資料:移民労働者のためのILO行動計画:グローバル経済における移民労働者の公正な取り扱い(ILO駐日事務所訳)

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2004年11月

移民労働者のためのILO行動計画

全ての移民労働者を公正に取り扱うためには、既存の国際労働基準とILO原則に一致した、権利をベースとしたアプローチが必要である。これらの基準と原則は、労働市場のニーズ及び領土への入国また移民が置かれる条件の決定も含め、各国が独自の移民政策を決定する主権を認識している。ディーセント・ワークを推進するより広範なコミットメントの一環として、ILO及び加盟国政労使は、次の事柄から発生しうる全ての人々への便益を最大化することが望ましいと同意している。それは、(1)経済成長と雇用を優先する政策を推進すること、(2)正規の労働移動を促進すること、である。これらの目標を達成するためには、国内労働法及び適用される社会保護へのアクセスにおいて移民労働者を自国民と平等に処遇する、非正規の移民にしばしば見られる搾取と闘うこと、全ての移民に基本的人権を推進することを目的とした国内政策を採択するとのコミットメントが必要であると認識されている。主権国家及び政労使のより緊密な連携が、より効果的な労働移動プロセス及び保護制度の構築に貢献しうることは明白である。この課題を前進させるため、ILO及び加盟国政労使は、他の関連する国際機関とのパートナーシップのもとに、行動計画を実施する。

本行動計画は次の事柄を含む。

  • 労働移動に関する権利ベースのアプローチのための非拘束的な多国間枠組みの開発
  • 国際労働基準及び他の関連性のある文書をより広範に適用するために必要な関連性のある行動の特定
  • ILOの世界雇用戦略を国レベルで実施するための支援
  • 能力構築、意識啓発及び技術支援
  • 社会対話の強化
  • 労働移動に関する世界的動向、移民労働者の条件、移民労働者の権利を保護するための実効的な対策に関する情報と知識基盤の改善
  • 本行動計画のILO理事会でのフォローアップ及び移民に関する関連性のあるコ育成的なイニシアチブへのILOの参加を確保するための機構

グローバル経済における移民労働者に関する非拘束的な多国間枠組み

加盟国におけるより効果的な労働移動政策の策定を支援するため、ILOの加盟国政労使は、各国労働市場のニーズを考慮した労働移動に関する権利ベースのアプローチのための非拘束的な多国間枠組みを開発することに合意した。この枠組みは、国際労働力移動の関係国における政策とベスト・プラクティスの情報、移住の経済的便益を拡充する既存の提案、関連する国際労働基準、1998年の仕事における基本的原則及び権利に関する ILO宣言とそのフオローアップ、その他関連する国際文書を参考にするとともに、これらを基盤とする。

この枠組みは以下の領域及びそれに限定されない領域に関するベスト・プラクティスの国際的な指針から構成される。

  • 各国における労働市場ニーズと人口学的動向を考慮しつつ、正規の労働移動を拡大する。適切な場合には、人口の高齢化が国の経済に及ぼす影響に対処するためのマネジメントされた移民を推進する。
  • 受入国と送出国間での二国間・多国間での協定など、就労目的のマネジメントされた労働移動を推進する。
  • ILO第181号条約及び第188号勧告に従い、移民労働者の募集・契約機関を認可し、監督をする。
  • 移民労働者のディーセント・ワークを推進し、移民労働者の権利に関する意識啓発を勧める。
  • 非正規の労働移動、不正な慣行、移民の密入国、人身取引を防ぎ、戦う。
  • すべての移民労働者の人権を保護し、推進する。移民労働者の社会統合及び社会への組み込みを推進する。移民労働者への差別を減じ、人種主義、排外主義をなくすための方策。
  • すべての移民労働者が、関連する全ての国際労働基準規定の恩恵が得られるよう確保するための方策を推進すること。すべと移民労働者が国内労働法制と適用される社会法の対象となるよう確保するための方策を講じる。
  • 労働監督を改善し、移民労働者が脅迫されることなく、苦情を申し立て、救済を求めることができるような手段を作る。
  • 送金コストを削減する方策及び送金を生産的に投資することを推進するインセンティブ。
  • 移民の帰国、出身国への再統合、移民による資本と技術の移転を促進する諸政策。
  • 移民の雇用可能性を高めるため、適切な場合には、移民労働者のスキルと資格の認識と認定を推進する。移民労働者の倫理的な募集採用のための指針の推進、スキルのある保健・教育労働者の十分な供給を確保するための、相互に便益のあるアプローチを模索する。
  • 「3K(きつい、汚い、危険)仕事」、家庭内労働及びインフォーマル経済に従事する女性など、特定の職業と部門に従事する男女の移民労働者が直面する特別なリスクに対応する。
  • 精勤移民に関しては、二国間・地域内・多国間の協定を通じて社会保障やその他の関連する資格の可搬性(ポータビリティ)を促進する。

ILOは政府代表、社会的パートナー及び関連する専門家と協議しつつ、2005年11月のILO理事会での検討に向けて、この非拘束的な多国間枠組みに含まれる指針を開発することになっている。

移民に関して現在存在する国際的な討論の場で行われている作業の重要性を認識しつつ、労働移動に関する三者間の対話を増幅し、この問題に関する政策的一貫性を改善するために、ILOフオーラムを他の関係する国際機関とのパートナーシップのもとに設立することも検討されている。

