調査シリーズNo.133
長期失業者の求職活動と再就職状況

平成27年 1月30日

概要

研究の目的

本調査研究は、失業期間が1年以上に及ぶ長期失業者を調査対象とし、失業の契機・理由、求職活動の実態、再就職状況などについて、その実態を広範囲に分析・解明することを目的として行われた。最も注目したのは、再就職の成功要因を分析することによって、国が民間事業者に委託した再就職支援事業(長期失業者等総合支援事業)の政策効果を明らかにすることである。

研究の方法

全国8労働局を通じて長期失業者等総合支援事業を委託されている民間の就職支援会社に登録している長期失業者の中から調査対象者を抽出し、郵送によるアンケート調査を行った。アンケート調査は、2013年12月から2014年1月に行い、814人に配布し、531人から回答を得た。有効回収率は65.2%であった。

主な事実発見

分析対象となった長期失業者531人に関しては、再就職に成功した者254人(47.8%)、求職活動を続けている者277人(52.2%)となっており、再就職者と求職者がほぼ半々という構成になった。再就職の成功要因を分析したところ、学歴や職歴といったキャリアが、ほとんど影響していないという結果になった。再就職の成否に強く影響したと思われるのは、職業相談やカウンセリングであった。

再就職支援会社が行った職業相談やカウンセリングは、再就職者の85.4%が「役に立った」と回答しており、再就職に至らなかった求職者も77.9%は「役に立っている」と回答している。役に立った職業相談やカウンセリングの内容に関して、再就職者の回答率が求職者を上回っている項目は、「面接や自己アピールのやり方を理解し、実践できるようになった」、「職業や職種についての希望を明確にすることができた」、「自分の持っている職業能力を明確にできた」などであった(図表1)。つまり、企業の採用選考に関する実践的な対応策を学んだ長期失業者は、再就職の確率が高くなることを示唆している。

実際、再就職を実現できた要因として回答率が高かったのは、「職務経歴書の書き方や面接の受け方について実践的な指導を受けたこと」、「再就職の希望条件を下げたこと」、「職業相談やカウンセリングを受けて再就職意欲が高まったこと」、「職業相談やカウンセリングを受けて行動計画を作成したこと」などであった(図表2)。

さらに、採用選考の面接時に強調・アピールしたことを比較すると、再就職者は求職者よりも職業経験や職業能力に加えて、入社に対する熱意・やる気、体力・忍耐力といったことも強調する者の割合が高かった。おそらく、採用選考において職業経験や職業能力は、求人企業が想定している一定水準を上回っていれば、採用の可否を決める決定的な要素は、熱意ややる気、体力、人柄といったことを「総合的に勘案して」判断しているものと思われる。

ただし、再就職の成功要因に関する再就職者と求職者の回答率の差はそれほど大きなものではなく、再就職に結び付かなかった求職者の中にも、より実践的な職業相談やカウンセリングを受ければ、再就職を実現できる者が多数いるものと思われる。

図表1 役に立った職業相談やカウンセリングの具体的内容(複数回答)

図表1

図表2 再就職が実現できた要因(全て選択)

図表2

政策的インプリケーション

今回の調査対象となった長期失業者は、幸いなことに政策的に職業相談やカウンセリングを受けられる環境が整えられていたため、調査対象者の半数近くが再就職に成功している。しかも、再就職に成功した者と実現できなかった者の間に、学歴や職業キャリアによる大きな格差を確認することができなかった。このことは職業相談やカウンセリングのやり方次第で、長期失業者を再就職に導く可能性が高いことを示唆している。

ただし、各労働局別の再就職成功率には大きな差が生じており、再就職支援事業を受託した民間職業紹介会社の職業相談・カウンセリング能力に、大きな格差があるものと思われる。支援事業の事後チェックを厳格に行い、優良事業者を選別していく必要がある。

優秀な相談員やカウンセラーは、失業者の考えや思い込みといったことを巧みに引き出す能力、豊富な求人情報や仕事内容に関する情報を的確に提供できる能力、場合によってはキャリアチェンジを決断させる説得力など、多岐に渡る質の高い実務能力を兼ね備えている。こうした人材を育成するためには、個別企業による人材育成に加えて、行政と業界が協力して相談員やカウンセラーの能力を高める社会的育成システムを、整備・拡充していく必要がある。

政策への貢献

既に実施されている長期失業者の再就職支援事業について、その政策的効果を確認するとともに、問題点も明らかにすることができた。今後の政策立案に関して、参考資料になるものと思われる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究 「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」

サブテーマ「労働力需給構造の変化と雇用・労働プロジェクト」

研究期間

平成25年4月~平成26年3月

執筆担当者

伊藤 実
前・労働政策研究・研修機構 特任研究員

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