報告1:行政の視点から
現代社会の諸問題とキャリア・コンサルティング
第71回労働政策フォーラム(2013年12月6日)

報告1 行政の視点から

寺山 昇  埼玉労働局職業安定課企画・調整室長

写真:寺山氏

ハローワークにおける個別キャリア支援とキャリア・コンサルティングについて、現場の視点からご報告します。

図1 公共職業安定所の設置数等(平成25年度)

図1[画像のクリックで拡大表示]


図2 雇用のセーフティネットを担う公共職業安定所

図2[画像のクリックで拡大表示]

図1はハローワークの標準的な組織体系を示したものです。私が所属していたのは、専門援助部門で、主に障がいのある方の職業指導に長く携わってきました。

図2はハローワークの役割を示したものです。職業紹介、雇用保険/求職者支援、雇用対策の3本の柱を一体的に行うことで、雇用のセーフティネットとしての中核的な役割を担っています。

私は、障がい者のほか、母子家庭の母、刑務所出所者、生活保護受給者などを支援してきたのですが、ハローワークでは、こうした方々の就職を実現するため、求職者ごとに担当者を決めて、予約制で支援を行っています。

他機関との連携で効果的な支援を

効果的な支援を行うため、関係機関と連携した「チーム支援」も行っています。たとえば、障がい者に対する支援では、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、その他各就労支援機関と連携しています。刑務所出所者に対する支援では、保護観察官や保護司、更正保護施設の協力を仰ぎます。そのため、ハローワークでは、チームを束ねるコーティネーター的機能が求められます。

求職者に対する個別支援と同時に、就職先となる企業への指導・支援などのアプローチも重視しています。障害者雇用促進法に基づく障害者の法定雇用率達成に向けた指導もその1つです。

求職者の孤立を防ぐため、さまざまな機関を活用した援助ネットワークを構築し、ワンストップで支援することもハローワークの重要な役割です。

私自身、障害者雇用促進法に基づく特例子会社の設立に関して、労働局、ハローワークを中心に企業や様々な支援機関と連携しながら、ワンストップで支援を行ってきました。担当した業務の中に、「障害者雇用支援戦略プロジェクト」というものがあります。これは、障がい者の就職件数と勤続年数の向上を目的としたもので平成23年7月から実施しました。

ハローワークを通じた埼玉労働局管内の年間就職件数は、平成22年度で2,060件だったのですが、これを5年後の平成27年度までに1.5倍の3,090件以上にすることが目標として掲げられました。平成24年3月に県内障がい者の平均勤続年数の調査を実施して、10年11カ月だった勤続年数も5年後には2年以上伸ばすことをめざしています。このように、就職件数などの「量」だけではなく、勤続年数などに表れる「質」も求めて、支援を行っているところです。

法令や施策への理解が支援の鍵に

就職支援を行う側が、労働関係法令や労働関係施策について知識、理解があることは、求職者の選択肢を増やす意味でも大切だと思います。

私の長女が就職活動中、エントリー先の企業を見せてもらったところ、有名企業ばかり並んでいました。私が「地元の中小企業にもエントリーしてはどうか」とアドバイスすると、「働きやすい企業かどうかよくわからないから」との答えが返ってきました。

そこで、私が長女に教えたのが「くるみんマーク」です。これは、国が、仕事と子育てを両立しやすい職場環境づくりに取り組んでいると認定した企業に与えるマークです。私のアドバイスを受けて、長女は、地元企業の中から、認定を受けた企業を見つけ出し、エントリーしました。

厚生労働省の施策の1つに「『若者応援企業』宣言事業」があります。これは、一定の労務管理体制を整備の上、35歳未満の若者を採用・育成するためハローワークに求人を出し、通常の求人情報よりも詳細な企業情報・採用情報を公表する中小企業を「若者応援企業」として積極的にマッチングやPRを行うという内容で、昨年12月4日現在埼玉労働局管内では、311事業所が登録されています。近年、若者の「使い捨て」が疑われる企業のことが取り沙汰されていますが、若者応援企業の存在を伝えることで、求職者側が企業を選択する際の目安にもなります。支援を行う側が労働関係法令や労働関係施策について知識があると、求職者側の選択肢も広がることがおわかりいただけたかと思います。

働く人が生きがいを得られる支援

今日の報告の中で私が伝えたかったことは、個別キャリア支援においては、就業支援を行うと同時に、働く人が生きがいを得られるよう支援していくべきではないかということです。この「生きがい」の「かい」という言葉は、日本最古の物語とされている「竹取物語」の中にも登場します。かぐや姫に求婚する5人の公達の1人、石上中納言は姫から、結婚の条件として、燕が産むという子安貝を取ってくることを要求されます。

中納言は、子安貝らしき物をみつけるのですが、結局それは子安貝ではありませんでした。その時、「あな、かひなのわざや」(ああ、貝ではなかったことだなぁ)とつぶやきます。

この「かい」については、「価値あるもの」という意味があることから、「生きがい」は「生きる価値」「生きる意味」という意味になります。

先ほどの下村研究員の報告には、最新のキャリア・コンサルティングの理論の中には、意味を探求するという意味があるとのことでしたが、キャリア支援を行うに際しても、職業を中心に据えつつも、個人の生きがい、働きがいまでを含めたキャリア形成支援が、世の中の変化が激しい状況下において、必要になってくるのではないでしょうか。

図3 主要先進国の職業紹介機関の体制

図3[画像のクリックで拡大表示]

キャリア・コンサルティングは、他人の生き方を支援するという大変重大な責務を負っているため、常に専門知識を習得し、能力の向上に努める必要があると思います。

私自身も自主勉強会を運営したり、労働大学校が行政職員向けに開催するキャリア・コンサルティングの実践的な能力向上のセミナー講師などを通じて職員のスキル向上に努めています。

日本のハローワークは主要先進国に比べ、職員数が10分の1程度で、非常勤職員の割合も高いなか(図3)、求職者の支援に注力しているところです。