難航の公共部門、Verdiが賃金協約締結

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年4月

2002年10月に始まった公共部門賃金協約交渉は、公共部門労組(OTV)を中心とする5労組の大合併によって2001年3月に統一サービス産業労組Verdiが成立してから(本誌2001年6月号参照)、公共部門の労働者(Arbeiter)と職員(Angestellte)のための初めての協約交渉として注目されていた。だが、使用者である連邦・州・市町村(地方自治体)の逼迫する財政事情を背景に、Verdiの賃上げ要求との間で交渉は難航を極め、警告ストに発展し、その後の調停も不調で歩み寄りが進まず、1992年以来の本格ストの瀬戸際まで進んだが、2003年1月9日に交渉はようやく妥結した。

以下、難航を極めた交渉の経過を概観し、締結された協約の内容とこれに対する評価の概要を記する。

(1)交渉の経過

Verdi発足前のOTVが、使用者側である連邦・州・市町村と2000年6月に有効期間31カ月の賃金協約を締結してから、ドイツでは特に2001年後半以降、景気と労働市場が低迷し、国家・自治体の財政は逼迫している。国家の財政赤字は悪化して、欧州連合(EU)の財政安定協定(国内総生産に対する財政赤字の割合を3%以内と定めている)に反してEUの警告を受けているが、自治体の財政はさらに逼迫している。クリスチャン・シュラム・ドイツ市町村連合会長によると、ドイツの地方自治体はドイツ連邦共和国(当時の西独)建国の1949年以来最も困難な財政危機に直面しており、今年度の財政赤字は危機的な80億ユーロに膨れ上がるとされる。

このような背景のもとで、2002年10月22日にVerdiは「明瞭に3%以上」の賃上げと200年までに東独地域の労働者・職員の賃金(Lohn)・俸給(Gehalt)水準を西独地域の水準に引き上げることを要求したが、使用者側はこの要求を厳しく批判し、財政逼迫を理由に「ゼロ回答」で臨む姿勢を示した。ブジルスケVerdi委員長は、いかなる場合にもゼロ回答を受け入れることはないと言明し、これに対して、使用者側のトップであるシリー連邦内相は、Verdiが3%の賃上げ要求を押し通せば、公共部門の雇用を削減して対処するしかないと主張した。11月半ばに使用者側とVerdiが初めて正式な交渉のテーブルに着いた時も、全く歩み寄りが見られず、Verdiは12月に入って警告ストを実施することを決定し、12月には実際各地で警告ストが拡大していった。

その後、12月19日の交渉で、使用者側は以下の内容の正式回答を初めてVerdiに提示した。すなわち、2003年1月1日から第1段階の賃上げを0.9%とし、さらに第2段階の賃上げは1.2%だが、開始時期は西独地域では同年10月1日、東独地域では2004年1月1日とし、全体の有効期間は2004年6月までの18カ月とする。その代わり、労働時間は、西独地域で30分延長して週39時間、東独地域では従来どおり週40時間とする。両独地域の賃金水準の均衡は先送りにする。

このような使用者側の回答に対して、Verdiは受け入れを拒否し、その連邦賃金委員会は交渉決裂を宣言し、調停手続きを申請して、調停委員会の2人の代表には、交渉手腕に定評のあるハンス・コシュニク前ブレーメン市長(社会民主党SPD、ブレーメン市は連邦州扱い)とヒンリヒ・レーマン・グルーベ前ライプチヒ市長(SPD)が選ばれた。そして12月28日に開始された両者を中心とする精力的な調停活動後、2003年1月2日に労働側の意向を配慮した2.4%と0.6%の2段階の賃上げと最高216ユーロの一時金からなる調停案が提示された。しかし、使用者側は受け入れを拒否し、逆に以下のような2度目の回答を提示した。すなわち、賃上げは2段階で、2003年1月1日から2.2%、2004年1月1日から0.6%、2002年11月と12月は、西独地域でのみ最高144ユーロの一時金。協約の有効期間20カ月。東独地域の賃金水準は、一定の低い所得グループの俸給に限って200年までに西独水準まで引き上げる。

