれた。財務省トップに女性が就任するのは初めてのことである。さらに閣外相を第1次内閣メンバー(4名)に12名追加。外務・人権問題担当閣外相にアフリカ系フランス人女性(セネガル出身)のラマ・ヤッド氏(30歳)を抜擢するなど、第1次内閣に続き、改革推進を目指す「開かれた内閣」を強く印象づけるものとなった。

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