特集2:失業保険制度
失業保険制度の概要

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

カテゴリー:雇用・失業問題

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2003年9月

今日のフランスの強制的失業保険制度は、1958年12月31日の労使間合意によって生まれた。被用者と雇用主の双方が保険料を拠出し、運営機関であるASSEDICが過去の労働期間中に保険料を納めていた失業者に対して失業手当を給付する。また徴収された保険料の一部は、再就職支援のためにも使われている。

失業保険制度の運営は同数代表主義に基づいている。規定文書の策定と解釈、規定の実施を担当する組織の運営は、すべて雇用主側諸組織と被用者側諸組織(労働組合)からそれぞれ同数の代表者が出てこれに当たる(注1)。雇用主側組織には大企業を会員とするMEDEF、独立技能職者の団体であるUPA、そして中小企業を会員とするCGPMEとがあり、対する被用者側組織はCFDT、CFE-CGC、CFTC、CGT、CGT-FOの各労働組合である。これらが全国レベルで全職種に共通の合意を形成する。

なお、現在の失業保険協定は2001年1月1日に締結されたもので、2003年末まで有効である。協定の発効期間中でも、労働市場の動向や制度の財政状況に応じて、労使間交渉によって協定に修正が加えられることがある(注2)。

(1) 運営機関:UNEDICとASSEDIC

失業保険制度はUNEDICとASSEDIC(およびGARP(注3)によって運営される。UNEDICは全国レベルで制度を管理し、被保険者にとって実際の窓口となるのは地方機関のASSEDICである。UNEDICもASSEDICも1901年社団法人法に基づいて設立された民間の非営利組織で、その内部の運営も労使同数代表主義に立っている。

  • 全国商工業雇用連合(UNEDIC)

    UNEDICは、失業保険制度全体の運営が統一的に行われるように、ASSEDICの活動を調整する役目を負っている。また、制度全体の資金運営もUNEDICの担当である。UNEDICの意思決定機関は運営評議会で、労使双方それぞれ25人、計50人の評議員によって構成される。理事長の任期は2年で、労使の評議員から交互に選出される。

  • 商工業雇用協会(ASSEDIC)

    被保険者にとっての直接の窓口であるASSEDICは、フランス全土に30の事務所がある。各事務所はさらに分所を置いて、地元の雇用関連団体・機関と連絡を取りながら、地域に密着したサービスに努めている。ASSEDICの任務は、その所轄地域内における企業の登録と保険料の徴収、求職者の登録、失業および連帯手当の給付、再就職への支援である。

(2) 国の役割

国は労使による運営を原則とする失業保険制度のなかでどのような役割を果たしているのだろうか。まず、労使間で結ばれた失業保険協定を国は承認し、それによって民間部門の雇用主および被用者の総体にこの協約が義務的に適用されるようにする。つまりこの承認は、国が失業保険制度の法律的・経済的な意味での一種の保証人になることを意味しており、また、国は労使の取り決めに対して一種の拒否権を保持しているともいえる。

経済的な意味では、具体的に、失業保険金庫が一時的にその収支バランスを保つために銀行と借入契約を結ぶ際に、その保証人になることがある。同時に、国の会計検査院は、必要がある場合に、失業保険金庫の予算運営について事後監査を行う(注4)。

また、失業保険運営機関と雇用・失業問題を取り扱う国の諸機関(下記参照)の間では、雇用促進や失業者の再就職のための職業訓練の実施などに関して、常時協力が行われている。

  • 国立雇用機関(ANPE)

    社会問題・労働・連帯省の所轄の外局で、求職者の再就職を支援する。日本の職業安定所に相当し、求職者リストを管理して、求人企業と求職者との橋渡しをする。求職者に対しては、就職と職業訓練を支援する目的で、情報提供、アドバイス、オリエンテーションを行う。企業に対しては、求人をサポートするほか、解雇した従業員の再就職のための支援も行う(注5)。

  • 社会問題・労働・連帯省関連部局

    政府の雇用・職業訓練政策担当部局には、全国レベルでの雇用・職業訓練総局(DGEFP)と県レベルでの県労働・雇用・職業訓練総局(DDTEFP)とがある。両者は、求職者の就職活動の管理を行い、場合により失業手当の給付の継続が適切であるかを判断することもある。特定の補助金や手当の給付に当たっての審査も行う。

  • 全国成人職業訓練協会(AFPA)

    成人の職業訓練機関・団体は数多く存在するが、AFPAはそのなかで中心的な役割を果たす社会問題・労働・連帯省所轄の機関である。職業訓練、オリエンテーション、人事関連のコンサルティング活動を行っている。失業者支援にとどまらず、就労中の被用者への職業訓練も対象とし、情報提供、職能評価、適切な訓練制度の指示・指導を行っている。

(3) 保険料

失業保険料の納付はすべての被用者および雇用主に義務づけられており、納付方法は源泉徴収である。保険料金については労使交渉で決定され、給付総額に応じて絶えず調整される。失業保険制度の財源の大半はこの保険料によっている。2001年の失業保険制度の収入総額は227.2億ユーロであったが、そのうち保険料収入は209.8億ユーロで収入全体の92%を占めた。

