ディスカッションペーパー 17-02
スウェーデンにおける労働移動を通じた雇用維持
―労使による再就職支援システムを中心に―

平成29年3月31日

概要

研究の目的

スウェーデンにおける労働移動を通じた雇用維持を実現するために構築されている仕組み、および、その仕組みの下での労使当事者が果たしている役割について明らかにする。

研究の方法

文献調査、聞き取り調査、研究会の開催。

主な事実発見

  1. 労働力の価格の維持・向上にかかわり、スウェーデンでは産業別協約によって、厳格な賃上げ相場が設定されている。これは、企業規模や企業の経営状況にかかわらず、協約が適用される全ての企業が守らなければならない水準として設定されている。
  2. とはいえ、産業別協約は、個人への分配に対しては、特に厳格な規定は設けていない。実際の賃金額は、個別企業内における労使交渉によって決められるべきだと考えられている。
  3. そのような賃金決定の下、企業内での雇用維持にかかわっても、組合は交渉当事者として、積極的に関与していた。
  4. 労働移動を通じた雇用維持についても、労使による自主的な取り組みが実施されている。民間ブルーカラー、民間ホワイトカラー、地方公務員などそれぞれのグループで独自の基金が設けられて、サービスが提供されている。
  5. 加えて、民間ブルーカラーを対象としたTSLシステムを見てみると、その利用者のうち、サービス提供終了後に、労働市場プログラムや公共職業紹介所に行っている者は、ごく僅かとなっている。このことから、経済的理由による整理解雇の対象となった者のうちの多くが、このサービスによって次の職場に移っていることが分かる。
  6. 移動までの期間であるが、おおむね1年以内に8割のクライアント(サービス利用者)が、次の職場に移っている。
  7. 再就職支援サービスの質の維持および向上において、労使は一定の役割を果たしている。サービス供給主体であるサプライヤー企業の評価や進捗管理において、ナショナルセンターの労使や産業別組合が果たしている役割は、小さくない。

政策的インプリケーション

スウェーデンにおけるセーフティーネットの階層は、図表の通りになっていると考えられる(図表1)。なお、本稿では、重要なセーフティーネットである公的扶助について、扱うことができていない。図表の第2層の下には、第3層のセーフティーネットである公的扶助が存在しているわけであるが、本稿の対象外であるため、図表においても割愛していることを予め断っておく。

図表1 スウェーデンにおけるセーフティーネットの階層

図表1画像

図表の通り、企業による雇用を第1層のセーフティーネット、そして、公的サービスによる労働市場政策を第2層のセーフティーネットとすると、本稿で取り上げたTSLシステムは、第1.5層のセーフティーネットと言える。この1.5層目のセーフティーネットは、解雇の予告期間中からサービスが開始され、より早期の職場復帰の実現に寄与している。

また、この1.5層目のセーフティーネットと、第2層目のセーフティーネットは、重なり合っている部分がある。つまり、整理解雇の対象となった労働者は、ある時点で、労使の自主的な労働移動サービスと公的サービスの双方によるセーフティーネットを享受する権利を有することになる。福祉サービスの汽水域領域と言えよう。そして、この公私双方のサービスを受ける権利を有する汽水域を経た後、公的サービスを中心とした支援が実施されていくことになるわけである。このように、企業による雇用と公的サービスによる再就職支援の間には、労使当事者による橋渡し期間が存在している。

政策への貢献

労働政策の効果的、効率的な推進にかかわる基礎的情報の提供。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究 」
サブテーマ「現代先進諸国の労働協約システム(独・仏・スウェーデン)」

研究期間

平成25年度~平成28年度

研究担当者

西村 純
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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