高齢者の所得保障政策をめぐって

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2004年6月

今後本格的な高齢社会を迎えようとしているオーストラリアでは、高齢者の所得保障問題に大きな関心が集まっている。近年芳しくなかった老齢退職年金の投資パフォーマンスが今年はかなりの回復をみせていることから政府や野党労働党は制度改革を検討する好機と捉え、改革案を公表している。

老齢退職年金制度とは

1986年に当時の労働党政権によって導入された現行制度は、労働者が政府拠出の公的年金に依拠するのでなく、賃金の一部を自らの老後のために拠出するという考えに基づいている。使用者は賃金の一部を控除し、それに自らの保険料を合わせ、退職年金基金に納める。基金は投資を通じ蓄財し、労働者は退職時に一時金または年金、あるいはその組み合わせによって受け取ることになる。政府拠出年金は、退職貯蓄が十分ではない者に対する最低保障という形で、平均賃金の25%を限度に支給される。一時金と年金には異なった税率が適用され、年金選択者を優遇するよう設計されている。

課題

第1次ベビーブーマーの引退が始まったことを契機に、退職年金支給額が老後の生活に不十分ではないかとの懸念が高まっている。これに伴い、退職年齢の引き上げやパートタイム労働の奨励、保険料率の引き上げ、税金や手数料の減免等に対する再検討の声が高まっている。このほか基金の口座の出入金に対する15%の課税や基金自体から徴収される手数料の問題(注1)や基金の投資戦略に対する批判がある。

連邦政府および野党労働党による改革案

連邦政府は、65歳を超えて退職年金保険料を納める場合の税額控除、および55歳以降の在職年金の導入等の労働者の就労促進・生涯現役を奨励するための政策を実施に移している。

  1. 政府の低賃金労働者が個人で負担する保険料を政府が補助する共同保険料制度(注2)の適用対象を年収2万7500豪ドル未満のすべての労働者に拡大した。これにより従前では賃金が低いために使用者の保険料負担の対象となっていなかった者も今回の措置で対象に含まれることになった。
  2. 年収が2万7500豪ドル~4万豪ドルの者についてはスライド制による保険料補助が実施される。
  3. 基金が課す手数料の透明性を高めるために、消費者への手数料の開示を要求。

他方、労働党のマーク・レイサム党首は2004年3月15日に新しい退職年金政策を公表した。これは65歳の定年を可能とし、加えて老後には退職前総賃金の65%を保障するというもので、政府の課税額と基金による種々の手数料を削減または制約することが提案されている。

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