保険料率は、景気が上向いた1997年半ば以降、失業者の減少と雇用件数の増加に伴って、被用者負担分、雇用主負担分ともに引き下げられた。2002年には給与総額(注6)の5.60%まで下がったが、景気の減速の影響から2002年7月以降再び上昇に転じ、5.80%(雇用主3.7%、被用者2.1%)となった。それでも2002年の失業保険収支が赤字化すると予想されたため、2002年12月の失業保険協定改定で保険料率はさらに引き上げられ、2003年1月1日からは6.40%(雇用主4.0%、被用者2.4%)となっている。

(4) 加入者数

失業保険制度に加入している被用者の数は、2002年時点で1590万人に上っている。加入者数は、景気の低迷により失業者が著しく増えた1990年代初めに落ち込んだが、97年以降着実に増加している。

(5) 失業手当給付

1.失業保険手当はいくつかの種類に分かれる。

最近の失業保険協定改定によって、手当の統廃合が進んでいる。

  • 雇用復帰支援手当(ARE)

    現行の失業保険制度において最も基本となる手当で、2001年の新協定によって導入された。従来の一律漸減手当(AUD、後述)が漸減手当(注7)であったのに対し、AREは給付期間を通じて額は変化しない。給付期間と給付額は年齢と保険料納付期間に応じて算定される。AREの対象となるのは、2001年7月1日以降にASSEDICに求職登録をした失業者と、それ以前からの求職者で新しく再就職支援プラン(PARE)契約を選択した者である。

  • 一律漸減手当(AUD)

    2001年の新協定によって、原則としてAREに代替されることになったが、2001年7月1日以前の求職登録者でPAREを選択しない者、あるいは芸能関係の断続的就労者は例外的にAUDの対象となる。年齢と保険料納付期間に応じて一定期間満額が給付された後、AUDは182日ごとに漸減する。漸減率は失業者の所属する制度によって異なる。

    ARE、AUDのほかに、最近統廃合された失業保険手当に以下のものがある。

  • 高齢失業者手当(ACA)

    老齢年金の保険料納付期間が160四半期を超える高齢失業者を対象に60歳まで給付されていたが、2001年12月31日に廃止された。その後は、雇用契約満了日に55歳未満の失業者だけが対象となっている。ただしその場合にも、事前解雇通知日(解雇通知がなかった場合には契約満了日)が2001年12月31日以前のケースに限られている。

  • 雇用代替手当(allocation de remplacement pour emploi: ARPE)

    失業保険制度による早期退職措置で、60歳を前に退職した被用者に対して、在職中の給与総額の65%を給付していたが、2003年1月1日に廃止された。

  • 特定職種転換手当(allocation specifique de conversion: ASC)

    2001年の新失業保険協定以前は、勤続2年以上の従業員を解雇する際には、雇用主は被解雇者の職種転換に協力する義務があった。この職種転換協定(Conventions de conversion)の対象となった失業者に給付されていたのがASCで、2001年の新協定後はAREに一本化された。

2.雇用復帰支援手当(ARE)のしくみ

ここでは、現行の失業保険制度の下で主要な失業保険手当となっている雇用復帰支援手当(ARE)の仕組みについて詳述する(注8)。

  1. 給付条件

    AREの受給には、まず、過去22カ月の間に少なくとも6カ月間就労していたことが必要である。職業訓練期間も労働期間に算入することができる。

    ついで、最後の離職(最終の在職期間が91日未満の場合はその前の離職)が自発的なものではないことも受給の条件である。自発的に仕事を辞めた者は、失業手当を受給できない。ただし、自発的な離職でも正当な理由が認められる場合(例えば、配偶者の就職に伴って転居を余儀なくされた場合など)は、このかぎりではない。深刻な過失、重過失による解雇の場合も含めて、解雇による失業はすべて失業手当給付の対象となる(注9)。

    失業手当の受給には、労働に必要な身体的能力がなければならない。疾病の場合は、失業保険ではなく社会保障制度(社会保険)による補償の対象となる。

    求職者登録も受給の条件である。ASSEDICに求職者登録をし、毎月、自己の就職可否状況について報告しなければならない。また、単なる登録にとどまらず、求職活動を実際に間断なく行っていることも求められる。これはPARE契約の誓約事項として盛り込まれている。

    最後に、AREの給付は60歳未満の失業者が対象である。60歳以上でも、老齢年金の満額受給に必要な保険料納付期間(2002年では159四半期)を満たしていない場合に、規定の期間内で例外的に失業保険手当を受給できる。ただし、65歳を超えた者に対しては、失業保険手当は一切給付されない。

  2. 給付額の算定

    失業保険手当の額は、失業者の過去の給与額と勤務形態(フルタイム、パートタイム、季節労働など)に基づいて算定される。

    • 過去の給与額による算定基準

      税、社会保障負担金を差し引く前の給与総額が基準となる。これには、解雇補償金など、失業に関連する補償金は算入しない。手当の額が一定を超えると、社会保障負担金が控除される。給付額は日割り計算で、手当は月ごとにまとめて支払われる。

