特集1:フランスにおける失業保険の位置づけとその歴史
雇用政策のなかの失業対策

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2003年9月

(1) 失業対策の変遷

従来、戦後の福祉国家建設の文脈において、失業対策は失業保険の給付、つまり失業の金銭的補償を中心としてきた。しかし近年では、むしろ失業を未然に防ぎ就労を促進するという、より能動的な政策へのシフトが見られる。

ここでカギとなるのは職業訓練である。失業者に対しては公的機関が職業訓練を実施し、就労中の者にもその職能を時代に適応させるため様々な職業訓練制度が用意されている。こうして失業者の求職活動を支援し、また就労者の失業をできるだけ防ぐのが狙いである。

もちろん、社会連帯精神に基づく従来の失業扶助も存続している。ただしこの場合にも、再就職が最優先課題として掲げられ、金銭的援助をしながら社会的疎外者を労働市場に組み入れることでより完全な福祉が実現できると考えられるようになっている。

このような政策のシフトについて、以下でより詳しく見ることとする。

  1. ルクセンブルクEUサミットにおける決定

    上で述べた、いわゆる「労働へ向けた福祉(Welfare to Work)」の考え方はヨーロッパにおける潮流でもある。1997年11月のルクセンブルクEUサミット(注1)では失業対策が重要課題として取り上げられ、この時採択された共通目標(「雇用ガイドライン」)はまさにWelfare to Workの考え方に沿うものである。EUは、失業者に対して就職先を斡旋するだけでなく、職業訓練および資格取得のチャンスも与えることを、雇用政策の優先項目として加盟国に示した。

    これを受けてフランスでは、2つの新しい失業対策プログラムが導入された。若年失業者に対してはTRACE プログラム(Trajet d’acces a l’emploi:雇用への道のり)、長期失業者に対しては「ニュー-スタート(Nouveau Depart)」によって、それぞれ再就職支援が強化されることとなった。

    これらと並行して、雇用創出促進の目的から、1997年に雇用主および被用者の社会保険料負担が引き下げられ、同時に失業給付の額が引き上げられた。

  2. 貧困・社会的疎外者対策計画

    1998年には新たに「貧困・社会的疎外者対策計画(Le Programme de lutte contre la pauvrete et l’exclusion social)」がスタートした。3年計画、予算76億2000万ユーロのこのプログラムでは、社会的疎外者救済の手段として雇用へのアクセスが重視され、また失業予防対策として資格取得や技能開発に力点が置かれている。

    このほかにも、1998年には週35時間労働法や社会的疎外対策法など雇用対策上必要な諸法律が議会で成立し、98年度の雇用促進行動計画を実行するための予算が実際に計上され、また職業安定所などの公的雇用機関の人員が大幅に増員された。

    雇用政策の成果としては、若年者雇用(Emploi jeunes)による雇用創出が16万件あり、また11万5000人の若年・成人失業者が「ニュー・スタート」プログラムの対象となった。それらが手伝って、1998年を通じて失業者は大幅に減少し、進行中の各種雇用政策には肯定的な評価が下された。

  3. 雇用促進行動計画

    1999年の雇用戦略は前年に引き続いて、1)より高い経済成長、2)いっそうの雇用拡大、3)国民全体への経済成長の果実分配、という3点を基本的な柱とした。そしてここでも、継続的職業訓練制度など、失業を未然に防止する措置が重視されている。この年の雇用促進行動計画には、職業訓練制度の改善(特に、職業訓練を個人の権利として定義)、学業の中途放棄防止の対策強化、高齢労働者に対するいっそうの配慮、男女間の機会均等の強化などの目標が新たに盛り込まれた。

    背景となる雇用市場の状況は、この時期目立って改善された。それは1998年度の雇用促進行動計画が奏功したことと景気の回復とに起因している。1990年代初めには年平均ほぼ1%にとどまっていた経済成長率は、97年半ばから堅調になり、98年には3.2%に達した。失業率は、1997年6月の12.6%をピークに99年4月時点で11.4%まで下がり、この間に職安登録者の数は28万人減少した。1999年には、98年の水準には及ばないながらも、賃金雇用は1.6%増加となった。これは、若年者雇用をはじめとする積極的な雇用政策と時短の効果とが表れたものと見られる。

    しかし、全般的な雇用状況は改善されたものの、その実態をより詳しく見ると、労働市場の不均衡は是正されないままであることが分かる。失業者の減少は若年層および男性を中心に見られ、高齢失業者はほとんど減っていない。長期失業者は1998年9月から99年4月にかけて6万5000人減少し(▲5%)、求職者全体に占める長期失業者の割合は38%に低下したが、長期失業者の再就職が困難であるという状況には変わりがない。そのため1999年度の雇用行動計画では、就職が難しい長期失業者や低職能者に関する取り組みが改めて強調された。状況が改善されたとはいえ労働市場への参加が依然として困難な若年層についても同様である。また、女性の再就職や不安定雇用の問題に関する取り組みも強化された。

  4. PARE導入、貧困・社会的疎外者対策全国行動計画

    1997年からの一連の雇用政策の結果、2000-2001年にフランスの雇用状況は引き続いて改善され、失業率も低下した。1988年に始まった社会参入最低所得(RMI)の受給者も、この時期初めて減少に転じた。

