パネルディスカッション

パネリスト
高見 具広、大野 香織、佐藤 光弘、山本 晴義
コーディネーター
高橋 正也 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター長
フォーラム名
第126回労働政策フォーラム「労働と健康─職場環境の改善と労働者の健康確保を考える─」(2023年3月15日-20日)

各事例紹介に対するコーディネーターのコメント

過重労働の最悪結末、脳・心では100人弱、精神では80~100件前後

高橋 私が勤務する労働安全衛生総合研究所では、過重労働と過労死について、ここ7、8年研究を続けていますが、働き過ぎや働かせ過ぎの最悪の結末として、頭の血管が切れたり、心臓の血管が詰まったりして倒れてしまう例(脳・心臓疾患)が、労働基準監督署に訴えのある数だけで800件ほどあります。そのうち認定されるのが200件前後で、うち100人弱は亡くなられてしまいます。

精神障害の請求件数は、脳・心とは全く違い、増加の一途をたどり、2021年度は2,400件近くとなっています。申請件数のうち、主に仕事関連と認められているのは、この数年は600件程度です。また、うち80~100件前後は、自分で自分の命を閉じてしまう。日本の現状はこうなっています。

悲劇を防ぐのに、まず大事なのは「睡眠・休息」

これらの分析を私どもの研究所で行っていますが、例えばトラックを運転している人、学校の先生、製造業、IT企業など、仕事の内容は全然違いますが、なぜこういう悲劇が起こるのか、その悲劇をどう防ぐかについて、6本の共通した柱のあることが分かりました。

まず、「睡眠・休息」が大事です。それから、「目標を共有して持続的に成長する」こと。そして、「安全に働く」。職場内では上も下も、全体で「お互いを尊重する」。それからコンプライアンスにかかわる部分で、事業場の「社会的な責任を大事にする」。最後が、労働者も自分で自分の「健康を大事に守っていく」、いわゆるセルフケアが大切です。

過労死は、本来は絶対にあってはいけないことです。しかし、その前の段階では疲労がたまって回復できていない状況で、過重労働が長く続いている。さらにその前に、仕事の量や質に何らかの問題がある。こうした状況をできるだけ改善していき、健康で安全で働きがいのある労働生活にしていかなくてはなりません。労働生活が満足していけば、ウェルビーイングも達成できると考えています。

パネルディスカッション

職場や健康に対する率直な感想

高橋 それでは、パネルディスカッションを始めます。まず、パネリストから一言ずつ、職場や健康について率直なコメントをお願いします。

リモートワークの推進で職場内のコミュニケーションの課題が顕在化

大野 リモートワークの推進によって、いろいろな課題が顕在化してきていますが、そもそも上司や職場内でのコミュニケーションの課題は以前からあります。それが、今回のコロナを経て、リモートワークの推進でより鮮明になってきました。企業にとっては、しっかりと社員の安全・健康に今一度向き合う大きなチャンスではないかと考えています。

佐藤 昔は産業医と人事、経営とがはっきりと分かれており、うまく連携できるように努めていました。最近は、経営者の皆さんが「社員が資本・資源である」「健康が第一」とメッセージを発していて、大企業のみならず中小企業でも、健康自体が経営の中心になってきていると率直に感じています。

医療現場の立場ではまだコロナ対策が基本

山本 このテーマでは、テレワークや働き方、ウェルネスはとても大きな課題ですが、まだコロナが終わったわけではありません。ですので、医療現場の立場からは、コロナ対策が今の時点では健康と労働の基本であると言いたいです。

高見 健康維持は基本、個人が取り組むものですが、皆さんの報告を聞いて、現在、企業や社会全体にとって健康がとても大きなテーマになっているとあらためて感じました。同時に、企業においては従業員の健康状態の把握が難しいという課題もあり、また、テレワークの進展など働き方も大きく変化しています。心身の健康などウェルビーイングを高めるための課題がいろいろと見えてきているところだと思います。

なぜ、働く人たちの健康を大切にしなければならないのか

高橋 問題は本当にたくさんあり、どこから手を付けていけばいいのか難しいところです。これまでは、安全衛生というと「会社の中で改善活動をやっていればよいではないか」と、少し悪い意味で「閉じた取り組み」になっていました。今日のテーマである「働く人たちの健康をなぜ大切にしなければいけないのか」について、皆さんのご意見をうかがいたいと思います。

健康であればこそ、やりがいを持っていきいきと仕事ができる

大野 やはり社員が健康であればこそ、社員自身がやりがいを持って、いきいきと仕事ができる、いわゆる社員エンゲージメントの向上に不可欠なものであると考えます。会社にどれだけ貢献したいと思うかという意欲は、健康がベースになっています。

