時間外労働割増賃金の改正
かねてより議論されてきた時間外労働割増賃金をめぐる公正労働基準改正法が8月23日に施行された。労働組合はこれに抗議して、同日、ワシントンDCの労働省前を始め、全米各地で抗議デモを行った。AFL-CIOによると、ブッシュ大統領が2003年3月に時間外割増賃金の改正を主張し始めて以降、合計160万以上にも及ぶ抗議の電子メール、FAX、手紙がホワイトハウス、議会、労働省へ送られたとしている。ケリー民主党大統領候補は、自分が次期大統領に選ばれたならば、今回の改正を直ちに撤廃するとしている。法律は改正されたものの、154ページからなる改正内容は非常に複雑であるため、使用者側も改正内容を理解し、それを個々の従業員に当てはめるのは容易ではないだろうと多くのコンサルタントは述べている。
改正のポイントは、年収が2万3660ドル(注1)以下の者は、自動的に時間外割増賃金の対象となること。1970年に定められたこれまでの定めでは、年収8060ドル以下が基準であったため、今回の改正により約130万人の労働者が新たに割増賃金の対象になると計算されている。しかし、従業員が時間外割増賃金対象にならないように企業が時給を引き上げ、実際にはもっと少ないものになるであろうと予測する声もある。第2のポイントは、年収10万ドル以上で管理や経営に携わる者は、エグゼンプト(割増賃金対象外者)と見なされること。問題は、年収2万3600ドルから10万ドルの労働者であり、使用者側がどう彼らの仕事を定義するかにより、対象者になるのかエグゼンプトになるのかが決まるとされている。今回の改定により時間外賃金の適用から外れる労働者数について、労働組合側は600万人としているのに対して、政府側は10.7万人と推定している。時間外賃金の適用から外れる者として、正看護師、保育士、飲食店マネージャー、コンピュータ関連労働者、葬儀屋、調理師などがあげられている。とくに正看護師は、これまでプロフェッショナル職とみなされてきたが、給与体系が時間給の場合が多く、時間外割増賃金も適用されてきた。しかし改正法では、給与体系が時間給、日給、月給のいずれにかかわらず、プロフェッショナル職はすべてエグゼンプトとみなすとしているため、正看護師はエグゼンプトの扱いを受けることになる。残業が恒常化している多くの正看護師にとって、残業代は年収の2-3割を占めるとされ、改正法が適用されると大きな年収減となる。ある病院では今後も正看護師に対する残業代を支払い続けるとしているが、残業代を支払わない病院が出てくれば、病院間の競走から残業代の中止に踏み切る可能性も少なくない。人事コンサルタントの一人は、「これまで受けてきた恩恵を従業員から奪うことは困難であるだけでなく企業自体に大きな負荷をかけるため、企業には新ルールの適用を行わないように助言している」と述べている。
約60年ぶりに行う今回の改正の背景には、増えつづける時間外割増賃金をめぐる訴訟を労働省が減らしたいとする意向があるとされる。1997年以降、時間外割増賃金をめぐる訴訟件数は2倍になり、雇用差別に関する訴訟数を上回っている。
注
- 1ドル=109.58円(※みずほ銀行ウェブサイト2004年9月2日現在)
参考
- Washington Post ”Rules for Overtime Pay to Take Effect.” Aug. 22, 2004.
- AFL-CIO. “Workers Protest Nationwide as Bush Takes Away Their Overtime Pay Protections.” Aug. 23, 2004.
- Knight Ridder Newspapers. “Opinions Still Divided On Whether Workers Will Suffer From New Overtime Rules.” Aug. 18, 2004.
関連情報
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