1998年 学界展望
労働調査研究の現在─1995~97年の業績を通じて(4ページ目)


3. 柔軟な働き方

論文紹介

松繁

まず、「柔軟な働き方」は、時間的に柔軟性が増すのか、場所的・空間的に柔軟性が増すのかというように分けられると思います。前者は、裁量労働制の適用範囲を広げるかどうかという議論とあいまって、かなり調査もなされていますが、空間的にどうなるかという問題はまだあまり調査がありません。

キーワードは、「自営化」や「個業化」という言葉だと思います。同じ空間で同じ場所にいて一斉に働くという工場型管理の中で働いている人と、完全に独立して自分の責任で仕事をしている自営業との中間領域にある働き方が最近できてきたという点で、面白い分野だと思います。

仕事の働き方に関して自由度をどれだけ人に任せるかという問題には二つの側面があって、一つは権限をどれだけ誰に委譲するかという問題です。これは、リスクを誰が取るかという問題ともかかわってくる。個々の従業員に裁量性を任せていくということは権限を下部に落としていくということですから、会社としてのリスク管理、それから業績格差または能力の差による賃金格差をどのように企業内で配分していくかという問題とかかわってきます。

もう一つの側面は、技術的な問題で、三つぐらいのポイントがあると思います。一つは、生産技術の制約です。みんなで一緒にやらないと生産できないのなら個業化していくこと自体が無理なわけです。いわばハードテクノロジーの制約がある。二つ目のポイントは、作業のコーディネーションがどうなっていくかという問題です。工程管理の問題や企業内在庫の問題が解消できるかどうかという点です。三つ目は、従業員管理の問題です。机を一緒に並べて、同じ時間に出勤して、ボスの下でみんな一斉に働く場合、ボスは能力も態度も査定しやすく、問題が起きたときの対処もやりやすい。しかし、もしそうしなくてもよい状況が生まれてくるとすれば、自営化や個業化が可能になってくる。

論文1.佐藤厚「裁量的労働の仕事と管理をめぐって」

最初に、取り上げたいのは、佐藤厚(1995)です。この論文の中に裁量労働に関する問題が非常にうまく要約されています。

第1は、プレーイングマネジャーがその裁量制を当てはめられている職種の中にいるということです。労基法で裁量労働制が当てはまる職種をどうやって決めたかはよく知らないのですが、単純に創造的活動をする人は自由に働かせたほうがいいという観点で決定しているように思われます。大学の先生や、芸術家とか。しかしプレーイングマネジャーというのは自分も仕事をしていて、かつマネジャーということです。マネジャーというからにはある程度、管理業務が入る。管理業務が入るにもかかわらず、また、そうであるから裁量を与えうるということがポイントです。

第2は、時間的弾力化を有効にするには目標の設定と仕事の評価基準の明確化、考課者訓練、メンバーヘの権限の委譲がどうなされるかが重要であるとしている点です。他の調査も、結局、このフレームワークの中に収まっています。

第3は、仕事の細かな中身を聞き出す作業がなされた点です。他の調査研究はアンケート調査が主で仕事の中身を十分とらえていない。細かく観察して調べていくタイプの調査がもっとなされるべきだろうと思います。

論文2.社会経済生産性本部『裁量労働制に関する調査報告書』

次は、社会経済生産性本部(1995)です。これは企業調査と個人調査に分かれています。企業調査は裁量労働制の導入状況およびそれへの関心度です。関心が持たれている理由、そして導入が進まない理由を分析しています。個人調査のほうは、勤務状況が導入によってどう変化したか、今後どういう業務に裁量労働制の適用を広げていくかという問題が問われています。

興味ある発見は、今導入している企業は3.3%ですが、導入に関心がある企業は71.2%もあることです。その理由は、「成果志向を徹底することができる」「自主性を尊重することによって高い成果が期待できる」「就業時間を合理化することによって仕事の効率を高めることができる」、要するに、日本の企業で問題になっているホワイトカラーの生産性をどう上げるかという問題や能力業績主義の方向にどれだけいけるかという問題とかかわっています。

ところが、導入が進まないのは、「成果の評価方法が確立していない」からなのです。これと裏腹に、目標管理制度にかなり興味があり、これが裁量労働制への関心と相関があります。すなわち、今までの日本的な管理の仕方から離れ、より権限を下に移し、それぞれの裁量によって仕事をさせることで成果を上げようとすると、これまでと違う基軸で管理し、能力や業績の査定をしないといけない。これは結局、成果主義への流れなわけですが、具体的にはまだ方法が確立されてない。そこで企業は目標管理制度に注目しているという構図が浮かび上がります。

