解雇に関する労働者憲章第18条改革の新たな議論

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年5月

2001年10月に政府により「労働市場白書」が提出され、その内容を受けた委任立法案が承認されると、深刻な社会的対立が表面化し、とくに労働者憲章第18条を中心とする労働問題に関する議論が激化した。

2002年当初は、三大労組が団結して2001年委任立法案848号10条に関する交渉を拒否する状況が続いた。同委任立法案は、正規就業と期間の定めのない契約での採用を促進するため、同委任立法案を実施する法の施行日から1年以内に、原職復帰に代わる賠償方法を暫定的に認めようとするもの。原則および準則は、次のとおりであった。

  1. 差別的解雇、結婚に際しての女性労働者の解雇、疾病または出産を理由とする解雇の禁止を確認する。
  2. 今回の暫定的措置は、委任立法の施行日から4年間とする。ただし、就業への影響次第で、延長の可能性もありうる。
  3. 施行日から2年以内に採用された労働者への適用除外、有期雇用から期間の定めのない雇用への転換など正規化措置、小規模企業の企業規模拡大支援策には、客観的な合理性があることを認める。

こうした政府の動きに反対して実施された2002年4月16日のゼネストにより、事態は膠着化し、交渉再開の見通しが立たない状況であった。地方選挙の直前という政治的に微妙な時期であったことも、こうした膠着状態を悪化させた。政府側は18条の改革を修正する気がなく、この点の修正を大前提とする労働組合側(この時点では分裂していなかった)との溝が深かったのである。

イタリア協定および労働組合の分裂

真の転換点は、2002年5月31日であった。すべての使用者組織と、CGIL(イタリア労働総同盟)を除くすべての労働組合が、政府との交渉再開を内容とする合意書に署名した(キージ邸合意)。この合意が得られたのは、労働者憲章第18条の適用範囲の修正を、政府が提案したためであった。この提案は、「イタリア協定」および第2次848号委任立法案に組み込まれ、現在上院で審議中である。

848号委任立法案が3つのテーマ(闇労働の正規化、有期契約の転換、小規模企業の企業規模拡大)を定めていたのに対し、第2次848号委任立法案では、企業規模拡大にとくに重点が置かれている。

新提案によれば、3年間に新規に労働者を採用したことで(848号委任立法案が定めていたように、期間の定めのない契約での採用に限定するのではなく、訓練労働契約や有期契約での採用も含める)、その従業員数が15人を超えるに至った企業には、引き続き18条を適用しない。つまり、新規定は、適用領域の決定に関する新たなルールを導入しただけであり、これまで18条により保護されてきた労働者は、依然としてその利益を享受したままである。

具体的には、「損害賠償と原職復帰との二者択一」が定められている(損害賠償の評価は、仲裁裁判所が行う)。この新たなルールの狙いは、中小企業の企業規模拡大を妨げている労働市場の硬直性を取り除くことである。

労働者憲章第18条に関するレファレンダム(国民投票)

イタリア協定で定められた労働者憲章第18条の修正および同協定の署名に反対して、昨年10月18日にCGILによりゼネストが組織されてから、まだ数ヶ月しかたっていない。CGILと労働法専門の多くの弁護士は、とくに、新規定の合憲性を疑問視している。つまり、同規定によれば、同数の従業員を抱える企業の取扱いに不平等が生じるため、憲法3条の定める差別禁止原則に反するというのである。この点については、明確な答えがあるわけではない。憲法院がこの問題について判断するとすれば、従来の判例がそうであったように、採用された措置の合理性を、当事者の利害関係を考慮して判断することになろう。

