資料シリーズNo.273
過重負荷による労災認定事案の研究 その5

2024年2月16日

概要

研究の目的

本研究は、過労死・過労自殺等過重負荷による業務上災害の発生の機序を、職務遂行や職場管理等の視点から明らかにすることを目的に行うものである。

研究の方法

下記研究担当者は、① 平成23年度から令和元年度までに業務上認定された裁量労働制適用者にかかる脳・心臓疾患事案と精神障害事案について、被災者の労働時間・職務遂行の状況や、事業場・上司による職場管理などの視点から事案分析を行い、災害発生の具体的要因を探ること、また、裁量労働制が適用されていることと労働災害発生の関係性を探ることなどを目的に分析を行った。(第1章「裁量労働制適用者の労災認定事案の分析(続編)」)

また、② 脳・心臓疾患の労災認定事案における就業スケジュールについて検討し、健康を損なう長時間労働の態様について考察した。労災認定事案について、これまで労働時間の分析が様々な観点からなされてきたが、特定の業種や事案特性に限定せず、各日の始業・終業時刻等を属性別に解析し、労災認定事案における就業スケジュール面の特徴を解析する研究は乏しい。そこで、脳・心臓疾患の労災認定事案における就業スケジュールの特徴を解析し、健康被害を及ぼしうる労働時間の状況について考察した。(第2章「脳・心臓疾患の労災認定事案における就業スケジュールの分析」)

なお、本研究では、脳・心臓疾患事案を「脳心事案」と、精神障害事案を「精神事案」と表記する。また、それぞれの労災認定基準の表記に従い、脳心事案については「発症」と、精神事案については「発病」と表記する。

主な事実発見

第1章「裁量労働制適用者の労災認定事案の分析(続編)」は、上記 ① について調査研究を行ったものである。

その結果、裁量労働制適用者に係る労災保険事故発生の機序としては、概ね、長期間にわたる日々の長時間労働(深夜勤務、休日出勤を含む。)、また、その背景にある労働時間以外の負荷要因(働き方)や、業務の量的質的変化による過重な業務負荷があった。精神事案については加えて、職場の人間関係(上司や同僚とのトラブル)も業務負荷を過重なものとしていた。裁量労働制適用事案という特殊性を踏まえると、みなし時間を超える時間に働いている(働き過ぎている)こと、またこのことから、みなし時間に見合わない業務量であることがうかがわれた。併せて、裁量労働制適用者についても労働時間管理が必要であるにもかかわらず、出退勤管理を通じた労働時間管理が十全ではないこともうかがわれた。

第1章末 図表1-1,1-2(PDF:851MB)

第2章「脳・心臓疾患の労災認定事案における就業スケジュールの分析」は、上記 ② について調査研究を行ったものである。

その結果、検討対象とした脳・心臓疾患の労災認定事案は、時間外労働時間数が多い長時間労働の事案であるが、労働時間の長さ以外にも、就業スケジュール面の特徴があり、深夜勤務が多い事案や、勤務間インターバルが短い事案が一定数存在していた。

就業スケジュールの状況は、業種による差も大きい。就業時間帯について、勤務日のうち深夜勤務のある日が占める割合は、「宿泊業、飲食サービス業」、「農林漁業」、「情報通信業」、「運輸業,郵便業」で大きい。勤務間インターバルの状況も、業種による差が見られ、「農林漁業」、「運輸業、郵便業」、「金融・保険・不動産業」、「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」などにおいて、勤務間インターバルが短いケースが相対的に多い。特定の業種で課題が大きいことが示されている。

第2章掲記の全図表(PDF:1.0MB)

政策的インプリケーション

第1章「裁量労働制適用者の労災認定事案の分析(続編)」の検討からは、裁量労働制適用者について、みなし時間に見合った業務量とすることがまず重要である。また、日々の出退勤管理を通じた労働時間管理を適正に行い、これにより、健康福祉確保措置並びに苦情処理措置を適正に運用していくことも重要である。さらに、裁量労働制適用者が直面する業務の過重負荷に適切に対処するため、管理職による職場管理が重要であり、企業としても、裁量労働制適用者の管理と同時に、職場管理を行う管理職へのサポートが必要である。

第2章「脳・心臓疾患の労災認定事案における就業スケジュールの分析」については、検討対象とした事案は長時間労働に特徴があるが、同時に、一定数の事案において、深夜勤務が頻繁にある、勤務間インターバルが短いといった就業スケジュール面の特徴もある。こうした就業スケジュールは、働く者の健康を著しく悪化させるものでありうる。過労死等防止の観点からは、長時間労働の防止はもちろん、働く者の健康を損なわせるような就業スケジュールの問題に対処することも求められる。併せて、就業スケジュール上の問題は特定の業種に偏って存在しているところもあり、その背景には、営業時間や業界の慣行など業態的な要因が関わると推測される。

政策への貢献

過労死・過労自殺防止対策のほか、長時間労働抑制など過重労働に関連する諸問題にかかる政策の企画・立案に貢献するものである。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な働き方と処遇に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等人事管理に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

池添 弘邦
労働政策研究・研修機構 統括研究員
高見 具広
労働政策研究・研修機構 主任研究員
藤本 隆史
労働政策研究・研修機構 リサーチアソシエイト

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