財政逼迫の中で初めはゼロ回答を標榜した使用者側としては大きな譲歩であるが、これに対して、特に厳しい財政事情の首都ベルリン市(連邦州扱い)は1月日、負担が大きすぎるとして連邦・州・自治体からなる使用者側の交渉団体(したがって公共部門の賃金協約)から離脱した。そして、財政状況の厳しい自治体レベルでは使用者側の譲歩に不満を表明するものが多く、他方、Verdi側は交渉決裂の場合には1月末に本格ストを開始すると決定する中で、1月8日から使用者側の2度目の回答をベースに最後の交渉が行われ、翌9日に使用者側の譲歩のもとに難航を極めた交渉はようやく妥結し、約290万人の労働者と職員のために以下の賃金協約が締結された。

(2)締結された賃金協約の内容

  • 2002年11月と12月は、月収の.5%相当の一時金を支給。これは西独地域では最高185ユーロ、東独地域では最高166.50ユーロである。
  • 賃上げは3段階とする。第1段階は2.4%だが、低中所得グループについては2003年1月1日に遡及し、高所得グループについては2003年4月1日からとする。第2段階はすべてのグループについて2004年4月1日から1%とする。第3段階はすべてのグループについて2004年5月1日から1%とする。
  • 2004年11月には一時金50ユーロを支給する。
  • 協約全体の有効期間は2カ月とする(Verdi側の要求では、3%以上の賃上げの有効期間を12カ月としていた)。

(3)評価

上述のように難航を極めた交渉の最終段階で、Verdiは交渉決裂の場合には1月末から新たな戦術を取り入れて無期限ストに打って出る強硬姿勢を示していたが、これに対する使用者側の譲歩の背景には、1992年のOTVのストで、多額のコストとともに市民生活に大きな支障を来したという事情がある。同年の公共部門のストでは、公共部門の労働者と郵便・鉄道関係の職員約40万人が11日間ストライキを行い、この間バスは止まり、郵便は遅配され、収集容器が放置されてごみ収集が滞る等、6大経済研究所の一つミュンヘンのIfo経済研究所の試算では、このときのスト関連の損失は10億マルク(当時)に達したとされる。

その意味では、使用者側の今回の譲歩も、ストの損失を回避するためと言える。しかし財務省の試算によると、今回の公共部門の協約締結で連邦・州・自治体にかかる財政負担は、2003年が25億ユーロ、2004年が29億ユーロの合計54億ユーロであり、このような財政負担を招いた使用者側の大幅譲歩に対しては、財政の逼迫する州・自治体レベルの不満は大きい。1パーセントの賃上げで自治体の財政負担は年間億ユーロ増加するとして、ゼロ回答に近い妥結を要望していたシュラム市町村連合会長は勿論、州・自治体レベルでは、交渉団体からの離脱の声のほか、現行の連邦主導による労組との協約交渉の在り方自体に疑問を呈する声が上がっている。

また、6大経済研究所の一つキールの世界経済研究所のホルスト・ズィーバート所長は、1パーセントの賃上げは1億ユーロの国家財政の追加負担になるとし、公共部門の平均年収を2万900ユーロと想定すると、1パーセントの賃上げごとに、6万人の雇用が削減されるとしており、同所長は、雇用政策の観点からはゼロ回答が望ましく、少なくとも賃上げに対して労働時間の延長を取り入れるべきだったとしている。

さらに専門筋の中には、協約交渉中に主張されたにもかわらず、全国一律の賃金水準の設定に止まり、開放条項の活用によって、財政事情の異なる諸自治体に応じて賃金水準を弾力的に設定することを認めなかったことを批判するものもある。

このように、今回の公共部門の賃金協約締結には批判的な意見が多く見られるが、他方、景気低迷と400万人を超える大量失業のさなかに、公共部門に先行した2002年度の金属業界や建設業界の協約交渉で、IGメタルや建設労組が本格ストに訴えて、高額の賃上げを獲得した手法も批判されている(本誌2002年8月号9月号参照)。その意味で、賃金協約交渉全体の従来の在り方自体の再検討が求められており、今後の議論の動向が注目される。

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