資料シリーズ No.142
欧州諸国の解雇法制
―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査―

平成26年 8月 8日

概要

研究の目的

近年、イタリア、スペイン等の欧州諸国における労働市場改革や解雇規制の見直しの動きが我が国でも大きな関心を集めている。解雇規制については、わが国においても規制を見直すべきとの主張が国会等の場でなされることがあるが、解雇規制の緩和は労働者及び国民生活に重大な影響を及ぼすことから慎重な対応が必要である。このような視点に立ち、デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインを対象に、これらの国の解雇規制の現状及び近年の見直しの動き等を把握することを目的に調査を実施した。併せてこれら諸国が加盟するEUにおける解雇規制の現況を概観した。

研究の方法

文献サーベイ

主な事実発見

2008年の世界金融危機に続く2010年の欧州ソブリン危機は欧州各国の経済に大きな影響を与えた。特に危機の影響が色濃かった南欧諸国を中心に、各国で労働市場改革が進められその一環として解雇規制の見直しがなされた。

各国別に見ると、デンマークでは解雇の規制に関して、現在労使からの改正要請はない。2013年になり労働組合等から改正要求があったが、これは競業避止義務についてであり、解雇部分に関しての改正要求ではなかった。これは、デンマークの労働市場政策がフレキシキュリティー(Flexicurity)に基づくものであり、労使は現行の制度を概ね支持しているものと考えられる。

ギリシャでは、労働法が2010年初めより広範に変更されてきた。IMFおよびユーロ圏加盟国からギリシャが受けてきた財政支援に関連して、ギリシャ政府が行った公約は、ギリシャにおける労働市場の規制への大幅な介入を許した。これらの介入にはさらなる不定型雇用の推進や解雇規制の緩和も含まれている。また、主に団体協約による伝統的な賃金制度を廃止し、部門レベルや職業レベルの協約からの広範な逸脱を許容するなど、団体協約法や団体交渉制度にも大きな影響を及ぼしている。

イタリアでは、2012年の労働市場改革法による解雇法制の改正が、それまで「聖域」とみられ、労働組合の反対などにより実現が極めて困難だとみられてきた労働者憲章法18条の改正がなされた。しかし労働組合の反発が強かったこともあり、改正によってできた制度は違法解雇時の救済を4つの型に分類するという複雑なもので、その複雑さゆえに改正後の新制度はどの救済を得るのかをめぐる紛争を惹起するという側面も持つことになった。また、紛争の結果は裁判官の判断に委ねられる部分が大きく、今回の改正がどれほど実質的に労働市場に影響を与え得るのかについては、現在のところ不明である。

スペインでは、労働市場改革の方向性を経営者団体は肯定的に受け止めている。一方の労働者側は猛反発を示しており、2大労組の呼びかけによる24時間のゼネストには各地で数万人から数十万人規模の参加者が集まった。労使が対立する中で為された2012年の「労働市場改革」であるが、硬直した労働市場の柔軟化(flexibilidad)に多少寄与することはあっても、失業率の改善には結びつかないだろうというのが当初からの予測であった。事実、2011年に21.65%、2012年には25.0%であった失業率は、2013年に26.4%、2014年は26.3%と高い水準で推移している。経済発展を優先するあまり、弱者保護を主眼とするはずの労働法が目的から次第に乖離していることについては、学説からの批判もなされている。

図表1 解雇手当の上限

図表1画像

出所:序章より

図表2 争訟提起可能期間

図表1画像

出所:序章より

政策的インプリケーション

経済危機の影響から欧州各国で労働市場改革が進んでいるが、その内容及び過程は各国間で大きく異なる。各国における改革に対する労使の対応も様々であり、その影響で本来の改革の趣旨から離れ、手続き的な変更で終える場合もあり得る。よって、労働市場改革の結果が実質的な規制の緩和であるか否かは、各国毎の改革の中身を仔細に検討する必要がある。

政策への貢献

わが国においても解雇規制を巡る議論は今後引き続き検討され得る課題であるため、欧州各国から得られた知見は、係る議論の参考となることが想定される。

本文

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研究の区分

課題研究(要請)

研究期間

平成25年度

執筆担当者

濱口 桂一郎
労働政策研究・研修機構 主席統括研究員
猪木 祥司
デンマーク雇用省所管 労働環境改善・雇用安定推進基金 広報担当
Aristea Koukiadaki
マンチェスター大学講師
大木 正俊
姫路獨協大学准教授
大石 玄
(独)国立高等専門学校機構 釧路工業高等専門学校准教授
事務局
労働政策研究・研修機構国際研究部

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