国際労働基準及び他の関連する文書

ILO第97号条約は42カ国、第143号条約は18カ国によって批准されている。ILOはこれらの条約の批准を阻む要因を特定することの取り組みを始める。これらの条約が策定された当時から労働移動の状況は変化し、また、「全ての移住労働者及びその家族の権利保護に関する国連条約」(1990年)、「国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約(2000年)及び関連二議定書」など、その他の関連する文書が各国、地域、国際レベルで策定されたことが考慮される必要がある。ILOは第97号及び第143号条約の批准及びこれらの条約に含まれる移民労働者の保護に関する原則の適用を推進するために、適切な手段を講じる可能性がある。このイニシアチブを行うに当たっては、ILOの基本条約及び民間職業紹介所、社会保障、賃金保護、労働監督、労働安全衛生に関する他のILO基準など、特に移民労働者に関連性の深い基準を包摂する必要がある。

移民の実効的なマネジメントと一貫して、非正規の移民労働者が直面する特別な問題、そしてこれらの労働者が濫用に対して弱い存在であることに十分な配慮が必要とされる。ILOの基準は、特別な記載がない限り、非正規の移民労働者を含むすべての労働者に適用されることが想起されるべきである。移民の人権と基本的な労働の権利が実効的に保護されるよう確保することが重要である。また、関連する国際労働基準の適用においてジェンダー側面及び季節労働者を含む様々な種類の臨時の移民労働者についても十分な配慮が与えられる必要がある。

移民労働者に関するILO基準に不足していると特定された事柄に、たとえば追加的な対策や国内法指針、政策と慣行などでどのように対処するかについて、さらなる調査が行われるべきである。

ILOは移民労働者に関係する国際労働基準の適用に関する定期的な報告書を作成し、広範に普及させることとする。

能力構築と技術支援

労働移動政策・行政の多くの領域で技術支援が必要であると加盟国の多くが表明したことを受けて、政府及び社会的パートナーが労働移動に関する国及び地域の政策と慣行を策定し、実施するために、助言サービスと技術協力の拡大がILOにとっての主要な優先事項であるべきである。そのような能力構築と技術支援は、とりわけ以下の活動を推進するべきでろう。

  • ジャンダーに配慮した国の移民政策の開発を支援する。
  • 加盟国に対し、法規制の見直しと更新、労働移動に関する実践的な対策の実施、行政制度及び実施機構の改善について支援する。
  • 各国で移民を誘発する状況を緩和するために、加盟国に対しILO世界雇用戦略を各国レベルで実施することも含め、ディーセント・ワークの機会を国内で創り出すことを支援する。
  • 国レベルで労働移動を監視するための、また移動労働者に関する国のデータベースを開発するための能力構築への支援を行う。
  • 労使団体が労働移動・統合政策の策定と実施へ参加する能力を強め、移民労働者に対する平等な処遇を推進する。
  • 移民労働者に関わるILO基準への認識と理解を深め、加盟国の労働移動政策・計画がこれらの基準に則ったものであるよう加盟国を支援する。
  • 移民労働者への労働者保護を提供し、関連するILO条約及び文書の中で特定されている労働の原則と権利が保護されることを確保するように労働法制を強化する。労働監督業務、労働裁判所などの当局の能力を高め、労働法の遵守を確保する。
  • 労働の権利について意識啓発を行う。人種主義、差別、排外主義をなくすための対策と活動を開発し、推進する。

上記のような能力構築活動及び技術支援プロジェクトの策定と実施において、トリノにあるILOの国際研修センターを関与させる事が必要である。

グローバルな知識基盤の開発

ILOは、加盟国政労使及び適切な場合には他の国際機関と共に、国際労働移動に関するグローバルな知識基盤を構築し続ける必要がある。そのために、次の分野に調査を集中し、知識管理ツールを強化する必要がある。

  • 移民のジェンダー側面に含む、移民労働の領域における継続的な質的・量的調査。
  • 外国人労働者に対する求人及び求められる技能に関する将来の情報交換のためのモデル開発。
  • 労働移動マネジメント・移民統合政策の関連分野における「ベスト・プラクティクス」に関する情報・概要の収集及び普及。
  • 特にILOの国際労働移動データベースを拡充することを通じて移民統計を改善するための各国間の協力と情報交換。
  • 将来の移民の流れに関係する長期的な労働市場の動向及び相互の便益を最大化するための調整政策に関する研究。

社会対話

加盟国及び労使団体に対するILOの支援が、次の分野で求められる。移民に関する国内の社会対話のための機構の設立、関連する国際的な討議の場への社会的パートナーの参加の促進、啓発資料の準備、移民へのサービス提供、差別をなくし統合を進めるための活動の実施、その他の懸案に対処すること。

フォローアップ

ILO理事会は適切な場合に、定期的に結論及び行動計画の実施状況を検討する。この目的のために、ILO理事会に移民に関する常設委員会を設立することが検討される。

ILOはこの行動計画を推進するために、関連する国際的な討議の場に積極的に参加し、他の関連する国際機関との協力を拡充することが期待される。

本文書は、2004年6月の第92回ILO総会において採択された「グローバル経済における移民労働者の公正な処遇に関する決議」からの抜粋。

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