労働関連死者数は年間約300万人、労災に遭う労働者は3億9500万人
 ―ILO労働安全衛生推計

カテゴリ−:労働条件・就業環境勤労者生活・意識

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  • 国別労働トピック:2024年2月

ILOは2023年11月、世界の労働安全衛生に関する報告書「すべての人に安全で健康的な労働環境を:世界における安全で健康的な労働環境に対する基本的権利の実現(Safe and healthy working environments for all: Realizing the fundamental right to a safe and healthy working environment worldwide)」を発表した。この報告書は2019年の調査をもとに、労働安全衛生に関するILOの最新の推計をまとめたものである。報告書によると、世界で作業関連疾患によって死亡する労働者は年に260万人に上る。

以下で主な内容を紹介する。

作業関連疾患による死亡者は年間260万人

労働に関連する要因によって死亡した人のうち、労災による死亡者は33万人程度であるのに対して、作業関連疾患による死亡者数は260万人にのぼる。作業関連疾患とは、一般に広くみられる病気ではあるものの、職場環境や労働時間、作業による負荷等によって発症率が高まったり、悪化したりする疾患を指す。最新の推計によると労災または作業関連疾患によって死亡した労働者の死亡原因は次のようになった(図表1)。特に、循環器系疾患、悪性新生物、呼吸器系疾患の割合が高く、これらが約4分の3を占める。

図表1:労働関連死の原因別割合 (単位:%)
画像:図表1

出所:ILO(2024)

ILOとWHO(世界保健機関)が職業上の危険因子を検討したところ、2016年に最も死亡者数が多かったのは長時間労働(週55時間以上)だった(約74万5000人)。次いで業務上の粒子状物質、ガス、ヒューム(微粒子)への暴露(約45万人)、労働災害(約36万3000人)の順であった(図表2)。

図表2:職業上の危険因子別死亡者数(2016年) (単位:人)
画像:図表2

出所:ILO(2024)

地域ごとにみるとアジア・太平洋地域の死亡者数が最も多く、約63%を占める。これは世界の労働人口の大半をこれらの地域が占めているためである。

ILOとWHOの推計によると、アフリカや東南アジア、西太平洋といった地域、また男性や高齢者では作業関連疾患の負担がかなり大きい。

労働安全衛生のリスク

労働安全衛生の向上を妨げる要因は、危険な環境での就業やインフォーマル就業(法的枠組みで保護されず、社会的な保護を十分に受けていない就業者)、中小零細企業、新たな就業形態や気候変動、技術の進歩等さまざまである。

最も危険な産業は農林漁業、建設業、製造業で、これらの部門では毎年、業務上死亡災害の6割にあたる20万人が致命傷を負っており、特に世界の死亡労災の3件に1件は農業分野で発生している。死亡災害率は、鉱業・採石業、建設業、公益事業(水道・ガス・電気)で高く、特に鉱業の推計死亡率は全産業の平均の4倍に及ぶ。これらの産業には、重機の使用、予測不可能な自然要素、有害物質、肉体的に過酷な作業など、様々なリスクを伴う労働環境による事故、負傷、疾病の危険が高いことが共通している。

近年プラットフォーム労働をはじめとする非標準的な就業形態が増加傾向にあるが、これらの就業形態では、有給疾病休暇、適切な作業設備や個人用保護具(PPE)等の労働者の保護が欠如していることが多い。

インフォーマル就業の労働者は世界の就業人口の60%を占めるが、これらの人々は多くの場合、労働安全衛生法規制や労働監督の範囲外におかれている。世界の企業の90%は零細・中小企業であるがこれらの企業の多くはインフォーマル経済に属しており、労働安全衛生規制への認識や遵守が十分ではない。

気候変動は、異常気象や熱ストレス、大気汚染等様々な危険を引き起こす。ILOの推計によれば、保守的な予測の場合ですら2030年までに全労働時間の2%は暑すぎて働けなくなり、フルタイムの雇用換算で7200万人分が失われると推計している。世界人口の約半数である40億人が最も暑い赤道付近に居住しているが、これらの人々の多くは最貧困層で農業、漁業、林業等の産業で働くことが多く、暑さに関連するリスクが高い。

OECDは、大気汚染への暴露を原因とする早世は、2060年には世界の死亡者数の3分の1を占めると推計している。

技術の進歩は人間が担っていた危険な作業を機械が代替するなど労働安全衛生の向上にポジティブな効果をもたらす一方で、デジタル化やAI技術の活用がネガティブな影響を及ぼすおそれもある。ILOは例えば、人間と機械が共に働く機会が増えることで機械の故障やエラーによるリスクの上昇や、労働者が仕事の主体性を失ったり雇用がAIに置き換えられる不安を感じたりといった新たなリスクが生じることを懸念する。

労働安全衛生政策は不十分

労働安全衛生を向上させるためには包括的な国家政策とプログラムが不可欠である。所得水準別にみると、国基準での労働安全衛生政策を持つ国の割合は高所得国で最も高く(58%)、低所得国で最も低い(26%)。国家プログラムを有する国は政策を有する国よりさらに少なく、高所得国で半数近くに及ぶ一方、低所得国では8%に過ぎない(図表3)。

図表3:労働安全衛生政策の有無 (単位:%)
画像:図表3

出所:ILO(2024)

ILOの取り組み

ILOはこれまで、労働安全衛生の向上に向けて取り組んできた。

2022年6月の110回総会では、ILO中核的労働基準に「安全で健康的な労働環境」を加えることを決定し、ILO中核条約に労働安全衛生条約(1981年、第155号)及び労働安全衛生促進枠組条約(2006年、第187号)を追加した。両方に批准している国は加盟国の22%に当たる42カ国だが、すべての加盟国は批准しているかどうかにかかわらず、安全で健康的な労働環境に対する権利を尊重、促進、実現する義務を負う。

また、ILO理事会は2023年11月、「労働安全衛生に関する世界戦略 2024年〜2030年」を打ち出した。この戦略は各構成機関に対して予防的な安全衛生文化の向上に向けた行動を加速するよう求めるもので、次の内容を3つの柱としている。

  • ガバナンスの強化、信頼性の高いデータの活用、能力開発によって各国の労働安全衛生の体制を改善すること
  • 国家規模または世界規模で連携を進め、労働安全衛生に関する課題解決への投資を強化すること
  • ILO労働安全衛生マネジメントシステムに関するガイドライン(ILO-OSH2001)の原則を推進し、特にジェンダーに関連する箇所を見直して指針をつくること。特定の危険、リスク、業種、職種に沿ったガイダンスを作成し職場の労働安全衛生管理体制を強化すること

参考資料

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