また、裁量労働制を導入している11社のうち効果があったと思っている企業が9社と、かなり効果のある制度らしいことも明らかにされています。

個人調査では、導入後の勤務状況の変化に関しては「仕事の進め方がフレキシブルになった」という人が60%ぐらい、それから、自分の仕事の仕方に関して「成果志向が強まった」と答えた人が80%います。ですから、まさに企業の意図していることが当たり出したということになります。実際に経験している人の間でも「制度の対象業務を広げていくべきである」と考えている人が85%いるということですから、法的な対象業務の制限をなくしていくという方向は生産性を上げるために、また働き方を有意義にしていくためによいという結果が出ているようです。

次に、先ほどのプレーイングマネジャーの議論と関係する点ですが、チームで行う仕事の割合が高いという人が51.7%もいて、彼らが裁量制の中で成果を上げられるということです。そうすると、個人プレーヤー的職種以外にも適応範囲を広げられるということになり、裁量性が効果を持つ職種の範囲はかなり広いと思われます。

論文3.連合総合生活開発研究所『仕事の変化と労働時間の弾力化に関する調査研究』

次に労働時間との関係で連合総合生活開発研究所(1995)の調査を取り上げたいと思います。これはフレックスタイム、変形労働時間制度を導入している場合の調査です。

労働時間の長期化が起きている理由として、能力開発のためや自分を認めてもらうために「職務の範囲外のこともやるようになった」という点が挙げられます。要するに積極的に自ら労働時間を延ばす現象が出ているわけです。これは、自営業になると労働時間が増えることとよく似ています。それはある意味では当然のことで、リスクと成果を自分がかぶらないといけないということになれば、人々はもっと真剣に頑張ります。もちろんそれがいいかどうかは問題なのですが。

ただ、ここでも問題は仕事の評価基準や目標の明確化であると主張されており、先の二つの調査と一致しています。

次は空間的裁量性の問題を見てみたいと思います。

論文4.日本サテライトオフィス協会『日本のテレワーク人口調査研究報告書』

在宅勤務や、テレワーク、サテライトオフィスというものが最近生まれてきています。これも時間的裁量性の問題と同じで、個人に業務のやり方、仕事の進め方を任せたときに結果がどうなるかという問題です。その背後には日本のホワイトカラーの生産性を上げないといけないという意識があるわけですが、これを導入することによって生産性が本当に上がるかという点をまず確かめる必要があると思います。

この分野での数少ない調査として、日本サテライトオフィス協会(1997)があります。まず、現象としてとらえておくべきなのは、1年間で2倍ぐらいの人がテレワークを実施し始めた点です。1年前は2%ですが、今は4%ぐらい。次は、テレワークの効果として「生産性が向上した」と答えている人が56.1%、「通勤疲労の解消」は49.1%いる点です。

また、今後実施したいと思っている人は従業員の中で63.2%もいます。技術系は特に多くて、90%強の人が、実施したいと思っています。ところが、おおかたの企業は積極的ではなく、在宅勤務に関しては88%が導入意志がなく、サテライトオフィスも97%が、直行直帰制度も92%が導入意志がない。要するに、働いている側と企業の意識がかなりずれているという問題提起がされています。

論文5.日本労働研究機構『マルチプルジョブホルダーの就業実態と労働法上の課題Ⅰ・Ⅱ』

最後に、マルチプルジョブホルダーの問題を取り上げたいと思います。日本労働研究機構(資料シリーズNo.55、1995・No.67、1996)です。調査そのものはかなり詳しくなされていますが、経済・経営的な問題点がどこにあるかという分析は、これからの課題のようです。

研究の背景には、経済活動が年中無休化してくる一方で休日が増加し、かつサービス産業が拡大してくる。さらに裁量労働や在宅勤務などにより、かなり仕事の仕方に自由度が出てくるので、一つの仕事にこだわらなくてもいい人たちや時間的に別の仕事ができる人たちが増加してくるという現象があるわけです。その中で一つの会社に勤め上げるよりも多数の仕事をしたほうが人生が豊かになるかという問題と、別の仕事へ移っていくトランジットな過程として、こういうやり方を試みている人がいるということです。

