研究報告1 多様化する若者の就職支援とキャリアガイダンス

今回は、「多様化する若者の就職支援とキャリアガイダンス」というタイトルで、対象を大学生の就職に限定してご報告したいと思います。まず、「多様化」という論点について、様々な切り口があるかと思いますが、今回は三つの論点に絞りたいと思います。第1は若者の採用選考機会の多様化という論点、第2が就職活動手段の多様化、そして第3が、若者・学生個人の多様化です。それぞれに整理しながらお話しいたします。

論点1 採用選考機会の「多様化」

通年採用やジョブ型採用が進む

まずは、採用選考機会の多様化についてです。現在、新卒一括採用を基本とした雇用慣行から、複線的で多様な採用形態への移行が進んでいます。その背景として例えば、留学生や留学経験をした人の場合、一般的な新卒一括採用のスケジュールに乗りづらく、就職活動がしにくいなどの状況がありました。このような人たちには、通年採用によって採用の機会を増やし、門戸を広げるという方法が考えられます。さらに、ジョブ型採用という、新卒・既卒を問わず専門スキルを重視した形の通年採用も、これまで以上に進んでいくものと考えられます。

しかし、ご承知の通り、新卒一括採用という雇用慣行が急に消滅するということではありません。2022年春の卒業予定者は、現在(2020年2月時点)の大学3年生と同様のスケジュール、つまり、採用選考活動の開始を卒業修了年度の6月1日以降とすることが政府の方針としてすでに決定されています。急激な採用スケジュールの変化は、学生や大学にとって対応することが非常に難しく、学修にも集中できないデメリットもありますので、このような政府の方針はおおむね妥当であると言えます。つまり、従来どおりの新卒一括採用を基本とした採用スケジュールが存在しつつ、それと並行して、通年採用やジョブ型採用も走っていくという状況であり、これは多様化の大きな波の一つだと言えます。

早く活動する学生もいれば出遅れる学生も

では、このような採用選考機会の変化に対し、学生はどのように対処し活動しているのかということですが、主に次の三つの層に整理できるのではないかと思います。まず第1の層は、従来どおりの新卒一括採用スケジュールに沿って活動していく学生です。二つ目の層は、インターンシップを早期から開始するなど、早い時期から意欲的・積極的に活動する学生で、このような層は今後一定程度増加することが予想されます。三つ目の層は、新卒一括採用スケジュールにうまく乗ることができず、かといって早期から意欲的に活動するほどの気持ちの準備ができていないという、出遅れる学生層です。このように様々な層が、大学3年生、4年生のなかで錯綜し、表面化する状況が今後予想されます。

論点2 就職活動手段の「多様化」

キャリアセンターをうまく活用できない学生も

次に、就職活動手段の多様化についての話に移ります。一般に、大学生にとって、就職活動手段として最も頼りにしていただきたい機関の一つに大学のキャリアセンターがあります。とはいえ近年は、大学以外にも新卒応援ハローワークなどの学外の就職支援機関もありますし、Webサービス・情報を使った就職活動も主流です。大卒求人の大手就職情報サイトにまず登録して、そこから就職活動を開始する学生が大多数でしょう。

このように様々なサービスがあり、各機関・施設・サービスの特徴や本質を学生側が正しく認識したうえで、自分に合った手段を使って効果的に就職活動ができればよいのですが、短く限られた就職活動期間のなかで、それらのサービスの特徴をうまく捉え切れず、十分な利活用ができない学生もいて、もったいないなと思われるケースもあります。

また、大学に通っている間であれば、構内にあるキャリアセンターを最初に活用してみるのが手っ取り早い方法だと思うのですが、様々な理由からキャリアセンターにはなかなか足を運びづらいと感じる学生や、場合によっては、キャリアセンターの機能を誤解している学生もいると聞きます。

キャリアセンターから心理的にも物理的にも遠のいてしまう学生については、大学側としても、就職活動の実態を把握しづらくなってしまいます。特に、論点1の最後で説明したような第3の層、つまり、採用スケジュールから出遅れてしまった学生層の場合は、支援の手を差し伸べようにも、届きにくくなってしまいます。

