ディスカッションペーパー 14-03
労使コミュニケーションの実態と意義
─アンケート調査を基に─

平成26年12月25日

概要

研究の目的

労働条件をめぐる労使コミュニケーションの実態を明らかにし、労使コミュニケーションの円滑化に必要な課題を示すこと。

研究の方法

アンケート調査。企業の社長と従業員過半数代表者に対し、2012年11月~12月にアンケート調査を行った。調査の対象企業は、一般企業と労使コミュニケーションを重んじる経営者団体といわれる中小企業家同友会の会員企業(以下、同友会という)である。回収票と回収率は、社長票の場合、1,517票9.9%(一般企業872票9.3%、同友会645票11.0%)、従業員の過半数代表者票の場合、1,348票8.8%(一般企業802票8.5%、同友会546票9.3%)であった。過半数組合のない企業では、従業員の過半数代表者が36協定(「時間外・休日労働協定」)等を締結する重要な役割を果たすが、それに対する本格的な調査は、この調査が初めてであろう。

主な事実発見

一般企業社長票(872票)の調査結果を中心に主な事実についてまとめてみると、次のとおりである。現在、日本では、集団的労使関係の希薄化・形骸化が進んでいる。第1に、集団的労使関係の重要な担い手である労働組合が存在する企業の割合は18.4%、過半数組合のある企業は12.5%に過ぎなかった。

第2に、過半数組合のない企業では、従業員過半数代表者が36協定等を締結することになっているが、その代表者の資格や選出の実態が労働基準法の施行規則・通達の要件注1 を満たしておらず、形骸化している。残業協定の締結の際に労働者側の当事者は、その59.5%が従業員過半数代表者であったが、上記の施行規則・通達の資格・選出要件を満たしている企業の割合は35.7%注2 に過ぎなかった。過半数組合のある企業12.5%を含めると48.2%企業のみに正当な集団的労使関係が成り立っており、残りの5割強の企業はそうではない。

第3に、企業が、賃金改定の際に、労働者集団から意見を聴取する割合は、22.5%(労働組合との会合12.2%、労使協議機関との会合6.7%、従業員組織との会合3.6%)に過ぎない。労働者個人との会合17.8%(従業員と業務上の会合・人事面談8.4%、業務外の会合3.3%、そして監督職との会合6.1%)を含めて一般労働者から意見を聴取するのは40.3%に過ぎない注3 。賃金改定の従業員意見聴取の実態からみても集団的労使関係は希薄しているといわざるをえない。

一方、労使コミュニケーションの経営資源性が明らかになった。労使コミュニケーションに大きな影響を及ぼす社長の労使コミュニケーションに対する基本方針を見ると、次の4つのタイプに分けることが出来る。次のA、B意見のどちらに近いかを回答して頂いた結果、「Aの意見に近い」(「肯定型」とする)が26.5%、「どちらかといえばAの意見に近い(「やや肯定型」)」44.4%、「どちらかといえばBの意見に近い(「やや否定型」)」22.0%、「Bの意見に近い(「否定型」)」4.9%であった。

Aの意見:企業は一般従業員の意向や要望を十分に把握して経営を行うべきだ

Bの意見:経営は経営者が行うもので、経営について一般従業員の要望をあえて聞く必要はない

労使コミュニケーションに対する社長の基本方針4つのタイプを用いて分析した結果、次のことが明らかになった。まず、第1に、「肯定型」がリーマンショック経営危機を「完全に克服した」の割合が最も高く、それに「克服中である」を含めた割合も59.0%と残りのタイプより約3%ポイント多い。他方、「否定型」は、「経営危機が悪化している」の割合が23.8%と他のタイプより顕著に多い(図表1参照)。

図表1 労使コミュニケーション基本方針4タイプとリーマンショック経営危機克服状況(単位:%)