ここでも成果主義の問題が生じてきます。従業員が、自分の時間を自由に使い、一つの会社以外のところで働く場合、雇う側としては、それを許せるかという問題です。とにかく、成果さえ上げてくれればいいというのであれば、請負的な形での雇用が増加し、マルチプルジョブホルダーが増加していく可能性があります。ただ、私が気になるのは、ポジティブにマルチプルになっている場合はいいのですが、一つの会社の給料では食べていけないから仕方がなくてマルチプルにならざるをえないという影の部分もかなりあるようです。

一般に、規制緩和をした国はコアのところの雇用が減り、パートタイマーや、まさにマルチプルジョブホルダーが増えているようです。世界全体にパートタイマーが増える傾向にあるのですが、規制緩和をするとそれがさらに促される可能性がある。その結果、仕方なくマルチプルになってしまう人が増加するという問題が起きるかもしれない。今後、注意して見ていかなければならない測面だと思います。

まとめると、結局、自営化とか個業化が行われるかどうかは成果主義がやれるかどうかにかかっているようです。それは各労働者の選択問題でもあるのですが、会社が成果主義に基づいた適切な評価制度をつくれるかどうかもポイントだと思います。

討論

プレーイングマネジャーの出現

佐藤

私の論文では、今、松繁さんがおっしゃったような柔軟な働き方が実際に根づいて、今の日本の人事システムの中で定着していくためには幾つかの条件が必要になってくるだろうということで、その整理をしています。第1点は、やはり権限委譲とその主体の問題です。だれに・どういう仕事を・どこまで、任せるのかという問題。それと実質にかかわってくるのが第2点目の技術上の問題で、それが生産技術あるいは工程管理、仕事の管理という技術的なマネジメントの問題です。そのポイントになってくるのが私が見たところでは、プレーイングマネジャーといいますか、結局、コアになっていくような主体が必要であるということでそれが事実上、いろいろな事例を見ても、見いだされたということです。

プレーイングマネジャーはどういうような人なのかという性格づけはやはり非常に重要だと思います。それは、専門性を持っている人材でないといけない。事実上、自分の仕事について精通していて、自分でプレーイングもできるし、自分以外のだれかがやる場合にもマネジメントができるという力量を備えていなければいけないというのがプレーイングマネジャーの属性としてあると思います。

そうすると、マルチプルジョブは少し違うかもしれませんけれども、基本的にはほかの在宅勤務にしても、フレックスタイムの対象者にしても、そういうプレーイングマネジャー的な性格を持っていないと、うまく機能しないと思います。

これは、松繁さんがご指摘になったような成果管理の方法をどのようにつくっていくかということにもかかわってくるかもしれません。最終的には自分で自己管理をして、自分で目標を決めて、自分の仕事を評価するというのがあくまでも基本になってくる。つまり、自分で目標設定して、自分で成果の達成度を評価していくという側面になるでしょうが、現在、評価システムについていろいろと議論されているけれども、既存の労務管理の仕組みの中ではなかなかこういった働き方が許容できないような状況になっている。これが、普及しない理由を考えていったときに出てくる問題だと思います。

自分が評価するというのは美しい表現なんですか、だれかに評価してもらわなければ、その客観性が持てないという問題も出てきますし、その職務によく精通している者でないと、先ほども出てきましたけれども、評価する人間をどう評価するかという問題も常に出てくる。プレーイングマネジャーそのものに評価のすべてをゆだねるということが実際にはなかなかできないという連鎖があり、この問題が残る限り、1人1人がプレーイングマネジャーになれと言っても、なかなかそこまではできないという状況があるんだろうと思います。

八代

みんながプレーイングマネジャーになることはできないということですね。

佐藤

そうですね。

裁量労働制の今後

八代

裁量労働制については、今回取り上げられた調査は、言わば「光の部分」を取り上げていると思います。しかし、たとえば裁量労働制を企業が導入するインセンティブとして、時間外手当の問題というのはどうなんですか。つまり裁量労働制を導入することによって時間外手当を削減できるというか、その辺はいかがですか。

松繁

あると思います。

八代

たしかに、インプットよりもアウトプットで管理したほうがいいような職種については、労働時間は柔軟にしたほうがいいというのはわかるんですが、企業が導入するインセンティブの本音の部分として、そういうこともあるのではないか。

それからもう一つは、プレーイングマネジャーの話が出ていましたね。つまり、集団、チームで仕事をしているような人にも成果主義が適用できるということでしたが、その場合、昔の古典的な議論だと集団能率給というものがありましたが、マネジャーだけが成果を横取りしてしまうという問題は起こらないのでしょうか。