センターから足が遠のく学生も

私ども(JILPT)は全国のキャリアセンター17校34人の教職員に対してヒアリング調査を実施しました<JILPT資料シリーズNo.156『大学キャリアセンターにおける就職困難学生支援の実態─ヒアリング調査による検討─』(2015年5月)>。そこで得られた結果なのですが、そもそも、学生が大学キャリアセンターに最初に来室するのはいつ頃かというと、「3年生」という回答が中心でした(シート1)。きっかけとして最も多いのは進路登録のための来室です。キャリアセンターは学生の進路が就職か進学かという情報を把握して、後に文科省に届け出る必要がありますので、3年生あるいは2年生の段階でキャリアセンターに登録に来るよう呼びかけるようです。ある大学では全3年生を対象に個別面談を実施するという回答がありました。もちろん、学年に関係なく、自発的にキャリアセンターに来たのが最初だったという学生も一部にはいます。

では、キャリアセンターを利用しない学生について、大学側はどのような対応をとっているのか、具体的な連絡手段について尋ねてみました。そのなかで最も多かったのは、学生の携帯に直接電話するという方法でした(シート2)。ただし、キャリアセンター職員は他にも日常業務が多くありますので、連絡のつかない学生への架電に多くのリソースを割くわけにはいきません。なかなか電話がつながらない、電話をしても出てくれない、返事をしてくれないといった問題に苦慮されているというお話も一部の大学から伺いました。

メールの一斉送信という方法もありますが、どうしても一方通行のコミュニケーションになりがちだとのことでした。最終手段として自宅に電話するという方法も聞かれましたが、手段として有力視されていたのは、ゼミの先生を経由して学生と連絡をとることでした。ただし、ゼミに所属していない学生や、ゼミにあまり出席しない学生、長期に欠席している学生については連絡をとることが難しくなります。

最近の調査では学生のガイダンス参加人数が減少傾向

このように大学側は、特にスケジュールから遅れがちな学生に対し、就職活動に注力して欲しいと考えていますが、実際の就職ガイダンスに参加している学生の状況はというと、シート3のとおりです。これは調査シリーズNo.116『大学・短期大学・高等専門学校・専門学校におけるキャリアガイダンスと就職支援の方法─就職課・キャリアセンターに対する調査結果』(2014年3月)から引用している調査結果で、大学459校などから回答を得たものです。

大学・短大・高専・専門学校という4種類の学校種に、就職支援サービスに対する過去3~5年間の学生の参加率を聞いたところ、「変化なし」との回答割合もかなり多いのですが、特に大学や専門学校では参加率が「高くなった」との回答割合が多く、この調査を実施した当時は、学生自体が就職支援サービスに対して積極的に参加していた状況が把握できました。

この調査の実施年から少し時間が経っていますので、類似の調査(株式会社マイナビ『大学等のキャリア・就職支援の実態に関する調査』)の結果も調べてみました。この調査では、就職ガイダンスへの学生の延べ参加人数の増減が前年度と比べてどうだったかを毎年尋ねています。非常に興味深い結果が得られており、2020年卒の学生について、就職ガイダンスへの学生の延べ参加人数が2019年卒の学生と比べて「増加」したという回答校の割合が減り、逆に、「減少」したという回答校の割合が増えていることがわかります(シート4)。

この結果から様々なことを考えさせられます。背景の一つとして挙げられるのは、就職環境が前年度よりも良くなってきている(あるいは、良くなってきているとの認識を学生側が持っており、就職ガイダンスへの参加の必要性を感じにくくなっている)ということです。さらに、多様化したニーズを持つ学生たちが、集団型ガイダンスというキャリアセンターが提供するサービスの枠組みになかなかはまりにくい状況も、他方では考えられるのかもしれません。

論点3 若者・学生個人の「多様化」

就職意欲の高い学生と低い学生の二極化が進む

第3の論点は、若者や学生個人の多様化です。学校現場などで集団に対して一律に就職支援を行う際によく聞かれる話ですが、就職意欲の高い人と低い人の二極化への対応に苦慮しているという話があります。これは就職意欲の多様化です。また、通常の流れに沿った就職活動を行う学生への対応のほかに、個別の事情で特別な配慮を必要とする学生に対する個別支援にも別途、力を注いでいるという意味で、支援や対応の多様化・個別化も進んでいます。もう一つは、支援する対象層の多様化で、従来、在学生だけを対象としてきたキャリアセンターが、近年では卒業生も支援の対象層に含めています。つまり、ニーズの個別化に伴う支援の個別化・多様化が一層求められているのが現状となっています。

就職意欲の多様化に関して、以前私どもが実施した調査(調査シリーズNo.116)結果を見ると、大学等のキャリアセンターにおける現在あるいは中長期的な重点課題(複数回答)のなかで、3番目に回答割合が高かったのが、「就活意欲の低い学生、就職困難な学生への呼びかけやアプローチ」(68.0%)でした(シート5)。トップは「低学年からのキャリアに対する意識づけ」(78.8%)であり、低学年からキャリア教育を確実に実施して、就職や将来に向けた意識づけを行いたいというキャリアセンター側の意識も非常に高まっていることがわかります。

