研究報告 キャリア支援の現場に資するツールの開発と活用─Gテストを中心に─
- 講演者
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- 深町 珠由
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- フォーラム名
- 第130回労働政策フォーラム「ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援─相談支援現場からの実践報告─」(2024年2月27日)
ガイダンスツールとは
まず私から、ガイダンスツールの種類や、当機構で開発し厚生労働省に提供している検査である、厚生労働省職業情報提供サイト「job tag」のGテスト(職業適性テスト)についてご説明したいと思います。
今回のフォーラムのテーマは「ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援」となっていますが、この「ガイダンスツール」という用語について、「ガイダンスツールって適性検査のことですよね」と聞かれることがよくあります。こういったご質問に対しては「はい、そうですね」とお答えすることが多いのですが、私としては「適性検査以外にも本当はいろいろあるのに・・・」と思う気持ちもあります。
職業適性検査に関しても、「これって採用試験のときに受けるあれですよね」と聞かれることがあって、「まあ、そうです」とお答えするのですが、「本当はそれだけではなくて、ガイダンスツールもあるんだけどな」と思うことがあります。実際に、採用試験のときの職業適性検査だけをイメージされてしまうと、ガイダンスツールの話をしても、会話がうまく噛み合わなくなってしまうことがあります。そこで、本題に入る前に、職業適性検査の目的について、簡単に整理したいと思います。
職業適性検査における「目的」の違い
「適性検査」という同じ名称を使っていますが、採用時に使う検査とガイダンスツールとしての検査では使用目的が全く異なります。入社の可否や社内配置の適否を判断する材料として使われる適性検査は、原則として、本人に検査結果がフィードバックされることはなく、本人をガイドすることを目的としたものではありません。
一方、ガイダンスというのはもともとガイドという用語から派生していますので、ガイダンスツールとしての検査は、その人の職業選択やキャリアにおけるガイド、案内役という意味があります。したがって、検査結果を本人にフィードバックして、それをご自身の自己理解や今後のキャリア選択に役立ててもらうことが主目的となります。合否や勝ち負け、競争とは関係なく、ご自身が自分の検査結果をどう納得し理解するかが鍵となります。そのような役割を持つガイダンスツールとしての職業適性検査が、今回のテーマとなります。
では、キャリア支援の現場におけるガイダンスツールの存在意義はどこにあるのかを考えてみますと、キャリアガイダンスやキャリア支援、進路指導、キャリア教育、キャリアコンサルティング等の場面の中で、学生、生徒、社会人などの求職者に対して、将来の方向性あるいは職業適性に関する自己理解や職業理解に役立つものとしての存在意義がある、ということになります。
ガイダンスツールの種類
このように、ガイダンスツールにはわれわれのキャリア選択をガイドする役割があるのですが、ガイダンスツールはさまざまな種類があります。その分類の仕方はいろいろあるのですが、「検査的な要素を伴うかどうか」という観点で分類するとシート1のようになります。ガイダンスツールはもともと狭い意味では職業適性検査を指し示すものだったのですが、現在では検査を中心にキャリア支援に役立つアセスメントツール全般を指す形にまで広がりを見せています。さらには、もっと範囲を広げて、グループワークや職業情報など、必ずしもアセスメントではないツールも含め、キャリア選択や自己理解に役立つツール全般を広く指すようになっています。つまり、ガイダンスツールというと、かなり射程の広いツール全般を指すのが現在の特徴です。
JILPTが開発に携わっているガイダンスツール
当機構が開発に携わっている具体的なツールを中心にご紹介しますと、例えば職業適性検査の中心部にGATB(厚生労働省編一般職業適性検査)やVPI職業興味検査、VRT(職業レディネス・テスト)などがあり、その周囲にアセスメントができるツール、例えばキャリア・インサイトやOHBYカード、VRTカードがあります。
さらに、アセスメントを伴わない広義のキャリア支援ツールとしては、例えばjob tagの職業情報のコンテンツや、キャリアシミュレーションプログラム(CSP)といった双六タイプのグループワークもあります。ただし、職業適性検査、アセスメントツール、広義のキャリア支援ツールの3つのカテゴリに明確に区分できるかというと必ずしもそうではなく、区分をまたぐような多彩な機能を持つツールもあります。特にjob tagというサイトに関しては多彩な機能が盛り込まれています。職業情報に関する部分だけに着目すれば、そこにはアセスメントは入っていませんが、job tagというサイト全体を見渡すと、今回ご説明するGテストのように、単体の機能だけみるとアセスメントツールになっているものも含まれています(シート2)。
ガイダンスツールの中心に位置する職業適性検査