佐藤 健康をベースにする枠組みが少しずつできてきたのかなと思います。社員の生涯はやはり、職場で過ごす時間が一番長い。健康は自分で作るという面もありますが、やはり職場でも、本来の「楽しくいきいきとして生きられる」、そういう素地をつくるのは、企業の1つの役割だと思います。

退職後も会社がケアできることがある

高橋 実際、長年取り組んでこられて、従業員のマインドなどは、変わってきていますか。

佐藤 富士通に勤務していた頃ですが、単一健保ですので、従業員が退職した後も、ニコニコして健康管理センターに来るんです。企業は退職して終わりでも、その時の統括産業医師と一緒に、退職した後でも会社がケアできることもある。そういうのも大事なのかなと思います。また、社員の家族にも健康の取り組みを伝えられるような組織を目指していて、家族があってこそ、社員の健康があるのかなと、私なりに思っています。

高橋 そういう視点は大事ですね。先進的に取り組んでいる企業の方々に聞くと、「公私ともに整えて、健康でいてほしい」と繰り返し言われます。公も私もしっかりして初めて、次の出勤の時に100%、120%の生産性を出せるとのメッセージで、まさにそうだなと思います。

日本国憲法第25条、27条の原点に戻って考え直す時期

山本 私は今75歳ですが、後期高齢者の時代でこうして働けているのは幸せだなと思います。しかし、仕事が「死事(死ぬこと)」であったのも事実です。労働安全衛生法というすばらしい法律が50年前にできて、そのもとになるのは日本国憲法なんですね。全ての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある。第25条です。全ての国民は勤労の権利を有し、義務を負う。こちらは第27条です。原点に戻って考え直す時期でもあるのではないかなと思っています。

高橋 ご指摘のとおり、過重労働であれ、過労死であれ、やはり基本的に私たちが私たちとして生きる人権が損なわれている。それをどう無くしていくかが問われていくかと思います。体力やリソースもある大きな会社ならば、こうした取り組みは進んでいくと思いますが、日本は中小企業が多く零細の会社もたくさんある。規模による取り組みの格差の問題は、どのように見たらいいでしょうか。

格差はさまざまあり、やはり社会で取り組むべき課題

高見 企業規模による格差に限らず、健康にかかわる社会的格差は難しい問題です。例えば、所得水準や学歴や職業によって、健康状態や健康にかかわる生活習慣が違うということを表す統計があります。健康の維持は、基本的には個人が行うものですが、マクロで見たときに、個人を取り巻く経済社会環境や、企業、家族など、様々な要因がかかわってくる。人々の健康は、やはり社会として考え、取り組むべき問題だと考えるところです。

労働は健康にどう影響するか。言うまでもなく、長時間労働は重大な業務負荷ですが、長時間労働だけではなく、職場の環境も心身の健康に関係します。例えば、ハラスメントや顧客からのかなり強いクレーム、ノルマなどのストレス要因によって健康を損なうことがあります。労働環境は健康維持にとって、とても重要なファクターだと言えるでしょう。

現在の社会の状況を見ると、従業員の心身のウェルビーイングを高めようと積極的に努力している企業がある一方で、依然として過労死等がなくなっていない状況もある。社会の中には、このような格差があると考えさせられます。

リモートワークと健康

高橋 続いて、環境が激変するなかで従業員の健康をどう守っていくかについてお聞きします。

特にリモートワークは外せないテーマです。これまではニーズがあってもなかなか広まらず、コロナの唯一のポジティブな効果とも言われ、働き方が大きく良い方向にも変わったと思います。大野さんから、リモートワークのネガティブな問題は実はコロナ前から存在していて、働く場所が自宅や会社以外となったことで、潜在的な問題が浮かび上がったというご指摘がありました。これは私もまさにその通りだと思っています。

リモートでより孤立感が顕在化

大野 リモートワークだからという問題ではなく、リモートワークを推進する前から、本来であればやっておくべきだったと思っています。ただ、リモートワークでより顕在化されてしまったのが、孤立感かなと思っています。

当社でも、メンタルヘルスの罹患者は、いわゆるハラスメントによるものが減ってきて、リモートによるものと思われる孤立感が少し増えてきています。コロナが流行した初めの頃の2020、2021年度あたりは「出社するな」と抑制していて、本当は対面で仕事をしたかった人たちや対面のほうがよかったような業務も、無理やりリモートにシフトして、今、課題として出てきているのかなと思っています。

これからは、必要に応じてリモートと出社を選択できる形にして、少しずつ変えていくことで、リモートワークが基本というところは変わりませんが、社員の孤立感も徐々に減っていくと思っています。