佐藤

残業については、最近の基準法改正との絡みで言うと、連合が反対していますが、労働省試案と公益試案が出て、新商品・新技術開発など11業務プラス本社工場などの企画・立案・調査・分析部門という、言ってみるとホワイトカラーの中核の全般層に適用という流れでいくと思います。それは、経営側あるいは労働省試案にしてもそうですが、八代さんが言ったような、実質的に労働コストの面からの事実上の残業をみなしで切り捨てて、労働時間よりもでき上がった仕事で成果を出してもらわないと困るという点が非常に大きいでしょう。

八代

そうすると、ますます、アウトプットの管理が重要になりますね。インプットもアウトプットも管理しないというのでは、秩序が保てませんから。成果管理のシステムが確立されれば、インプットは見えないかもしれませんが、アウトプットの管理が確立する前にインプットの管理を緩めていいのかな、という点はありますね。

佐藤

評価システムとの関連で言うと、結局、今の日本企業の人事管理の基本が職能資格制度だとすると、全職種共通というのがその非常に大きな前提だと思います。評価システムを、全職種共通の物差しをどこかでつくっていかないといけないという前提がある。そうすると、他方で仕事や職場を見ていくとアウトプットのイメージも違うし、当然、物差しも違ってくる。たとえば営業とR&Dを見ても、具体的に見ていくと、なかなか同じ物差しでは見られない。だから、こういう職能がこなせるというような抽象的な基準であとは部門別に落とし込んで具体的な目標にしている。その抽象度の高い評価、全職種共通のところと、それぞれの個別部門の中での特定の物差しにギャップがあるというところが問題ではないか。

部門を超えて共通に横ぐしを刺そうとすると、なかなか同じ物差しではいかないから抽象度の高い話になって、実態と乖離する。こういう問題が生じているんではないかなと思うのですが。

八代

成果主義管理をもし進めていくとしたら、これまで行われてきた全社統一の職能資格制度で人事部がいろいろコントロールするという日本的なシステムの反対の方向を目指すことになりますね。そうすると、人事管理の分権化が進まないと、成果主義管理も結局はうまくいかないと思います。

松繁

そもそも成果主義管理がやりやすいところとやりにくいところがありますし、成果が状況に依存して非常にばらつく仕事とばらつかない仕事があります。また、同じR&Dでも産業によって結果が出るまで時間がかかる場合とすぐ出る場合がありますから、まさに産業別にいろいろな賃金が出てきますし、さらに、企業内でもいろいろな賃金体系が併存していくような方向に多少は動くだろうという気がします。

ただし、成果管理の方法が確立がされていないので企業は困っています。今後、具体的にどう対応していくつもりかというところまで踏み込んだ調査はまだない。

八代

裁量労働制、目標管理、年俸制、それがワンセットになっていくんでしょうね。そうすると、部下が自分の目標を意図的に低く設定するという、ウィリアムソンの言う「オポチュニスティックな行動」をとらないようにするためには、上司が部下の仕事の内容や部下の能力をどれぐらい把握できるのかが重要になりますね。先ほどの専門職の問題ともかかわるのですが、これは評価の技法だけではなく、評価できる人をどうやって育てるかという問題でもあるわけです。

テレワークの行方

八代

テレワークについてはいかがですか。たしかに情報技術革新によってこうした就業形態が一部の職種では進んでいく可能性があるけれども、それが今までの工場型労働と言われるものの根幹を揺るがすようなものになるのだろうか。その辺については、やはり普段、皆が顔を合わせて仕事をする必要がない、ネットワークで交信していればそれでコミュニケーションが代替されてしまうような、特定の職種で導入されていくということなのではないか。

あるいは、テレワークは就業形態としては雇用労働なのか、それとも請負なのか。あるいは労働基準法が適用されるのか否か、そういう労働者性の問題がありますね。新しい就業形態が出てきた場合、彼らを法がどの程度保護していくかが重要になると思います。それから、テレワークは、たしかにサプライサイドからすると、通勤地獄も解消されるし、自宅で仕事ができて、女性だったら子育てと両立できるとか、結構な制度です。ただ、労働市場には需要サイドと供給サイドがありますから、やはり、ディマンドサイドの分析が欠かせないと思います。

佐藤

テレワークというものの定義は、この調査の場合は、どうなっているんですか。サラリーマンがテレコミュニケーション手段を使っているものが、みんなテレワークになるということなんですか。