こうしたガイダンスツールの中心に位置するものが職業適性検査なのですが、先ほど挙げたGATB、VPI、VRT以外にもたくさんの種類があります。もともとは、Parsonsの特性・因子論(マッチング理論)を理論的根拠として発展してきたものです。人間の適性や特性を測定して、その結果に適合した性質を持つ職業と結びつけることを基本思想として発展してきたもので、この考え方が職業適性検査の開発にそのままダイレクトに受け継がれてきたわけです。
この理論を突き詰めて狭く考えてしまうと、人間の変化に富んだダイナミックなキャリアや、発達的に変化していく側面を無視あるいは軽視しているという批判に当然つながるのですが、それはこの理論の限界としてある意味致し方ない面があります。そのような限界を認めつつも、人間が自分の適性に合った職業や、将来の方向性を知ることに限定してこの理論を適用させていくと、「実は“最強”」と表現しているのですが、とても効率が良いのです。つまり、コスパもタイパも良いキャリア支援ができるというのが、この職業適性検査を使った支援の特徴になります。
職業適性検査や何らかのアセスメントツールを使わない場合、探りに探りを入れないと相手のことはなかなかわかりません。一方、精度の良い検査・ツールを使えば、ある意味最短ルートで品質の高い結果を手に入れることができるわけで、非常に合理的で効率性の高いものだと言えます。そして、この有効性は100年前も今も全く変わらないと言えます。
理論というものは、次の新たな理論が出てくると以前の理論が廃れるといったことが往々にしてよくありますが、この特性・因子理論に関してはそうではなく、さまざまな新しい理論と共存していく形で、「職業適性検査」の理論的根拠という位置づけで残っています。
精度の良い検査・ツールを使うことが非常に重要
「精度の良い検査・ツールを使うこと」は、実はとても重要です。精度の良さを示す要素の1つは信頼性・妥当性です。平たく言うと、何度やっても同じような結果が出るのが信頼性で、似たような検査で同じような結果が出るのが妥当性です。一見、当たり前という感じがしますが、この部分が疎かになってしまうと、有効な検査にはなりません。さらに、検査の有効性が確保されるためには、適切な情報更新やメンテナンスが必要となります。
メンテナンスというのは地味な作業ですが非常に重要です。例えばGATBは1952年に開発されていますが、原版はアメリカ労働省で開発されており、歴史的な古さがあるわけです。ただ、古いからといって役に立たないかというとそうではなく、改訂に改訂が重ねられ、その都度日本人の状況に合わせた適切なチューニングが行われてきています。現在は大規模データを取る代わりに、すでに実施された検査解答データを逐次収集して統計的に検証しているのですが、そうしたメンテナンスの機会が定期的に設けられているからこそ、誰もが安心して使える信頼性・妥当性を有しているということになります。
もし、ゆがんだ物差しに基づく適性検査を使ってしまうと、ユーザーに誤った情報を提供してしまうことになり、その結果、ガイドする方向性も不正確となります。それは、キャリア支援の実務家にとってはクライアントに対する倫理的な問題をはらむことにつながりますので、適切にメンテナンスされた精度の良いガイダンスツール・検査を使うことは、非常に大切なのです。
Gテスト(職業適性テスト)とは
以上の前提をふまえたうえで、次に、Gテストについて説明します。Gテストはjob tagの個々の職業情報を表示するために提供されている適職探索機能の1つです。
Gテストは、検査で測定される受検者の能力的特徴をもとにjob tagの職業情報に結びつける機能を持っています。厚生労働省から開発を要請され、2020年から当機構で開発を始めて、2022年3月に初めて「簡易版Gテスト」としてリリースしました。メンテナンスがきちんと行われている能力検査であるGATBの紙筆検査の一部を使い、出題方法をウェブ化する形で、3つの検査(ベーシック)を最初に公表しました。その後、2023年3月に2つの検査(アドバンス)を追加的に公表して、全部で5つの検査が実施できるようになりました。さらに、2024年3月にはアドバンスの検査がもう1つ増える予定で、それがGテストの最終形になります。つまり、最終的には、ベーシック、アドバンスそれぞれ3つの検査の合計6検査で構成される予定で、これ以上検査が増える予定はありません(シート3)。
注:2024年6月現在のサイトでは、「適職探索」ではなく「自己診断ツール」というアイコンに変更されている。
Gテストを経験していない方に
シート4は、Gテストを経験していない方に向けて補足的に用意した資料です。最初にベーシックとして3つの検査、それぞれ空間判断力(S)を測る検査と言語能力(V)を測る検査、数理能力(N)を測る検査があります。その後、いったん集計されて、自分の能力的特徴に近い順に8つの職業グループが表示されます。ここで終了してもかまわないのですが、アドバンスとして書記的知覚(Q)と形態知覚(P)を測定する2つの追加検査があり、最後にそれを加味した結果が出ることになっています(注:2024年6月現在のサイトでは、アドバンスとして運動共応(K)を測定する検査Kが追加されている)。
注:2024年6月現在のサイトでは、検査A、B、C、D、Eはそれぞれ検査S、V、N、Q、Pと表記されている。
Gテストの構造
Gテストの構造は、GATBの各検査をウェブ化した内容となっていますが、形態知覚(P)の設問に関してはGATBとは異なる設問で構成されています(シート5)。
注:2024年6月現在のサイトでは、検査A、B、C、D、Eはそれぞれ検査S、V、N、Q、Pと表記されている。さらに、運動共応(K)を測定する検査Kが追加されている。
