若者のキャリア形成と就職:ドイツ
デュアルシステムと高等教育における職業教育

1. ドイツの教育制度

ドイツの学校制度は、複線型の教育システムを特徴としている。6~18歳までの12年間が義務教育であり、6~9歳の4年間の基礎学校終了後は、(1)基幹学校(5年または6年制)から職業訓練コースに進む(2)実科学校(6年制)から職業専門学校または上級専門学校に進む(3)ギムナジウム(9年制)で大学入学資格(アビトゥア)取得後、大学に進学——の3つのコースのいずれかを選ぶこととなる。ただし、現在は、(1)(2)からの大学進学や大学入学資格を持ちながら職業訓練コースに進む道も用意されている。

ドイツの教育制度は、伝統的に職業資格に重点を置く多様に分岐したシステムであり、教育の早い段階で、職業専門的な労働市場に移行させるための選別が行われてきた。労働市場への参入は、訓練課程の修了や対応する資格の取得を前提としている。職業資格制度は、「デュアルシステム」と高等教育の2つの重要な制度から成り立っている。デュアル(二元的)システムの名称は、企業内訓練と職業学校での教育が平行して行われることに由来する。350職種をカバーするこのシステムによりドイツ就業者の約70%が職業訓練を受けている。高等教育制度は、大学123、専門大学200、芸術・音楽系大学53の機関からなり、デュアルシステムの次に重要な職業資格の取得機会となっている。

大学入学資格(アビトゥア)取得者は、中等教育終了後、兵役や職業訓練コースに進むのが通例であり、すぐに大学に入学する者は稀である。新入生の平均年齢は、専門大学が22.5歳、大学が21歳となっており、専門大学学生の約70%、大学生の約35%が、入学前にデュアルシステムで職業訓練を修了しているという。在学期間も比較的長く、平均卒業年齢は、専門大学生が28.5歳、大学生が28歳となっている。

2.デュアルシステムによる職業訓練

デュアルシステムは、義務教育終了後、職業学校に通いながら、主に企業で職業訓練を受ける二元的なシステムである。企業における職業訓練は、連邦レベルでその大綱的な内容が定められており、職業学校は各州の教育省が所管している。職業訓練生は、事業所と養成訓練契約を締結し、マイスターまたは有資格訓練員の指導を2~3.5年受ける。修了後に商工会議所や手工業会議所等が実施する修了試験に合格すると、技能労働者としての職業資格が得られる。職業訓練を受ける者は企業における訓練生であるとともに、職業学校の生徒である。

ドイツの労働市場の特色は、労働市場の二段階性にある。第1の労働市場は、職業訓練希望者が企業の選抜を受け訓練ポストを獲得する段階である。この時点で、学校修了資格のない者や成績の悪い者はかなり不利になる。第2の労働市場は、デュアルシステムによる職業教育訓練を終え、修了試験に合格して、技能労働者として実際に就業する段階である。職業訓練生の50~60%が訓練企業に就職している。

企業が提供する職業訓練ポスト数は1993年以降、訓練希望者数を下回っている。2005年10月から06年9月までに、連邦雇用エージェンシーに登録された職業訓練ポストの数は、前年同期を1万2000人(3%)下回る約45万9500人分であった。一方、職業訓練を希望する若者の数は、前年同期より2万2100人増加し、76万3100人となった。このうち36万5600人(48%)が9月30日までに訓練ポストに就いた。しかし、34万8000人(46%)は、訓練ポストを得ることができず、職業準備プログラム、若者のための初歩的企業研修、上級学校又は大学、兵役、社会福祉ボランティアなどの代替的なコースを選択した。応募者のうち9月30日までに進路が決まらなかった若者の数は、前年より9000人多い、4万9500人(6.5%)であった。

3.二元的(デュアル)大学教育と実務実習

大学教育では、専門分野の理論的知識を教えることに重きが置かれ、実務能力の養成が軽視されていると指摘されてきた。こうした批判に対応するため、最近、理論と実践の緊密な結合を目標に掲げた大学カリキュラムが増加している。これらに共通する特徴は、専門理論の基礎と体系的な企業内訓練を結びつけることにあり、「二元的(デュアル)」大学教育カリキュラムと呼ばれている。その内容は、構成要素や大学での学習と現場実習の結合の度合などの点で、大学ごとに大きく異なっている。代表的なカリキュラムとしては、(1)国家認定訓練職種での職業訓練を修了し、専門大学の学士号(ディプロマ)を取得する(2)職業訓練を修了した学生が協力企業で実務実習に就きながら、パートタイムで大学教育を受ける(3)大学でのフルタイムの教育を企業での実務実習で補完する(職業訓練修了資格は取得不可)——などがある。