職場の裁量の有無でストレスを感じる社員も

高橋 富士通ゼネラルでは特別な対策・措置を講じていますか。

佐藤 コロナの当初の頃は、「もう出社しなくていい」とテレワークにして、マネジメントをその職場に任せて、対策をしました。そのため、一般社員よりも管理職のほうがストレスチェックの値も少し高くなっています。

7割方の社員は在宅勤務できるのですが、どうしても2割は在宅勤務ができず、職場の裁量の有無でストレスを感じる社員が多かったので、実は今、あるべき在宅勤務の制度化を行っているところです。長所・短所を精査しながら1番働きやすい働き方を模索しています。

山本 ストレスというのは変化に対する適応なわけで、コロナの中で、適応能力の高い人はテレワークになっても通勤時間が短くなったという肯定的な評価をする。適応力を高める方策が社内教育でも一般教育でもあってもいいのかなと思いました。

また、先ほど格差の話がありました。確かに格差社会であることは事実ですが、逆に言うと、1つの命には格差はない。オンリーワンライフをいかに充実させるか、また、1日24時間というのも格差がない。その1日をどう過ごすか、セルフケアもできる。私はよく「ストレス1日決算主義」と言うのですが、夜寝るときにいい1日だったと思える毎日を365日、死ぬまで送りましょうと、講演ではそんな話をしています。

高橋 JILPTではリモートワークに関するすばらしい調査結果を出していますが、テレワーク、リモートワークを成功させる秘訣、頻度や、導入の方法など、何か教えていただければと思います。

個人差があり、一律の対応は短絡的

高見 コロナ禍において実施した調査からは、労働者がリモートワーク下で孤立感やコミュニケーションに不安を感じているという結果や、生産性、効率が下がっているという結果が出ています。そのため、メンタルヘルスケアは非常に大事なのですが、一方で、孤立感や効率は個人差が大きいものであることに注意が必要です。

つまり、そのリモートワークが、本人の仕事や健康・ウェルビーイング、働きやすさ、あるいは働きがいにプラスになるのか、マイナスになるのかは、どの社員でも同じものではなく、リモートワークをどう評価するか、続けるのかといったことについて、会社が一律な評価や対応を行うのは短絡的な考え方ではないかと思います。

仕事内容や、その人の性格特性、家庭の事情など、いろいろな要素がリモートワークの成否にかかわることから、パフォーマンスを上げるためには、企業において、そこに対する細やかな対応が求められます。新しい働き方のオプションが増えたなかで、会社全体で方針を決めるのはもちろん大事ですが、それだけでなく、一人ひとりが輝くやり方は、個々の部署単位で見つけていく必要もあるのではないかと思います。

新入社員や新任課長は、着任直後は積極的に出社するように

高橋 大野さんから、影響が出やすいのは若手や上長になったばかりの人というお話がありました。こういった社員層に対して何か配慮をしていますか。

大野 特にコロナ下に入社した社員は、下手をすると1度も出社しないまま、いきなりリモートにせざるを得なかった層です。現在はハイブリッドという形で、対面とリモートを織り交ぜながら、しっかりとコミュニケーションを取る場を積極的に設けています。

各職場でも、新入社員や新任課長、新任課長代理が着任して数カ月は、積極的に出社をしてコミュニケーションをとっています。育成や業務の引継ぎなどは対面のほうが適している、必要な場面ではしっかりと出社する、ということを追加のメッセージとして発しているところです。

高橋 山本先生にお聞きします。コロナの中での自殺に関しても、若手や学生に影響が出やすいと思うのですが、これに関連したメール相談も届いていますか。

山本 統計をみると、確かにコロナ禍で自殺が増えており、コロナの影響は無視できません。また、統計も2020年と21年、22年、23年で、かなり違う。私のメール相談でも2020年の当初は「不安」だらけでしたが、今は別のところでの悩みになっていて、恐怖心は少なくなった。

おそらく、初めはテレワークで慣れなかった人も、時間が経てば、ちょうど私たちの年代のパソコンと同じように、そのうち馴染んでくるのではないでしょうか。もちろん、やはりみんなで会ったほうがいい。ただし、平成や昭和時代のように、夜の10時、11時、12時まで飲み会をやるのがコミュニケーションだという日本の社会が間違っていたことは反省すべきだと思います。

健康経営をどう進めるか

高橋 健康経営にテーマを移したいと思います。先ほどの格差の問題ともかかわるかもしれませんが、産業医の選任義務のない中小企業、50人未満の企業では、健康経営をどのように取り入れて進めていけるでしょうか。