昨年末の記者会見で、ベルルスコーニ首相が、18条に関する措置を取りやめる意思があることを表明して以来、解雇に関する議論はいったん沈静化したかに見えたが、この問題は、最近再び議論の的となっている。というのも、労働者憲章第18条の適用に関して、数の制限と適用除外を定める規定の廃止を求めて、共産党再建派党と緑の党から提示されたレファレンダムの提案について、憲法院が、1月15日に、これを認める判断をしたためである。同条は、「正当事由または正当理由なく」なされた解雇の場合に、裁判所の判決を経た後に、従業員の原職復帰を使用者に課している。現行法では、同条は、次のように適用される。

  • 同一事業所において、15人(農業および商業企業の場合は5人)を超える従業員を雇用している使用者(事業経営者か否かを問わない)。
  • 個々の事業所の従業員数が15人を超えない場合でも、同一の市町村において、15人(農業および商業企業の場合は5人)を超える従業員を抱える使用者(事業経営者か否かを問わない)の労働者。
  • イタリア全土で、60人を超える従業員を雇用している使用者(事業経営者か否かを問わない)。

従業員数の算定に関しては、訓練労働契約で採用されている労働者も従業員数に含める。一方、有期労働者が含まれるのかについてははっきりしない。使用者の配偶者および2等身までの親族、見習労働者および派遣労働者が除外されることは規定上明らかである。パートタイム労働者は、実際に遂行した労働時間の割合に応じて考慮される。

現行法上18条の適用領域から完全に排除されているのは、独立労働者、上級管理職、従業員数15人以下の企業の従業員、営利目的をもたず、政治活動、組合活動および文化活動を遂行する事業者の従業員、労働組合や政党の従業員、見習労働者および社会的有用労働者である。

レファレンダムが認められるならば、18条の規定は、すべての労働者に適用されることになる。具体的には、従業員数15人以下の企業の労働者290万人、非営利企業の労働者53万1千人、協同組合の労働者77万人、そして政党や労働組合の労働者のすべてである。

多数派政党および反対派政党の立場

政党の多くは、レファレンダムに反対しているといわれる。論拠等に違いはあれ、Confindustria(イタリア工業連盟)、Confaritigianato(職人同盟)、CNA(職人および中小企業全国同盟)およびConfesercenti(個人経営者同盟)なども反対を表明している。Roberto Maroni労働社会政策大臣も、「レファレンダムが認められれば、イタリアはヨーロッパから遅れをとることになろう」と述べている。労働者憲章の生みの親であるGino Giugniも、「このレファレンダムは、これを推進した者による大きな間違いであり、不成功に終わるだろう」と述べ、はっきりと不賛成の立場を示している。

このレファレンダム請求をきっかけに、政党オリーブの木の内部では分裂が生じているが、さしあたり対立を調整し、与党への非難に呼応している。左派の少数政党である緑の党は、レファレンダムの推進者である。

レファレンダムに反対の立場をとっている左翼民主党は、手工業企業と小規模企業の特殊性を考慮できるような特別な委任立法案を提出する予定であると述べている。

一方、オリーブの木の同盟政党であるマルゲリータ党(中道)は、こうした法案の提出に合意していない。というのも、法案作成のための時間がなく、技術的に非効率であり、また、「このような方向性をもった委任立法案は、小規模企業社会に新たな硬直性をもたらし、結果的に、職人、商人および小規模事業主からなる伝統的な有権者層の失望させることになりかね」ず、政治的にも合意が得られそうにないためである。

労働組合の立場および有識者の見解

国策会議の基本的立場は、原職復帰が、すべての者に認められる権利ではなく、保護であることを再確認するというものである。

与党は、労働市場および労使関係において生じている夥しい変化に応じて、企業競争を損なわず、逆にこれを促進するような解雇の措置の採用を決めた。イタリアでも、EU諸国の多くでとられているような措置を実施できるかどうかが、今まさに試されているのである。

政府の措置について立場の分かれていた労使も、共産党再建派党の党首であるFausto Bertinottiの提案したレファレンダムに反対することで一致している。

UIL(イタリア労働連合)の党首であるLuigi Angelettiは、今回のレファレンダムを非効率な手法であり、「権利に関するデマゴーグ的なキャンペーンの最たるものだ」としている。このため、UILは、ドイツのシステムとスウェーデンの金銭補償システムに倣った新たな法律を推進しようとしている。

