上院社会問題委員会、貧困に関する報告書を提出

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  • 国別労働トピック:2004年6月

上院社会問題委員会は、2004年3月11日に国内における貧困の広がりを調査した報告書「Inquiry into Poverty and Financial Hardship」を公表した。今回の報告書は、過去30年間で初めて広範に貧困状態を調査したものであるが、連邦政府は社会問題委員会の多くの委員が野党労働党出身であるためにその内容が偏っていると批判している。報告書は、過去20年間の経済発展が国民に公平に分配されておらず、貧困、ホームレス、長期失業、自殺、児童虐待等が増加していると主張している。

報告書の内容

報告書は、まず貧困の広がりに関する専門的意見を検討し、200万人から350万人程度が貧困状態にあるという点で意見の一致があることを指摘している。オーストラリアの総人口は2000万人に達し、労働力人口は約900万人である。またある調査では、70万人超の児童がいずれの親も働いていない家庭で暮らし、貧困の連鎖から抜け出せない恐れが大いにあるという。さらに近年の経済成長も貧困からの脱出には十分といえなかった。すなわち、所得階層間の格差は拡大し、現在では世帯の21%が週400豪ドル(最低賃金以下である)に満たない金額で生活しているのである。

また今回の報告書は、貧困に関するこれまでの伝統的な解釈を転換している点に特徴が見られる。1975年に公表された貧困に関する調査報告書は、貧困の主要な原因を失業と捉えていたが、今回の報告書は貧困の原因の1つとして「ワーキング・プア」という新しい現象を指摘している。つまり、100万人を超える国民は、1人以上の成人が就労している世帯に属しているにも関わらず、貧困状態にある。このことは、低賃金労働の増加や拡大する労働者の非正規化、さらに労使関係制度の社会保護的側面の弱体化に起因する。例えば1988年から2002年の間に臨時労働者の数は87.4%も増加し、全雇用者に占めるその割合は2002年時点で27.3%に達している。

労使関係制度の社会保護的側面については、賛否はあるものの、一定の安定をもたらしてきたことは明白である。しかしこの制度はグローバリゼーションなどにより改革の嵐に見舞われ、現在ではその社会保護的側面はほとんど失われてしまった。同制度は、使用者がアワードで定められる最低賃金を支払うことを条件に、製造業に対する保護を行うことで、本質的には賃金労働者の福祉として機能してきた。このように、製造業における雇用は一種の社会福祉ともいえた。しかしながら、国際競争の激化とともに断行された労使関係改革により、これらは一掃された。

近年、オーストラリアは他の先進諸国に比べ相対的に高い成長率を記録している。その一方で生じている社会的保護の崩壊の結果は、報告書の中で詳細に記述されている。報告書は、貧困に関する国家戦略を検討・実施する首相直属機関の創設を勧告している。しかし、ハワード首相はこの勧告を即座に退けた。

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