松繁

そうです。それも入っているんですね。もちろんサテライトオフィスも入っているんですが。

八代

やはり、情報通信手段の発達がテレワークの前提条件だということは間違いないですね。

佐藤

技術的に本社に行かなくても仕事ができる条件が整ってきたということですね。業務も大企業のホワイトカラーで企業のニーズと従業員のニーズで、ギャップがあるというお話でしたね。従業員のほうは、できれば在宅で働きたいんだけれども、企業のほうはいろいろマネジメントの問題もあるから、あるいは仕事が適したのがないからできないというギャップがある。その制約が外れたら爆発的に導入されていくのでしょうか。

松繁

条件つきだと思います。だれでも管理から外れたいと思いますから、導入するのはどうですかと聞かれれば、もちろん「導入してほしい」と答えるでしょうが、成果主義等の新しい管理制度とセットでどうしますかということならば、「いや、それは困る」、今までどおりの時間管理のほうがいいという人は結構いるかもしれない。

八代

先ほどの話とも関連しますが、テレワークは普段の働きぶりを見ていないわけですから、成果で評価されるしかないわけですよね。

松繁

ただ、週に1回とかの人もいるわけですね。要するに報告書の作成だけは家でやるとかという場合もあるわけです。単にテレワークだけをやっているというわけではないですね。

佐藤

通勤の負担が大きい人たちにとってみると切実だと思うんですね。1時間半の通勤をかけている、往復すると3時間ですから、1週間で15時間。2日分ぐらいの労働時間になってきますから。それをわざわざ本社まで行かなくても、自宅でもしできるとするならば、その仕事については家でやったほうがいいというニーズはこれから大きくなると思います。

松繁

もう一つの問題は、上司の判断を仰がないといけないような仕事の場合は問題が出てくると思います。電話とかインターネットのメールだけでは判断ができず、上司に実際に来てもらい、これはこうしなさいという具体的かつ詳細な指示を受ける必要がある仕事に関しては、上司が10分か20分で行けるような距離でないとだめでしょう。そうするとサテライトオフィスが可能な範囲も限られてしまう。

八代

因果関係としては、上司の判断を仰がないといけないから、テレワークが進まないと考えるのか、あるいはテレワークか進めばそういう意思決定の構造そのものが変わっていくと考えるのか。どちらなのでしょう。

佐藤

プラスの側面がね。先導していくというような側面はあるかもしれないですね。

マルチプルジョブホルダーの今後

佐藤

それから、マルチプルジョブですが、たとえばキャンプの指導員や、結婚式の司会、そういう副業のイメージの強いものも例として出ていましたね。サラリーマンの余技や趣味が高じて少しお金をもらうぐらいのレベルになっているようなイメージなのか、それとも、松繁さんがおっしゃった非自発的なマルチプル、つまり本業だけでは食えないから副業もやむなくやるのかで、かなりとらえ方が違ってくると思いますが、その点はどうですか。

松繁

所得の分布で見ると、所得の低い層でマルチプルジョブホルダーの割合が高いようです。負のイメージのところも結構あるという印象を持ちました。

八代

よくアナウンサーが結婚式の司会をするとかね。そういうのはわりとアルバイト的かもしれませんね。そういう日常見えるようなマルチプルにはかなりいろいろあるということですね。

松繁

積極的にマルチプルになっている場合と消極的にマルチプルになっている場合とは分けて議論しないといけないと思います。

佐藤

そうですね。「自発的マルチプル」と「不本意マルチプル」といいますかね。比較的大企業のサラリーマンについて、今の企業の就業規則では副業にかなり厳しいので、もう少しそれを緩めて、能力開発にもつながるなどのプラスの効果もあるから、少し就業規則を緩めて、副業をもう少しできるようにしたらどうかという提言が書かれていましたね。

松繁

少し違う観点からの興味は、フィフティ・フィフティでマルチプルになれる人がいるかどうかです。所得を上げ生活水準を上げるために、二つの仕事にそれぞれ4時間ずつ割り当てるような働き方で生活していけるかどうか。もし4時間・4時間の働き方ができるとすると、これは奥さんが4時間働いて、ご主人が4時間働くことでも生活できることになってくるので、かなり多様な雇用形態が可能になる。それは、ジョブシェアリングの問題ともかかわってきます。印象としては、そうはいかないだろうと思うのですが。

単に副業として5%ぐらい外で何かしているというだけだと、あまり重要な現象ではないですが、フィフティ・フィフティに分けることができるとすると重要になってきます。

また、次の仕事に移るための準備としてマルチプルジョブをやれるかどうかも、大きなポイントだと思います。