信頼関係ができていれば健康経営ができているということ

佐藤 50人うんぬんは労働安全衛生法が定めている数字です。健康経営ができているというのは信頼関係ができている証拠です。従業員が5人や10人の会社というのは、そこにもう信頼関係があるわけで、そうした企業に「これはまさしく、健康経営はできています」とお伝えしたら驚いていました。

健康診断100%、メタボ対策、メンタルヘルス対策をやっているか否か、そういう問題ではないんです。大きい会社は指標が必要になりますが、50人未満の会社は小規模だからこそ、社員と一緒にいろいろなことを考えたり、活動することができ、いきいきした職場にできるはずです。

ある中小企業の人が、経営者が勉強会をやると良くなるんだ、ブラック企業がホワイト企業になった、と発表していました。経営者が気づきを得ることがとても大切だと思います。ですから、メディアなどが健康経営の重要性をもっと発信すれば、中小企業でも身近なものとして普及すると思っています。

プレゼンティズムを昨年と比べて経営者にフィードバックすべき

高橋 事業主としては、健康経営などの施策が、例えば医療費など、目に見える形で成果が出ているのか知りたいという声があります。それは指標との関係もあるのですか。

佐藤 健康経営で経済産業省が言っているゴールは、「稼ぐ力」です。「稼ぐ力」という面では当然、産業保健のアブセンティズムを削減することも必要ですが、やはりプレゼンティズムの観点で、そういう損失をなくして、みんな元気で働けるようにという形になっています。

プレゼンティズムは、やはり比較することが大事だと思います。業種や性別、年齢によって昨年に比べどう変わっているのか、会社の中で評価して、経営者にフィードバックしていけば、生産性を上げるために何をしたらいいか、経営者や上長が考える一助になると思います。

無理矢理出勤するほうが生産性にはマイナス

高橋 プレゼンティズムにはいろいろな考え方があるかと思います。これまでは欠勤が良くない、会社に来ることができなくて病気になるのが良くないと言われ、私は「無理矢理出勤」と言っていますが、頭が痛い、腰が痛い、心も気持ちも十分晴れていない、であっても出勤していればゴール、あるいはグッドだというのが良くない。むしろ、休んで治療したりして、状態を良くするのが先決です。無理矢理出勤して、100%の生産性を出せないほうが企業にとってもマイナスではないでしょうか。

佐藤 やはり睡眠などの生活のリズムで、自分のパフォーマンスが変動するという、プレゼンティズムを本人、そして組織としても、前向きな指標で使えれば、もっといいのかなと思います。

高橋 コロナ前の「出勤しなければならない」「出勤するのが1番」というところから、そうではなく、出勤すること自体に意味があるわけではないと、1つカウンターをくらわしたような意味があったと思います。共通の分かりやすい指標で落とし込めればいいのですが、これからですか。

佐藤 プレゼンティズムもありますし、ワークエンゲージメントもあります。大きい企業であれば、従業員満足度調査などを実施していますから、とりたてて新しいデータを活用しなくても、今あるストレスチェックや、生活習慣病の関係、長時間残業の結果など、既存のデータを活用することでいろいろなことが見えてくる。管理部門と産業保健のスタッフがうまく連携すれば、いろんなことができると思います。

社員がしらけないことが大切

高橋 多くのお金と労力をかけて健診のデータを集めても、それで終わりになっていることが多く、もったいないですよね。健康経営に関しては、ワークエンゲージメントという概念は欠かせなくなっています。無理矢理やらされているのではなく、「私がここの会社で働きたい」「会社に魅力を感じ、自分の能力を全部つぎ込んで、自分も会社も成長したい」となるためには、どのあたりがポイントになっていくでしょうか。

高見 会社の取り組みに対して社員がしらけないよう、丁寧に運用していくことが大切だと考えています。

働き方改革の状況などについて、企業の管理職に50ケースほどヒアリング調査したところ、現場の状況にはばらつきがある印象でした。働き方改革として会社が長時間労働を減らそうと取り組んだことで、一般社員の残業時間は減少したものの、ケースによっては、管理職に負荷が集中するようになった、できる人に仕事を回してしまうようになった、人を育てる時間が減ってしまったなどの状況も聞き取れました。こうなると、何のための働き方改革なのか、社員が疑問を持つでしょう。

会社として何か新しい取り組みをするなかで、それを社員に浸透させるためには、ただ取り組みをすればよいのではなく、社員に価値観を共有してもらうことが大事だと考えます。そういう意味で、生活習慣の改善にチームで取り組んだり、パルスサーベイを上司と共有するなど、社員をうまく巻き込む形ができている企業事例は、とても参考になるものと感じました。