多くの者が支持するドイツモデルは、イタリアの伝統的な労働法の形態との一貫性があると考えられている。いずれにせよ、このモデルは、状況に応じて、裁判官に決定権を認める点で、きわめて柔軟である。ドイツモデルでは、裁判官によって当該解雇の違法性が宣言されると、労働者の権利として原職復帰が認められる。しかし、判決の後、使用者が、原職復帰が不可能であることを証明した場合には、原職復帰に代えて金銭補償が可能である。なお、裁判継続中は、解雇の実施を停止するための異議申立て権が事業所委員会に認められている。

しかし、労働法学者の中には、こうした規制に対していくつかの疑問を提示する者がある。まず、裁判官の主観に依存する傾向が高まり、法の安定性が阻害され、不平等が進む可能性がある点が挙げられる。次に、労働関係において信頼関係が重視される零細企業では、原職復帰制度は構造的になじまないという点も指摘されている。政府も、ドイツ型の規制を支持していない。なぜなら、不当解雇に対するこのような規制では、企業の新規採用を阻害するおそれがあるためである。

CGILは、レファレンダムが、権利の拡大や権利を欠く(あるいは限定的な権利しかもたない)人々(準従属労働者や非典型労働者)の保護の拡大に適していないと考えている。こうした目的を達成するには、むしろ、次のような2つの法的措置が必要と主張している。第1は、社会的緩衝措置を、非典型労働者を含むすべての労働者に拡大するというものであり、第2は、中小企業に関する解雇規制を、罰則を強化する方向で見直すというものである。

一方、CISL(イタリア労働者組合同盟)は、レファレンダムを「交渉や合意を促進するどころか、労使の交渉領域および自律的な討議の領域を損なうことにしかならないよくある『政治的な』措置にすぎない」として、これに反対している。

結論

18条をすべての労働者に拡大することの意味、とくに経済的意味を理解するには、18条の適用対象である労働者およびそれ以外の労働者に関するデータを分析するのが有用であろう。

Confindustriaの研究センターの調べによると、「18条の保護領域に」含まれる労働者は約900万人(うち公務員350万人、従業員数15人を超える企業で働く労働者が約540万人)である。さらに、現在は18条の規制から除外されているが、今回のレファレンダムの提案により、新たに18条の適用領域に含まれる可能性のある労働者数が、約350万である。

労働力調査からのデータによれば、労働者憲章法の適用を受けない労働者は、全労働力の半数以上(約2300万人中1350万人)に上る。このうち、正規の独立労働者が550万人、非正規労働者が340万人、有期契約を締結している労働者が150万人である。

政府、野党の一部および労使は、18条の問題に関して意見が一致している。これに対し、「18条の理想」を擁護する者は、社会権の経済的意味や就業に及ぼす影響を捨象して、社会権を考慮すべきという考え方をもっているようである。このような考え方は、従業員と事業主との敵対関係を前提とする労働関係を念頭においているように思われるが、実際の労働関係はきわめて多様であり、対立、交換、協働などのさまざまな要素から成り立っている。企業の要求も、労働者の要求同様に正当なものである。なぜなら、事業主としての役割や利益も当然認められるべきものであるし、また、これらが労働や富を生み出しているからでもある。

これまでのイタリアで、レファレンダムが労働者の労働条件を改善するのに貢献した例がないことを忘れてはならない。社会権に関する問題は、レファレンダムによる決定に委ねることはできず、資本と労働の関係に関わる他のすべての問題同様、むしろ、総合的な調整が必要である。労働組合の代表性が問題となった1995年6月のレファレンダムの結果として、いまだ適切な法的措置がとられていないことを思い出すべきであろう。

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