自己流の判断が時には困難をもたらす

キャリアガイダンスやキャリア支援で今何が問題になっているのか、自由記述で尋ねたところ、学生に関する言及が非常に多く得られました。シート6、7がその具体的な言及内容ですが、自主的に動ける学生や、複数の企業から内定をもらえる学生が一定割合存在するのに対して、就職意識が低い学生、自主性に乏しい学生、出遅れる学生の存在という二極化を指摘する学校が多かったことが印象的でした。

就職困難な学生は、大学のキャリアセンターからどのような姿に映るのでしょうか。ヒアリング調査(JILPT資料シリーズNo.156)の結果で一番多かったのが、学生が自己流の判断によって就職活動での困難性を生み出してしまっている状況でした(シート8)。例えば、「業種・職種に一貫性のない応募を行う」ことや、「業界研究や職業研究が不十分なまま特定の業種や職種に強くこだわる」こと、「誤った方法のまま就職活動を進めており、本人がそれに気づいていない」などの言及がありました。就職活動は学生本人主体で行うべきものですが、状況が行き詰まった時には、知識や経験のある第三者にためらわずに相談することも有効な方策です。もし、このような学生が、就活の方法や現状について、キャリアセンターに限らず知識や経験のあるスタッフから多少なりともアドバイスを受けられる機会があれば、もっと早期に問題解決できたかもしれないのにと思います。

キャリアセンターや相談機関から足が遠のいたことで適切なタイミングで相談できず、問題解決に時間がかかり、せっかくの学生本人の素質の良さを生かせず就職の機会を失ってしまうなど、結果が伴わない状況を何とか改善したいと考えているキャリアセンターが多くあることがうかがえる結果となりました。

魅力的な集団型ガイダンスを今後実施できるかがポイント

最後に、キャリアセンターで卒業生支援がどのように行われているのかについて簡単にご紹介しますと、在学生と同様に相談を受け付けているのですが、早期離職した場合は必ずしもキャリアセンターにすぐ第一報が入るわけではなく、ゼミの先生と近い関係にあれば、ゼミの先生を通じてキャリアセンターに話が持ちかけられることが多いようです。したがって、卒業生の離職状況をタイムリーに把握することは実際には難しいとのことでした。また、卒業生が相談に来たとしても、マッチングできる求人がなかった場合には、ハローワークを案内するという流れもあるようです。

以上、ここまでの議論をまとめますと、今回は大学生の就活に焦点を当てましたが、若者に対する就職支援・キャリアガイダンスという面では、採用選考機会、就職活動手段、本人の置かれた状況と、様々な側面から多様化が進んできていることがおわかりいただけたかと思います。そのため、就職支援の現場では一層の個別対応が必要だということを、常々感じていらっしゃるようです。

一方で、今後も一層、個別対応を推進していけばよいのかというと、私個人としては、必ずしもそれが正解とは限らないのではないかと考えています。個々の職員がスキルアップを図ることで、効率的な個別支援がある程度までは可能になるでしょうが、いつかはマンパワー上の限界がやってきます。先ほど、集団型ガイダンスについて、参加人数が減ってきているという現状をお話しさせていただきましたが、今後、集団型ガイダンスの魅力をいかに高め、効率的・効果的なものを運営・実施していけるかが、現場での持続可能な若者支援のあり方として、一つの鍵を握るのではないかと考えています。

プロフィール

深町 珠由(ふかまち・たまゆ)

労働政策研究・研修機構 主任研究員

2004年より現在まで労働政策研究・研修機構(JILPT)にて、主に若者へのキャリア支援、職業適性に関わる研究を担当。主な研究成果は、『若年者就職支援とキャリアガイダンス─個人特性に配慮した進路選択の現状と課題─』(JILPT第3期プロジェクト研究シリーズNo.6、2018)、『適性検査を活用した相談ケース記録の分析と考察』(資料シリーズNo.175、2016)、『大学キャリアセンターにおける就職困難学生支援の実態─ヒアリング調査による検討─』(資料シリーズNo.156、2015)、『大学・短期大学・高等専門学校・専門学校におけるキャリアガイダンスと就職支援の方法─就職課・キャリアセンターに対する調査結果─』(共著/調査シリーズNo.116、2014)等。

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