    そのようななか、2001年にUNEDICの新失業保険協定が締結され、再就職支援プラン(PARE)が導入されることになった。この新制度については後に詳しく見るが、失業者に対して、失業手当の給付と並行して個別の再就職支援行動計画(PAP)を策定し、金銭による補償にとどまらず、再就職をも奨励するという点が新しい。

    1998年にスタートした「貧困・社会的疎外者対策計画」が期間満了を迎えたため、それを引き継ぐ形で、2001年7月に「貧困・社会的疎外者対策全国行動計画(Le Programme national d’action de lutte contre la pauvrete et l’exclusion social)」が制定された。この新プログラムでは、連帯精神に基づく基本的権利享受のための諸施策のほかに、貧困層救済の一手段として、とりわけRMI受給者や長期失業者、若年失業者を対象とした再就職支援策が重点項目となった。労働により適当な収入を得ることが各人の自立と尊厳につながるという考え方に立ち、このプログラムは、就労が社会復帰の第一歩であると位置づけた。

    具体的にはまず、若年層の就労をさらに促すため、1997年に導入されたTRACEプログラムを強化する形で、月額300ユーロの雇用アクセス手当(Bourse d’acces a l’emploi)が創設された。

    雇用から遠ざかっている者に対する就労支援策としては、ANPEによる個別サポートが導入された。これは、長期失業者のための再就職支援プログラム「ニュー・スタート」の枠内で提供されてきた個別サポートも包含するものである。具体的には、これらの求職者の地理的移動を可能にする交通費援助が設けられ、また、約60万人のRMI受給者および約25万人の特定連帯手当(ASS)受給者に対しては個別行動計画(PAP)が策定されることになった。

    職業訓練制度も求職活動を促進するうえで重要な役割を担う。2001年全国行動プログラムでは、職業訓練を受ける失業者に対する報酬が見直された。さらに、失業者の再就職を仲介する団体への補助金制度が創設されたり、起業を試みる求職者に助成金を交付することを決めるなど、失業者の就労支援につながる経済的措置も強化された。

    2001年の雇用動向を詳しく見てみると、失業者数は前年比で2.2%増加したものの、長期失業者数は前年比9.1%減と大きく改善した。2年超の長期失業者の減少は16%に達し、目標であった17%減を概ね達成した。特に、女性の長期失業者の再就職が顕著であった。2001年12月末時点で、女性の求職者数は前年比10.8%減少し(男性は▲7.1%)、長期失業者全体に女性が占める割合は51.2%と、前年から1%ポイント下がった。

(2) フランスにおける雇用失業対策のまとめ

失業の金銭的補償のほかに、近年フランスで実施されている雇用失業対策をここでもう一度整理しておくこととする。

  1. 若年層および成人求職者の就職適性の強化(TRACEプログラム、ニュー・スタートなど)。
  2. 職業訓練の強化。
  3. 疎外者の社会復帰支援(PAREほか各種措置)。
  4. 高齢労働者対策。高齢労働者については、ほかのEU諸国と同様に、早期退職を奨励する措置が残存している。一方で、一部企業に見られる高齢者解雇の傾向に歯止めをかけるため、50歳以上の従業員を解雇した場合に企業に「ドララント拠出金」と呼ばれる課徴金を課している。
  5. 就学中からの就労準備。政府は将来の就職を考慮し、学校からのドロップアウトを防ぐべく、一連の措置を義務教育レベルから実施している。
  6. 起業奨励と雇用拡大。付加価値税や社会保険料に関する手続きを簡素化し、企業設立・経営を容易にし、それによる雇用の拡大を図っている。また、低職能者を雇用した企業に対して社会保険料負担を軽減するなどの措置もとられている。
  7. 企業と労働者の時代への適応を支援(アダプタビリティーの向上)。
  8. 労働編成の近代化。雇用拡大のために時短を促進する。また、有期雇用契約、一時雇用の扱いを改善。
  9. 男女の機会均等の強化。仕事と家庭の両立や、子育て後の再就職などがより容易になる環境を整える。

(3) 失業対策への世論の評価

これら一連の国の失業対策を、国民はどのように評価しているだろうか。2002年4月にDARES(社会問題・労働・連帯者調査統計局)が発表したアンケート結果によれば、失業対策全体に対する国民の評価はややネガティブなものである。個々の政策別で見ると、国民に有効だと思われているのは、職業訓練への補助金(23%)、雇用促進のための企業向け補助金(18%)、社会保険料の雇用主負担分の軽減(18%)などで、失業者への交通費援助(12%)、早期退職の促進(7%)などがこれに続いている。

2001年春以降、フランスでは景気が減速傾向にあるため、それが雇用政策に関する批判的な意見に反映されていると見られる。困窮者救済政策に対する好意的な意見も全体の34%にとどまり、過去5年間で初めて低下した。この数字は、失業率が大きく低下した1997年から2001年にかけては大幅に上昇していた。失業対策への国民の関心は高いが、その評価は微妙である。就職が困難な者に対する諸支援策については、あまり有効に活用されていないという意見が多い。一方、若年層に対する失業対策は概して好意的に評価され、全体の3分の2が若年層に対する雇用促進措置が失業者減に貢献したと考えている。

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