若者のキャリア形成と就職:タイ
大卒者の就職難が社会問題に

タイでもこのところ、若者の就職難が社会問題となっている。タイ経済はアジア経済危機後順調な回復を見せており、失業率も2%以下で推移している状況下、逆に若年層の失業問題を浮き立たせる結果となっている。

大卒者の就職難

都市部を中心に急速な先進工業化が進むタイでは、教育水準も大幅に改善され、子女に高等教育まで進ませる家庭が急増した。こうした状況に呼応するように、高等教育機関の相次ぐ新設や既存校の規模の拡大などにより学生の収容力は増強されたが、結果労働市場に大量の新卒者を供給するようになった。ところが市場競争が激化する中、採用に慎重な企業側は熟練度の低い労働者を忌避する傾向にあり、職業経験に乏しい若者は就職が困難となるなど一部で雇用のミスマッチが生じている。政府はこうした事態に対応すべく、若者のエンプロイアビリティを高める施策を実施するなど若年者の失業問題への取り組みを始めている。

タイの公的職業訓練政策

タイにおける公的職業訓練政策には、大きく分けて教育省が主催するプログラムと労働社会福祉省が主催するプログラムがある。前者は職業訓練機関(Vocational School)が中心となって実施されているが、若年者の雇用のミスマッチの解消を目指して95年からデュアルシステム(Dual System)(注1)が、2004年からはVocational Schoolの単位認定を行うオープンシステム(Open System)(注2)が導入された。産業界との連携を図りながら実用的な技能・知識を有した人材を育成するといった従来の学校教育の範疇に止まらない先進的な取り組みが開始されている。

一方の労働社会福祉省が実施するプログラムは中央職業訓練センター(Institute of Labour Skills Development)を中心に行われており、注目すべきプログラムとしては、学校に在籍していない青少年向けに行われる就職前養成訓練プログラムと、新卒者向けに行われる新卒者就職前養成プログラムとがある。

就職前養成訓練プログラム

就職前養成訓練は、学校に在籍していない16~25歳までの青少年を対象に、就職につながる技能の習得を目的として行われる3~11カ月間の訓練プログラム。2003年度の受講者はおよそ32000人。プログラムには訓練期間別に3カ月訓練コース、6カ月訓練コース、10~11カ月訓練コースがあり、訓練期間中に1~2カ月の工場実習が行われる。各コースの訓練内容は下記の通り。

  • 3カ月訓練コース:木工塗装
  • 6カ月訓練コース:電気、木工、ガス溶接、電気溶接、冷凍空調、建築、左官、煉瓦積みなど
  • 10~11カ月訓練コース:電子、機械、仕上げ、印刷、測量、家具、配管、事務、自動車整備、建築製図など

各訓練センターに工場実習を斡旋するための部門(Training Development Promotion Unit)が設置されており、同部門が工場実習先や就職先を確保して就職率のアップに努めている。具体的な方策としては、企業がどういった能力を持った人材を求めているのかというニーズを調査したり、各企業のニーズにあった能力を持つ訓練生を工場実習に派遣するとともに、工場実習中にも訓練生や企業へのフォローアップなどを行っている。こういった努力の結果、プログラム受講後の就職率は約74%程度だが、上記のUnitを通じた就職はこのうちの9割程度となっている。残りの一割は、すでに述べた雇用局ルートを通して就職している。このプログラムの成果を計るために実施された「就職状況アンカート調査」をみると、就職前養成訓練プログラムの受講前の賃金が3000バーツ以下だった失業者等の受講生のうち、46.7%が3000~6000バーツに上昇した。また、受講前に無収入だった260名のうち134名が収入を得られるようになった。さらに、一人当たりの平均年収も訓練前53042バーツから55418バーツへと、4.5%上昇している。

新卒者向けの就職前養成訓練プログラム

新卒者向けの就職前養成訓練は、新卒者に対し、職場に入る準備のために基礎的・中級的技術の能力を高めることを目的として実施されている。研修期間は業種によって異なり、2~10カ月である。前項で述べた「就職前養成訓練プログラム」のカリキュラムとほぼ同様の内容だが、特に実技の訓練に重点をおいている。そのため、カリキュラムを一定のレベルで修了してから、さらに事業所で1~4 カ月間の研修を受け、終了後は事業所から評価を受けなければならない。ここまできて、初めて同プログラムを修了したことになり、合格証明書を授与される。

インターンシップ制度を導入

なお、労働社会福祉省では、訓練後の職業紹介の取り組みとして、雇用局の就職斡旋サービス課と雇用促進課が就職斡旋・支援を行っている。また、大学でも大卒者の民間企業への就職促進を図るために、インターンシップ制度の導入が開始された。これは大学が独自のカリキュラムを定め行うものであり、専門の先生がインターンシップ先を探して斡旋するというもの。大卒者は今後も増加することが予想されており、雇用のミスマッチを減少させるこうした取り組みが注目されている。

参考資料

  • 本稿の内容は、藤波美帆(2005)「タイにおける職業訓練政策」『アジア諸国における職業訓練政策』労働政策報告書No.29、労働政策研究・研修機構に詳しい。

参考

2006年12月 フォーカス: 若者のキャリア形成と就職

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