脆弱性が高まる中での労働市場の回復
 ―ILO世界の雇用及び社会の見通し2024

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  • 国別労働トピック:2024年2月

ILOは2024年1月10日、年次報告「世界の雇用及び社会の見通し動向編 2024年版(World Employment and Social Outlook: Trends 2024)」を発表した。報告書によると、2023年の労働市場は経済の減速にもかかわらず堅調に回復したが、2024年には失業率が悪化し、格差の拡大が解消されていないままであると予測している。
以下で概要を紹介する。

2023年、経済の回復は減速したものの労働市場は堅調

2023年の労働市場は、経済の回復に後押しされて堅実に上昇した。労働力参加率は低所得国と上位中所得国では前年よりも低下したが、高所得国(+0.3ポイント)と下位中所得国(+1.5ポイント)では順調に上昇した。

所得水準別の労働力参加率をコロナ前の長期的な傾向(1991~2019年)と比較すると、低所得国以外ではすべて上回り、パンデミックから回復したようにみえる。しかし実際には、低所得国を含む複数地域の労働力参加率は低いままで、地域格差は解消されていない。また、女性や若年者、移民の労働力参加率も依然として相対的に低く、コロナ危機から十分に回復したとは言いがたい状況が続いている。

世界の失業率は前年より0.2ポイント改善し、2023年には5.1%となった。所得水準別にみると、低所得国(5.7%)以外でパンデミック以前の水準を下回っており、上位中所得国(5.5%)、下位中所得国(5.0%)では前年よりも低下し、高所得国(4.5%)はほぼ横ばいであった。

雇用成長率はすべての所得水準においてプラスを維持したが、伸び率は前年(2.8%)よりも低下し2.2%であった(図表1)。雇用成長率は2021年以降減速しており、この傾向は高所得国と上位中所得国で顕著であった。

図表1:2020~2023年の雇用成長率(性別、所得水準別) (単位:%)
画像:図表1

出所:ILO(2024)

実質賃金は、失業率が低く雇用が増加しているにも関わらず低下している国が多く、データ利用が可能なG20諸国の大半では2023年の賃金の上昇がインフレに追いついていない状態であった(図表2)。

図表2:2023年の実質賃金成長率 (単位:%)
画像:図表2

注1:2023年のデータは第1四半期または第2四半期を前年同期と比較した値。2022年のデータは2022年の年間値を前年と比較した値。

注2:インド、サウジアラビア、トルコは、2023年の欄に2021年から2022年の成長率、2022年の欄に2020年から2021年の成長率を記載。

出所:ILO(2024)

2024年以降は経済成長鈍化の影響を受けて労働市場も減速する見通し

雇用指標は少し遅れて景気の影響を受けるため、現在の経済成長の鈍化が雇用創出に影響を及ぼすのは2024年になるとILOは予測する。

2024年以降も雇用成長率はプラスを維持することが予測されるが、2024年に0.8%増、2025年に1.1%増にすぎず、2023年の成長の半分にも満たない。特に高所得国では2024年にはマイナスに転じ、2025年にはわずかに回復するのみである。上位中所得国も2025年までには小幅な改善しか見込めない。反対に下位中所得国と低所得国は順調に雇用の伸びを維持する見込みである。

近年の労働市場参加率の上昇は、労働市場が予想以上に好調であったことに後押しされたものと思われるが、2024年、2025年には、すべての所得水準で男女ともに労働力参加率は低下することが予測されている(図表3)。

図表3:所得水準別労働力参加率(2019~2025年) (単位:%)
画像:図表3

出所:ILO(2024)

また、2024年以降の失業率はわずかに悪化する見込みである。労働力参加率が低下し雇用成長率が鈍化する中、失業率は2024年には5.2%に上昇し、2025年には横ばいになると予測される。これは主に高所得国において失業率が上昇することが原因となる。

インフォーマル就業(法的枠組みで保護されず、社会的な保護を十分に受けていない就業者)の割合は減少傾向にあるものの、依然として高い。世界金融危機以降、すべての雇用におけるインフォーマル就業の割合は男女ともに減少傾向にあった。パンデミックの回復期、インフォーマル就業は一時的に上昇したが、2024年には再び減少に転じると予測されている(図表4)。

しかし割合は減少しているものの、労働力人口の増加に伴いインフォーマル労働者数は増加している。2023年には23億人を超え、過去20年間で最高となった。ILOは、2024年にはインフォーマル就業の人々が世界の労働人口の約58%を占めると推計する。

図表4:雇用におけるインフォーマル就業の割合 (単位:%)
画像:図表4

出所:ILO(2024)

ワーキングプアのうち、極度の貧困層(購買力平均が1人1日あたり2.15USD未満)の人は2023年には約2億4100万規模であった。これらの人々の割合は雇用の増加に伴い2022年より減少こそしているものの、人数は約100万人増加した。

中程度の貧困層(購買力平均が1人1日あたり3.65USD未満)も同様に、2023年には前年より840万人近く増加し約4億2300万人規模となった。

見通しは依然として不透明

ILOは、現在の国際情勢の緊張は課題解決のための国際協力には悪い兆候であると指摘する。各国政府は生活水準と生産性の向上に向けて国内経済を強化すると共に、資源が枯渇している低所得国、中所得国に対して既存の国際協力手段を利用することが必要であると延べ、現在G20が実施している多国間開発資金の有効活用に向けた取り組みを推進している。

参考資料

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