二元的大学教育における企業での実務実習(インターンシップ)には、(1)卒業要件で必修とされる実務実習(2)必修ではないが大学が推奨する実務実習(3)学生が自らの意思で行う任意の実務自習——がある。

必修の実務自習には、入学前の実習が入学要件となっている場合もあるが、ほとんどは大学のカリキュラムに組み込まれた実習である(普通は授業のない休暇期間中に実施)。その期間は、大学や専門分野によって異なるが、最低6週から数カ月の範囲となっている。

必修ではないが大学が推奨する実務実習は、理論的学修を行う上で実践に基づく経験が有益と考える大学側が学生に奨励するものである。それに対して、学生が専攻に捉われず自発的に行うのが任意の実務実習であり、実習の時期や期間、実習先は学生個人が自由に選択する。

実務実習は、工学系では分野を問わずほぼ必修とされているが、人文・社会科学系は任意の実習形態としているところが多い。実践に重点を置く専門大学では、1~2学期の実務実習がカリキュラムに組み込まれており、入学前の実習を必須としている分野も少なくない。

大学が学生に実務実習を課す目的は、理論と実践の結びつきをできるだけ早期に構築し、大学での学修内容と企業での実務プロセスの関係をより良く理解させることにある。

学生にとって実務実習は、企業のしくみや労働現場を知り、卒業後、円滑に就業に移行できる利点がある。実務実習では僅かながら報酬が支払われる場合も多い。しかし、学生が実習ポストを得ることは容易ではなく、有名企業での実習は非常に倍率が高い。採用されるためには、企業の情報収集、履歴書の作成、応募、採用担当者との面接など、就職活動と同様の手順を踏む必要がある。

企業にとって実習生の受入れは、指導担当者の配置など負担が増える面もあるが、技術革新の契機をさぐり、新たな人材獲得の機会を広げる点で利点が多い。

4. 高等教育卒業者の就職

ドイツでも高学歴化が進み、1998年に28%であった高等教育機関(総合大学、専門大学等)への進学率が、2003年には38.9%まで増加した。ドイツの大学はセメスター制を取っており、年2回入学する機会がある。2006年の夏学期と冬学期を合計した入学者数は34万3700人(前年比3.5%減)、同年齢の人口に占める入学者の割合は35.5%となった。2005年にはドイツ就業人口の21.2%に当たる822万人が高等教育機関の卒業資格を持っていた。高等教育卒業者は、失業を回避するために他の職業に転向しやすく、他の職業資格所得者よりも失業のリスクが少ない。

ドイツの大学生は、かなり遅い時期に就職活動を開始し、卒業と採用の間に何カ月かの期間があくのが一般的である。ドイツでは卒業生のために一定のポストを用意することは稀であり、新卒者は実務経験のある求職者と同じ土俵で競争しなければならない。新卒者の多くは、当初は期限付きの労働契約しか結べないことが多い。企業は、大卒者(新卒者を含む)を即戦力とみなしており、理論的な専門知識を実践に活かす能力を養う機会として大学教育における実務実習が今後益々重要になると予想されている。

参考

  1. 寺田盛紀編『キャリア形成・就職メカニズムの国際比較—日独米中の学校から職業への移行過程』(2004年、晃洋書房)
  2. 寺田盛紀「ドイツ職業教育の「高等教育化」の諸相—専門大学におけるデュアル課程の展開の意味—」『生涯学習研究年報第9号』(2003年、北海道大学高等教育機能開発総合センター生涯学習計画研究部)
  3. 小杉礼子・堀有喜衣編『キャリア教育と就業支援—フリーター・ニート対策の国際比較』(2006年、勁草書房)
  4. 田口晶子「ドイツの職業訓練の現状と課題」『世界の労働2003年10月号』(日本ILO協会)
  5. ドイツ連邦職業教育研究所ウェブサイト
  6. ドイツ統計連邦統計庁ウェブサイト

2006年12月 フォーカス: 若者のキャリア形成と就職

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