働き方改革はすばらしい国レベルのトップダウン

高橋 過剰な労働時間の削減というのはとても大切ですが、一方で、やはり技能を高めていくためにはある程度仕事をしなければならない。このあたりは、どこまで許容していったらよいでしょうか。

山本 医師は、昔は、残業200時間くらいはよくある話でした。今、それは法律で禁止され、守られています。働き方改革は、すばらしい改革だと思います。

企業のトップダウンが大切だと言われましたが、今回の話はまさに国レベルのトップダウンで、政府の方針を各企業や事業主、そして労働者まで、適切な制度ができつつあります。そうは言っても過重労働対策も自殺対策も今回の働き方改革も、まだどうにもならない部分もありますが、まさにトップダウンでいいことを言ってくれている。国の働きを後押ししたい。

また、大企業と中小企業格差の話がありましたが、私が働いている労災病院や労働者健康安全機構は、まさに7割、企業数では9割以上の中小企業をサポートするための組織です。大企業はいろいろなことができるけれども、中小企業にはそんな金はない。でも「こころの耳」というすばらしいツールで、知識も得られ、いろいろなこともやれる。ぜひ日常的に利用してもらいたいと思っています。

高橋 いろいろな層を支えないといけないのですが、特に管理者層、あるいは新任の管理職をどう育てていくかは、企業の根幹部分にもなるかと思います。彼らが悩みを吐き出せる場や機会も大事かと思いますが、そのあたりどうですか。

大野 まさに管理者の時間外労働は年々増えており、特に、新たな社会や事業の要請で仕事量が増えています。リモートワークに関係なく、単純に仕事が増えている。管理者の悩み相談も大切ですが、新しい仕事ができたら古い仕事を整理すべきで、業務の効率化や、業務の無駄を徹底的になくす取り組みが必須です。

最後の提言・メッセージ

高橋 どう働くか、心と体の健康を維持しアップしていくか、議論いただきましたが、最後にお一人ずつ、提言・メッセージをお願いします。

コミットメントが高い日本は会社と労働者がともに成長していく土壌がある

高見 心身の健康は、広くウェルビーイングとして議論されることもあります。ウェルビーイングには健康も大事な要素ですが、幸福感や働きやすさ、あるいは働きがいも含まれます。この中で、働きがいを高めるというのは、企業において最も苦労されている話だろうと思います。

日本人は諸外国に比べて社員の会社へのコミットメントが高いと言われることがありますが、企業にとってそういう労働者特性は非常に望ましいものであり、会社と社員がともに成長していく土壌があるように思います。そういうなかで今日お話しいただいたような、先進的な企業の取り組みは、必ずや労働者のウェルビーイングや企業の成長につながっていくと考えています。

大野 社員の健康は、社員一人ひとりが作っていくものであると同時に、企業もしっかりと二人三脚で考えていかないといけないと思っています。これからもまだまだ課題は出てくると思っていますが、課題に真摯に向き合いながら、佐藤さんがおっしゃったようなデータドリブンな経営、健康経営を考えていく必要があると感じました。

当事者それぞれの立場で同じデータを見るといろいろなことができる

佐藤 データドリブンといいますか、情報をしっかりといろいろな関係者が見ると、全然違ってきます。ですから、人事だけ、産業保健だけ、経営者だけではなく、当事者それぞれの立場で同じデータを見る場面を多く作ると、データでいろいろなことができると思います。

今、様々なウェルビーイング指標がありますが、私は「心の豊かさ」というキーワードが好きです。生活のしやすさ、仕事のしやすさだけではなく、例えば仕事ではチャレンジすることや達成感を1つの豊かさ指標としてウェルビーイング概念を研究している先生がいて、なるほど、仕事も自分たちを豊かにするものだな、と考えています。

山本 基本的人権、やはり個人として尊重されるとか、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、勤労の権利を有し、義務を有す。そのなかで仕事をして、お役に立っているという気持ちを持てて、夜寝るということが、とても貴重だなと思います。

高橋 エキサイティングなご意見をありがとうございました。これを持ちまして、今回のパネルを閉じたいと思います。どうもありがとうございました。

プロフィール

高橋 正也(たかはし・まさや)

労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター長

1990年東京学芸大学教育学部卒業。同年労働省産業医学総合研究所入所。2000年医学博士号(群馬大学)。同年ハーバード大学医学部睡眠医学科留学。2014年労働安全衛生総合研究所・過労死等調査研究センター長代理。2019年より現職。2021年同・社会労働衛生研究グループ部長併任。専門は産業睡眠医学。

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