JILPT(労働政策研究・研修機構)の活用方法について

財団法人 連合総合生活開発研究所 所長 薦田隆成

JILPTの存在意義が分らない有識者が居るという噂を聞いたので、自分の体験から、JILPTの活用のしかたをまとめてみた。

労働情勢は変動するので、振幅が激しいというか、問題となることが、経済社会情勢に応じて変わる。失業問題が大変だ、というときもあれば、労働力不足が大変な問題として騒がれるときもある。高齢者の問題がクローズアップされることもあれば、若者の雇用問題がホットイッシューになることもある。時には女性労働が、という具合である。最近では、派遣労働や請負労働も問題になっている。

こういう時に、YAHOOでも他の検索エンジンでもいいから、自分の関心テーマと、労働政策研究・研修機構、あるいは、その前身である日本労働研究機構とを、「掛け算」にして検索をしてみれば、大抵のことについては、多少とも関連のある研究や調査の結果がヒットするので、多くの場合、結構役に立つ、調査研究のとっかかりが得られる。

私が現役官僚時代にも、経済計画や経済見通しにしろ、経済分析にしろ、こと雇用・労働に関しては、JIL(PT)の資料はしょっちゅう使ったし、最近の経済財政諮問会議での審議資料を見ても、労働市場改革専門調査会の資料を始めとして、いろいろ用いられている。厚生労働省関係の審議会や研究会では、当然頻繁に使われている。

また、例えば、複数の労働統計を組み合わせて新しい統計指標にして、雇用・賃金等労働市場の動向を見るために毎年刊行されている資料集「ユースフル労働統計」、別名「労働統計加工指標集」は、労働組合関係者にも重宝されている。

諸外国の雇用情勢、労働運動事情が知りたければ、毎年刊行されているデータブック「国際労働比較」があるし、月刊「ビジネスレーバートレンド」には、各号の特集記事のほかに、諸外国の労働事情が掲載されている。ホームページでも海外労働情報が見られる。もちろん、各種テーマについての国際比較の調査研報告書もたくさんある。

外国の人に我が国の労働情勢について説明したいというときには、毎年発行されているLabour Situation in Japan and AnalysisJapanese Working Life Profileが役に立つ。Japan Labour Reviewも季刊で刊行されているし、英文ホームページも充実している。

労働関係の文献探しに威力を発揮するのは、労働図書館である。検索機能も便利に使える。社会科学を中心に、和洋の図書・雑誌を多く所蔵している。政府関係の過去の資料もよく整理されている。私の役人体験からすると、官庁では人事異動や庁舎移転、組織再編成などの機会に、報告書などの資料が所在不明になりがちであるが、例えば、だいぶ以前の経済計画の策定中間資料が直ぐに見つかって助かった経験がある。論文のデータベースも充実しているほか、特徴的なのは、労働運動関係の資料である。労働組合大会資料も豊富に所蔵しているほか、労働組合の解散・統合などの機会に、預かって欲しい、として持ちこまれた貴重な各種原資料も保管されている。

長年毎月刊行されてきている日本労働研究雑誌は、毎号、特集を組んで、興味ある記事が掲載されているが、この雑誌の投稿論文は、若手の労働研究者の登竜門として定評がある。腕試しを考える若手研究者は投稿してみるといいし、後輩や教え子にも勧めるといい。一流の専門家が丁寧に査読したうえで、適切な意見をくれる。この投稿論文から育って現在活躍中の研究者も多い。

週に2回発行されるメールマガジンに読者登録しておけば、JILPT自らが提供する情報のほか、国内外の雇用・労働に関する最新の情報を、アンテナを張り巡らせてキャッチして知らせてくれるので、見落としが最小限に抑えられる。

まだまだほかにもJILPTの活用方法はあるが、以上述べただけでも、これだけの用をなす機関は、他の民間研究機関が束になってもかなわない。もちろん、国民のお金で運営されている以上、不断の見直しをして、効率化を図っていただかなければならないが、今後とも、地道な分析に基づいて行われた、時代に即した研究調査の成果を情報発信し続けることを期待したい。

(平成19年11月21日 掲載)