資料シリーズNo.243
委託離職者訓練に関する分析
~訓練施設の取組みと受講における効果から~

2021年11月19日

概要

研究の目的

離職者向けの公共職業訓練のうち、国や地方自治体から業務委託を受けた民間の企業・法人などによって行われる「委託訓練」の受講者は、離職者訓練受講者の約7割を占め、コロナ禍の下での労働市場の状況や、就職氷河期世代のキャリア再形成といった政策課題を背景に、重要性が高まっている。

本書では、訓練施設と訓練受講者を対象に実施したアンケート調査の結果を、委託離職者訓練の多様性、受講者の就職に対する訓練施設の取り組みの効果、委託離職者訓練の収支状況という3つの観点から分析し、実践上の示唆を引き出すことを試みた。

研究の方法

アンケート調査の再分析、先行調査研究の検討

主な事実発見

  1. 委託離職者訓練の中で受講者がとりわけ多い主要訓練コース分野の中には、ITや介護といった、今後も労働需要が堅調であることが見込まれる産業・職業に関わるコースが含まれる。

    ITや介護の離職者訓練は、それまで従事してきた仕事とは異なる仕事に従事するための準備機会として機能している。介護関連のコースの場合、訓練前に介護の仕事をしていたという受講者は1割に満たず、IT関連のコースでも訓練前にIT関連の仕事をしていた受講者は1割をやや超える程度であった。受講の動機としては、IT関連コースも介護・福祉関連コースも、約3分の2の受講者が「新しい分野の仕事の分野にチャレンジしたいから」と回答し、受講により身についた能力・知識・スキルとしては、いずれのコースの9割以上の受講者が、「基礎的なレベルの専門的知識・スキル」を挙げる(図表1)。

  2. 委託訓練受講者の就職と訓練施設の取り組みとの関連について分析を行ったところ、訓練施設が特定の業界団体と情報交換・連携をすることが、受講者の就職可能性を高めること、業界団体や地域の経営者団体との情報交換や連携が正社員として就職できる可能性を高めることがわかった。また、受講後の就職可能性は、ハローワークに職員が出向く頻度がより高い訓練施設や、就職支援の取組みとして、地域や業界の労働市場に関する説明・情報の提供を行っている訓練施設の受講者においてより高くなっていた。

    図表1 主要訓練コース受講者の訓練受講動機

    図表1画像

  3. アンケート調査では、委託離職者訓練の運営に係る収支状況が「苦しい」と回答する施設が4割にも上っていた。この収支状況と訓練実施施設の属性や取組みとの関連を分析したところ、施設のスタッフ数と受講者数との関係が収支状況に影響を与えており、スタッフ数に比べて受講者数が少なすぎても多すぎても、収支が苦しくなる可能性が高まることが明らかとなった。また、受講者の就職を支援するための取組みや、就職を実現するための他組織・機関との連携の取組みの中には、実施により収支状況が苦しくなる可能性が高まるものが見られた(図表2)。

    図表2 委託離職者訓練の収支状況に関する二項ロジスティク回帰分析

    図表2画像

    **<.01 *<.05 +<.1

    注.被説明変数は、委託離職者訓練の収支状況が苦しいか否かで、「苦しい」と回答した場合には1、そうでない場合には0の値を取るダミー変数である。

政策的インプリケーション

  1. 訓練受講者の就職や、あるいは正社員としての就職の可能性を高めることにつながっている、訓練施設の取組みは、業界や地域における企業の活動の中にいかに委託訓練を位置づけていくかが重要であることを示唆している。求められる資格や新規就業者に対するニーズなどをきっかけとして、訓練施設と業界内・地域内の企業群とが「出口=就職」に関する認識をすり合わせ、ハローワークはその認識を裏付ける情報を提供し、訓練施設側は認識や情報を基に、訓練や指導、就職支援を実施するといったことを、恒常的に繰り返すことができる環境・体制の整備が、委託訓練の領域においても求められる。
  2. ITや介護といった訓練コースを中心に、職種転換のための準備機会として委託訓練が果たしてきた機能は、コロナ禍の雇用情勢の下で、これまで以上に重要性・必要性が高まっていると考えられ、より多くの人々によって活用できるように取組みが進められるべきであろう。また、訓練を担う講師人材の確保においても様々な配慮(講師の処遇改善、講師の確保に関わる規定の見直しなど)が欠かせない。
  3. 委託訓練によってキャリア・チェンジのための基礎の養成は可能であるが、受講者がその基礎を足場に中長期的なキャリアを形成し、キャリア・チェンジを成し遂げるようにするには、さらなる配慮や取組みが必要となる。委託離職者訓練の受講者が、訓練によって身につけた基礎を足場としたキャリア形成を実現していく上で重要と思われるのは、中長期的な人材の育成・確保に対する企業のニーズであり、訓練施設がより確実にこうしたニーズを把握できるような機会の形成が求められる。
  4. 委託訓練の持続可能性をより高めていくには、制度を支える訓練施設の収支状況に配慮する必要がある。本書の分析結果は、訓練施設が収支面で苦境に陥らないよう、委託離職者訓練の運営に必要な作業・取組みや、そうした作業・取組みを実施していく上で適切な人員構成、費用をかけずに就職実績を上げることができる取組みなどを、離職者訓練を委託する都道府県などが、訓練を受託する民間事業者に明示・説明していく必要があることを示唆している。

政策への貢献

委託離職者訓練の内容や運営に関わる検討の際の基礎資料として活用される。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「職業能力開発インフラと生産性向上に向けた人材の育成に関する研究」

研究期間

令和元年度~3年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 主任研究員

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

刊行物のご注文方法をご確認ください。

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
ご購入について
成果普及課 03-5903-6263 

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。