研究報告 生涯キャリアと社会貢献活動─パラレルキャリアの可能性─

パラレルキャリアの定義

高齢期にアクティブに活動するには定年前から助走が必要

このフォーラムでは「パラレルキャリア」という言葉がキーワードになっています。最近は、賃労働と賃労働のダブルワークや副業という意味でも使われますが、ここでは「本業に並行して非営利組織で活動すること」を指します。パラレルキャリアは、自分自身が新たなキャリアや居場所を見出すと同時に、市民社会の中で暮らす一員であるという認識や、相互扶助の中にいるという気づきを得るきっかけになります。

パラレルキャリアはもともと、ピーター・ドラッカーが提唱した言葉です。非営利組織でボランティアとして働くことは、第2の人生の準備としてだけではなく、外の世界の情報を得るためにも重要である。第2の人生を持つには、本格的に踏み切るはるか前から助走しなければならない、と指摘しています。

定年退職後から始動する人の活動密度は薄くなるという結果も

JILPTの研究からも、老後にアクティブでいるには、現役時から並行して活動することが重要で、定年退職後から始動する人の活動密度は薄くなるという結果が出ています。活動開始年齢を分析したところ、60歳より5年早い55歳から活動する人は65歳時の活動関与度が2倍になっており、現役で働いている時から助走する重要性が分かります。

本日お話しするトピックは3つです。まず、定年退職後の不安とパラレルキャリアについてです。定年前の現役世代が何に不安を持ち、どういう不安を持つ人がパラレルキャリアを望むかについてお話しします。次に、実際にボランティアや社会貢献活動を行っている人にはどういう傾向があるのか、その影響について考えます。最後にパラレルキャリアを推進するために、企業ボランティアをどのように進めていくかを検討します。

定年後の不安とパラレルキャリア

再雇用は「セカンドキャリアの助走期間になっていない」との声も

人々は定年後の生活や仕事にどのような不安を抱いているのでしょうか。定年が視野に入る55歳以上の人にヒアリング調査をしたところ、再雇用制度や副業・兼業禁止に対する意見が多く、定年退職後の不安要因になっていました(JILPT資料シリーズNo.215『生涯現役を見据えたパラレルキャリアと社会貢献活動─企業人の座談会(ヒアリング調査)から─』(2019))。

例えば、再雇用制度については、「面白くなさそうにしている人をよく見る」「セカンドキャリアの助走期間になっていない」「給料を下げるための手段でしかなく働き手としては1とカウントされている」など。

副業・兼業規定については、「兼業を認めてもらえないと、次が始まりようがない」とか、「セカンドキャリアを始めるには兼業が大事だ」といった意見がありました。定年退職後も働くなら、やりがいのある仕事をしたいという思いが読み取れます。

企業に勤める従業員へのアンケート調査で、「お金」「健康」「仕事」「コミュニティや社会との接点」に関する4つの不安について聞いたところ、やはりお金や健康についての不安が一番高く、男女でみると女性のほうが不安感を持つ割合が高い。年齢階層別では40歳台の不安感が高く、55歳以上になると、準備や覚悟ができるからか、不安の割合が減っています(JILPT調査シリーズNo.197『人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関する調査』(2020))。

退職後の不安がない人はやりたいことが明確

ヒアリング調査でも、退職後の不安がない人はやりたいことが明確で、具体的なプランがイメージできていたり、すでにパラレルキャリアを実現していたりしました。コミュニティや社会との接点についての不安は、「どちらとも言えない」という割合が55歳以上でかなり高く、接点を持てるかどうか曖昧な不安を持っているのではないかと思われます。

先ほどの4つの不安について、ボランティアや社会貢献活動の参加につながるか分析したところ、「一生懸命になれる仕事があるか」や「社会との接点を持てるかどうか」といった老後不安を持っている人は、ボランティアなどの社会活動に取り組みたいと考える傾向がありました。また、「一生懸命になれる仕事があるかどうか」不安を持つ人は、より早い段階の数年のうちに活動に参加したいとしています。社会貢献活動に参加する理由は、「知識や技術、経験を活かすため」や「仕事に役立つ能力を得るため」という傾向がみられました。

このように、セカンドキャリアにおいてやりがいのある仕事に就きたいと望む人は、社会貢献活動も視野に入っていて、より早い段階から活動参加したいというニーズがあることが明らかになっています。

どんな人が活動をし、その影響は何か

学生時代の経験者で就職後も継続している人は1割

企業で働きながらボランティアや社会貢献活動を行っている人の傾向をみると、学生時代も含め経験者は約半数で、今も継続している人は1割でした。これは企業で働く人が活動を継続することの難しさを物語っていると思います。経験者も継続者も女性が多く、PTAや地域活動など、多くの場合、担い手は女性である状況も反映していると思われます。

参加経験割合を年齢階層別にみると、日本において極めて特徴的なのは、年齢階層によって活動経験の割合が大きく異なることです。従業員調査では約6割、モニター調査では半数弱が「経験がある」と回答しています。学生時代の経験割合をみると、35歳未満では4割近い人が小中高の時に経験がありますが、年齢が高くなるほどその割合は減少し、55歳以上ではかなり少ない状況です(シート1)。ボランティア経験が当たり前になっている下の世代と、あまりなじみのない上の世代のジェネレーションギャップが推察されます。

また、35歳未満の若い世代では、「有用な情報や人脈を得られた」「余暇時間を有効に使うことができた」「新しい知識や技術、経験を得られた」などのポイントが他の年齢階層よりも高く、能力開発の効果を実感するなど、よりポジティブに受け止められています。