図表1画像

「肯定型」の克服(「完全に克服した」+「克服中である」)の割合が最も高い要因(他のタイプより多い割合)を探ってみると、「危機を乗り越えるために会社との一体感をもつように促した」、「従業員に経営に対する意見を求めた」、それに「『雇用は守る』と言って従業員を安心させた」と「賃金・一時金のカットに理解を求めた」という労使コミュニケーション措置をとったことが挙げられる。「否定型」が他のタイプより顕著に多いのは、「特に何もしなかった」であり、逆に少ないのは、「業務の効率化を従業員に促した」、「危機を乗り越えるために会社との一体感をもつように促した」と「『雇用は守る』と言って従業員を安心させた」であった(図表2参照)。労使コミュニケーションが危機克服状況にかかわっているといえよう。

図表2 リーマンショック経営危機克服の措置(複数回答,単位:%)

図表2画像

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第2に、肯定型ほど、職場の雰囲気が良好であり、また、積極的な社員活用方針を持っている。具体的にみると、従業員の自主性発揮、仕事上の助け合い、率直な発言等働きやすく自分の能力を発揮しやすい職場の雰囲気であった。また、会社の情報を社員と最大限共有しながら、社員への権限委譲と配置・異動の際の従業員意思の尊重が見られるといったよき社員活用方針をもっている。そして、従業員から多くの協力を得ている。

第3に、勤続とともに賃金が上がる年功賃金の傾向があるが、その程度は正社員に比べて低いものの、肯定型ほど多く非正規労働者にも現れている。そういう意味で、非正規労働者の上がらない低い賃金や正社員との格差という非正規労働者の社会的な問題を発生させないのではないかとみられる。

第4に、最近、議論が再燃している従業員代表制の立法化に対し、社長は賛成18.3%(「賛成」+「どちらかといえば賛成」)より反対24.1%(「反対」+「どちらかといえば反対」)が多かったが、従業員過半数代表者は反対(14.1%)より賛成(25.6%)が多かった。概ね肯定型ほど賛成の割合が多くなったが、賛成の理由としては、経営側情報の従業員への正確な伝達、従業員側意見や要望の正確な把握、そして労使間の意見調整が多く挙げられた(図表3参照)。

図表3 従業員代表制の法制化賛成理由(複数回答,単位:%)

図表3画像

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脚注
  1. 注1 具体的には次のとおりである。すなわち、施行規則6条や通達(平成11・3・31基発第169号)によると、過半数代表者となる者の要件として、「労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者ではないこと」、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること」が定められており、同通達では、「挙手等」の「等」には、「労働者の話し合い、持ち回り決議等、労働者の過半数が当該者の選任を指示していることが明確になる民主的手続が該当する」と記されている。
  2. 注2 回答企業872社から過半数組合のある企業12.5%(109社)を差し引いた値の中で選出手続きが民主主義的であると見られる「投票」、「挙手」、「口頭」、「身振り」、「その他」の合計272社が占める割合である。そこには、代表者が課長以上の管理職に当たると回答した企業の108社(20.8%、その内訳は、部長・次長クラス以上10.4%、課長クラス10.4%)の一部も含まれていると見られる。そのために、その値(35.7%)は最大値である。
  3. 注3 そのほかは、従業員から意見を「特に聞いていない」(39.3%)、聞いても「管理職」(20.6%)に留めている。

政策的インプリケーション

現行の従業員過半数代表制の問題点を解消して労使コミュニケーションの経営資源性を多く発揮し、企業の発展と働きやすい職場環境の醸成を図っていくために、従業員代表制の法制化論議を本格的に進めていくことが肝要である。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「労使関係を中心とした労働条件決定システムに関する調査研究」

サブテーマ「従業員代表制実態調査研究プロジェクト」

研究期間

平成24~25年度

執筆担当者

呉 学殊
労働政策研究・研修機構 主任研究員
前浦 穂高
労働政策研究・研修機構 研究員
鈴木 誠
労働政策研究・研修機構 アシスタント・フェロー

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お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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