    • 勤務形態による算定基準

      失業前にパートタイム就労だった場合、その勤務時間数に応じて、失業保険手当の一律給付分または最低給付額が割り引かれる。例えば、半日勤務だった失業者については、失業保険手当の一律給付分または最低給付額が半額となる。

      季節労働者の失業(保養地でハイシーズンのみ勤務していた場合など)、あるいは3年連続での同時期の失業の場合にも、過去12カ月間の勤務時間数に応じて、基礎給付、最低給付額、一律給付分が割り引かれる。

  3. 給付開始日

    すでに給付を受けている場合を除き、初回給付は求職者登録が受理されてから7日後となる(注10)。なお、当該失業者が前職における未消化の有給休暇を補償金に換算して受け取っている場合、この補償金によりカバーされる日数分だけ給付無効期間(carence)として給付開始が遅れる。同様に、当該失業者が規定額以上の就労中断補償金(indemnite de rupture、退職金に相当)を受け取っている場合にも、75日を上限に特別給付無効期間(carence specifique)が設定され、失業保険手当の給付開始が猶予される。

    例:前職の契約満了日が3月31日で、有給休暇補償が15日分あり、規定額を1372ユーロ超える就労中断補償金を受け取り、前職の給与日額が38ユーロ(月額1140ユーロ、1カ月30日で計算)であった場合。

    • 失業保険手当は就労日数ではなく月次日数で給付されるため、有給休暇補償による給付無効期間は15日×7/6=17.5 17日となる。
    • 就労中断補償金超過分による特別給付無効期間は 1372ユーロ÷38ユーロ=36.1 36日となる。結果、合計53日の給付無効期間が発生し、求職者登録の手続き期間7日を合わせて、当該失業者が失業保険手当を受給できるのは5月31日からとなる(5月24日までにASSEDICへの求職者登録を済ませた場合)。
  4. 給付期間

    失業保険手当の給付期間は、離職前の労働期間と失業者の年齢とによって決まる。すでに失業保険手当を受給していた期間は労働期間には含まれない。

    なお、すでに365日を超えて失業保険手当を受給中で、かつ59歳6カ月以上の者は、規定の給付期間を超えても年金受給開始まで失業保険手当を受給できる。また60歳以上で、年金の満額受給に必要な保険料納付期間を満たしていない者は、65歳を限度に、年金受給が可能になるまで失業保険手当を受給できる。なおこの場合、老齢年金保険料納付期間がすでに100四半期(そのうち12年間は被用者としての労働期間)あることが要件となる。

    2002年12月の失業保険財政悪化に伴う失業保険協定見直しによって、2003年1月1日以降の新規失業者については、以下の給付期間が適用されることになった。従来に比べて、給付期間は短くなっている。

  5. 給与と失業保険手当の並行受給

    給与所得を得ながら同時に失業保険給付を受けることも、以下の2つの場合において可能である。並行受給は最長18カ月までだが、50歳以上の者についてはこの制限はない。

    • 失業中に限定的あるいは単発的に就労する場合

      パートタイム労働など、限定的あるいは単発的な雇用で、就労時間が月137時間未満の場合は、失業保険手当の受給を部分的に維持することができる。その際、求職者登録を済ませていることと、前職の給与額の70%を上回らないことが条件となる。受給できる失業保険手当の額は、(限定的)再就職先の給与総額によって本来の失業補償日数を相殺した残余分である。50歳以上の者については、相殺される失業補償日数が20%割り引かれる。

    • 複数の職を持ち、そのうちの1つまたはいくつかの職を失った場合

      就労時間の総計が月137時間未満であれば、失業保険手当の受給を部分的に維持することができる。この場合にも、求職者登録済みであることと、現在の給与所得が失職前の給与総額の70%を超えないことが並行受給の条件である。

  6. 給付の停止

    失業保険手当の給付は以下の場合に停止される。

    1. 求職者登録を抹消した場合(ただし、求職活動を免除されている失業者を除く)
    2. 社会保障制度の枠内で、医療保険あるいは労災・職業病保険による現金給付を受けている(または受ける権利がある)場合
    3. 行政決定あるいはANPEによる登録抹消の場合(とりわけ、求職者が正当な理由なく就職提案を拒否した場合)
    4. 規定の失業保険手当受給期間を終えた場合(この場合、国の連帯制度による手当の対象となる)
    5. 60歳から65歳までの者で、老齢年金の満額受給に必要な保険料納付期間を満たした場合。また60歳に達し、老齢年金の保険料納付が満期に達していないものの、就労不能の理由から年金受給を開始する場合。65歳に達した場合
    6. 養育手当(allocation parentale d’education)または児童付き添い手当(allocation de presence parentale)を受給する場合
    7. フランス国外に居住する場合
    8. 手当の受給に際して不正確な申告をするか虚偽の証明書を提出した場合

    ここで注意するべきは、再就職によって自動的には失業保険手当の給付停止に至らない点である。再就職による給与所得と失業保険手当の部分的受給は、上記のとおりに、原則として18カ月まで並行可能である(50歳以上の者については18カ月の制限はない)。

関連情報