ボランティア経験がある人は得意とするスキルが多い

次に、ボランティアや社会貢献活動を行っている人のスキル意識を分析したところ、ボランティア経験がある人は得意とするスキルが多く、自己評価もポジティブである傾向がみられました。シート2は、仕事に関わるスキル25種類を5つのカテゴリにまとめているのですが、活動経験がある人はおしなべてスキル意識が高い傾向が見られます。特に学生時代も社会人でも活動経験がある人は、全てにおいてポイントが高くなっています。ただし、このポイントはあくまでも主観で、言い換えれば自己評価が高いとも言えます。

また、ボランティア経験がある人はない人に比べて、将来も活動を希望する割合が高い傾向にありました。過去のボランティア経験が将来の参加確率を2、3割上げています(シート3)。なかでも社会人での経験は、学生時代に比べてより確率を上げています。経験として最初の一歩を作ることが重要となっています。ただし、別の分析では、将来の参加確率は、自発的に参加した人ほど高く、義理や義務で参加した人はボランティア経験がない人とほとんど変わらないという結果もみられます。

NPOやボランティアを遠い存在と感じている人はボランティア活動をやりたいと思わない傾向が、ヒアリング調査からもみられました。ただ、自分自身が働く会社に親しみを感じている場合、そこからの紹介であれば活動を行う可能性が高いという傾向が、アンケート調査の分析からみられました。これらのことから、会社が媒介となることで社会貢献活動の促進につながるのではないかと考えられます。

企業からの支援と推進

会社に望まれる支援策は休暇の付与、副業禁止規定の緩和など

それでは企業は、どのように従業員のボランティアや社会貢献活動を支援し、推進していくのがよいのでしょうか。JILPTの前掲2020年調査で、会社に望まれる支援策を聞いたところ、ボランティア休暇の付与、副業・兼業禁止規定の緩和、就業時間中のボランティア活動の認可、研修でボランティアに携わる機会を設ける、などが高くなっています(シート4)。こういった内容から、活動時間の確保に対する支援を期待する人が多いことが分かります。一方で、ヒアリング調査では、ボランティア休暇制度が形骸化していて、制度導入だけではなく、実際に消化させる仕組みが重要だという声もありました。上層部やマネージメント層の意識を変えて、ボランティア休暇を取りやすい社内の雰囲気を作る必要があると思います。

また、活動経験の有無で、求める支援策が異なっています。まず、活動経験がない人への支援は、はじめの一歩の機会をどう作るかが重要です。親しみがある自分の会社からNPOを紹介される、就業時間内に活動ができる、あるいは研修やサークル・活動仲間でボランティアを経験するという取り組みが有効だと思います。

ボランティア経験がある人が望む支援は、例えば、副業禁止規定の緩和や、ボランティア休暇を取りやすくする仕組み、あるいは残業を減らして時間を確保できる策を講じたり、会社が活動を推奨・評価する仕組みなどです(シート5)。企業による支援の第1段階は、第一歩を踏み出す人の背中を押すこと、そして第2段階は、活動継続をサポートすることと考えられます。

企業ボランティアの類型は4つに分けられる

最近、企業ボランティア活動に取り組み始める会社が増えています。欧米では、企業ボランティアがごく当たり前に行われていますが、企業ボランティアは4つの概念に分類されます(シート6)。A:就業時間外に行うか、B:就業時間内に行うのか、C:企業が選択してトップダウンで与えたボランティアプログラムなのか、D:従業員が選択したボランティアプログラムなのか、ということです。

日本の多くの企業のボランティアはAになります。Cはいわゆる企業によるボランティアの無理強いで、反発を受ける可能性が高く、やめておいたほうがいいでしょう。ボランティアは基本的に自主的・自律的な行動ですので、Bのようにプログラムのアイデアがボトムアップで上がってきて就業時間内に活動する流れが望ましいスタイルです。

最近、企業ボランティアは、コーポレートボランティアリングというより、エンプロイーボランティアリングという言葉が多く使われるようになっていますが、それはこうした背景があるからです。企業ボランティアはAから出発し、DやBに発展し、そしてまたAの個人の活動に影響を与えます。3つが並存することも当然あります。このようにボランティアを分解して考えてみるのも重要な視点かもしれません。

法律で社会貢献事業が明示されたことは画期的

2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法において、70歳までの就業機会確保措置の中で、社会貢献事業に従事することが選択肢として盛り込まれました。まだまだ未知の領域で、実際に活用している会社はほとんどありませんが、法律で社会貢献事業が明示されたことは画期的で、これも1つの企業ボランティアのあり方だと思います。ぜひ興味のある方は検討していただければと思います。

パラレルキャリアは従業員の視野を広げる

最後に、会社で働きながらボランティアや社会貢献活動を行うことは、回り回って自分の仕事にも人生にもプラスの影響を与えると言えます。パラレルキャリアによって従業員の視野が広がり、部門間のコミュニケーションが高まり、企業にとっても副次的効果があることが分かっています。

社会の一員としての役割を担う会社は、迷っている人の背中を押し、自律的に活動している人をサポートする機能をぜひ担っていただければと思っています。

プロフィール

小野 晶子(おの・あきこ)

労働政策研究・研修機構 統括研究員

1968年生まれ。民間企業を経て大学院修了後、2003年日本労働研究機構(現JILPT)に入職。専門は労働経済学。非正規雇用(パート、派遣労働等)、NPO、ボランティアといった多様な働き方、生涯キャリアの研究。労働政策審議会雇用対策基本問題部会、同労働力需給制度部会委員、東京都公益認定等審議会委員他。近著は『企業で働く人のボランティアと社会貢献活動─パラレルキャリアの可能性─』(労働政策研究報告書No.225、2023年)。

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