Gテストの対象層については、job tagというサイトが誰でも自由にアクセスできる特徴を持つことから、特別な制限を設けていません。結果表示用に分析・検討したデータには20~64歳の就業者データを使っています。「生徒・学生に適用可能かどうか」についてご質問を受けることがよくありますが、設問の難易度から考えるとGATBの実施対象者と同等レベル(中学2年生)以上が適切と思われます。なお、検査結果の照合には、生徒・学生の解答データではなく就業者の解答データの分析結果を当てはめている点については、ご了解いただきたいと思います。検査を実施すると、このような棒グラフで結果が出ます。
その後、3つの検査の得点を、それぞれ空間判断力(S)、言語能力(V)、数理能力(N)の能力的特徴として3Dグラフ上に表示します。ご本人の3検査の得点は3次元空間上の赤い点で示されています。その能力的特徴に近い職業グループを順に表示しているのですが、3Dグラフでみるとご本人の赤い点からの距離が近い職業グループから順に表示されることになります(シート6)。
職業グループは全部で8つありますが、「職業を検索する」を押すと出てくる個々の職業名の表示順は、ベーシックの場合、全ユーザー共通になっています。アドバンスでは、追加検査の結果を考慮して、ご本人の能力的特徴と各職業で求められる要素がどの程度合致しているかを判定し、細かく表示されます。
Gテストの特徴 ─GATBとの共通点─
Gテストは、GATBという精度の整った標準検査をルーツとしていますので、GATBと類似した特徴を持っています。他方でGATBとは異なる特徴もありますので、それぞれについてご説明したいと思います。
まず、GテストとGATBに共通する特徴として、短時間に多くの問題を解くタイプの検査であることが挙げられます。スピードに追われる作業や検査が苦手な人には向かないという特徴を持ちますので、そのような方に対しては、時間制限がなくリラックスして進められるような別のツールを活用することも1つの方法だと思います。
もう1つの特徴は、検査時間が非公表・非表示であることです。GATBでは検査時間を受検者に告げてはいけないことになっているので、実施条件を同等にするために、Gテストでもこの特徴を踏襲しました。検査時間が非公表・非表示であることについて驚かれる方もいるのですが、GATBとルーツが同じだということで、ご理解いただけたらと思います。
GATBとの相違点
一方、GテストとGATBが異なる点について、第1に、Gテストの基準値がGATBと全く異なることが挙げられます。したがって、GATBの手引きには粗点から標準得点への換算表が載っていますが、Gテストではその換算表を使用してはいけないことにご留意いただけたらと思います。第2に、結果表示に出てくる職業名の構成も、Gテストの職業グループとGATBの適性職業群とは全く別物になりますので、その点もご留意いただけたらと思います。
第3に、GATBとは異なり、Gテストではテストを受ける場所や環境が自由ということが挙げられます。job tagのサイト自体が、スマホでもパソコンでもどの方法でも見られるからです。ただし、検査でなるべく実力を反映した結果を得たいという場合は、やはり通信環境の良い場所で受けることや、何度も受けるのではなく1回限りで受けることが理想的だと考えています。
利用上の注意事項
最後にツールの利用上の注意点をお話ししたいと思います。まず、Gテストに限らず一般的なガイダンスツールを実施した場合と共通しますが、ご本人に受検後の感想を聞いてみるとか、最低限のフォローやフィードバックは実施していただきたいと思っています。
次に、Gテスト固有の注意点を整理したいと思います。まず、Gテストは能力検査に相当しますので、受検者が検査を受けている姿勢や、集中度、体調、意欲などを相談者ができる限り把握しておくことが大切です。もし極端な低得点が出た場合は、職業グループや職業名の解釈をあまり深掘りしないほうが良いという点も押さえておきたいポイントです。
最後に申し上げたい点としては、Gテストはスマホでも気軽に受けられるという「ハードルの低さ」はあるのですが、テストの性能や信頼性・妥当性といった切れ味はGATBと同等レベルにあるということです。安易な解釈をしないように、慎重さが求められることもぜひご留意いただければと思います。
プロフィール
深町 珠由(ふかまち・たまゆ)
労働政策研究・研修機構 主任研究員
2004年より現在まで労働政策研究・研修機構(JILPT)にて、若者へのキャリア支援や、職業適性評価ツールの開発、就職支援現場での活用に関する研究を担当。近年では、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)の職業適性テスト(Gテスト)の研究開発を主導。厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の妥当性検証等の業務に従事。機構での研究成果としては、『Web提供型の簡易版職業適性評価ツール:Gテストの検査拡充に係るプロトタイプ開発報告』(資料シリーズNo.264、2023年)、『Web提供型の簡易版職業適性評価ツール:簡易版Gテスト(仮称)のプロトタイプ開発に係る報告』(資料シリーズNo.244、2021年)。関連成果として、『職業情報サイトでの検索に資する職業能力検査開発の試み─厚生労働省編一般職業適性検査のWeb簡易版開発へ向けて─』(共著/日本テスト学会誌・2022年度日本テスト学会論文賞受賞)がある。
(2024年6月25日 掲載)