高齢化社会への対応を強化、シルバー経済に新たな活路

カテゴリー:高齢者雇用

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2024年2月

国家統計局の最新データ(注1)によれば、2023年末の60歳以上人口は2億9,697万人で、総人口の21.1%を占め、うち65歳以上(2億1676万人)は15.4%に達していた。予測では、60歳以上人口は2035年時点で4億を超え(総人口の30%超)、深刻な高齢化段階に入るとされる。しかし、高齢化社会の急速な進展が直面する様々な課題は、同時に新たなチャンスを生み出す可能性にもつながる。中国政府は、巨額の高齢者向け消費市場の誕生を見据え、「シルバー経済(銀髪経済)」の活性化に重点を置き始めている。

高齢者向けの巨大消費市場

人民網などの報道によると、中国老齢科学研究センターは2022年3月に「中国老齢産業発展及び指標体系研究」を発表した。それによると、2030年までに高齢者の消費総額は12~15.5兆元の範囲で増加し、GDP(国内総生産)比で8.3~10.8%程度上昇する。さらに、2050年までの同消費総額は40兆~69兆元の範囲で拡大し、GDP比で12.2~20.7%程度上昇すると予測。つまり、近い将来、中国では巨大な高齢消費者層の誕生とともに、高齢者向け力強い消費市場が確立される可能性が示唆されている。そのため、中国政府は「シルバー経済(銀髪経済)」の活性化を重視してきている。

国務院が2022年2月に発表した「『第14次5カ年計画』国家高齢化事業発展および介護サービス体系の計画(注2)」では、「シルバー経済」の大規模な発展を促進し、高齢者向け商品市場を拡大し、高齢者用品の研究開発や製造を強化し、高齢者の衣食住などの多様なニーズに応える生活用品の開発を提案している。さらに、国務院等による同年12月発表の「内需拡大戦略計画概要(2022年-2035年)(注3)」では、シルバー経済の発展を促進に向けて、高齢者に適した公共施設の構築と、高齢者向け製品の技術開発を提案している。

2023年7月には、シルバー経済の発展を促進し、高齢者向けの製品とサービス供給を充実させ、高齢者の多様なニーズに応え、高齢者福祉を向上させるために、国家発展改革委員会は「シルバー経済の発展促進」に関する意見や提案を募集した。

国務院弁公庁による「シルバー経済」促進方針

2024年1月5日には、李強首相が国務院常務会議で、シルバー経済の拡大と高齢者福祉の向上に関する政策を図る方針を示した。会議では、シルバー経済の促進が人口の高齢化に積極的に対処し、高品質な発展を促進するための重要な手段であり、将来的な利益も含まれると強調した。

さらに、国務院弁公庁は1月15日、「シルバー経済の発展と高齢者の福祉向上に関する意見(注4)」を発表し、急速に進む高齢化社会に伴い、高齢者向けの製品やサービスへの提供、老齢段階への準備など、一連の経済活動である「シルバー経済」の促進を目指すこととし、4分野計26項目の包括的な方針を打ち出した。以下にその主要な取り組み内容を紹介する。

1.民生事業の発展、高齢者向けサービスの充実

高齢者向け食事サービスの拡大
  • 飲食企業、不動産サービス企業、慈善団体に対して高齢者向けの食事支援を広げるよう奨励。
  • 外食プラットフォームや物流企業にも高齢者向けの食事デリバリーの参加を促進。
  • 多様な資金調達メカニズムを整備し、地域ごとの条件に基づく補助金や商品券の発行をサポート。
在宅高齢者サービスの拡充
  • 高齢者介護サービス企業、家事サービス企業、不動産サービス企業に対して、在宅での高齢者支援を奨励。
  • コミュニティでの入浴拠点や、移動入浴車、訪問入浴など、様々な形態のサービスの発展をサポート。
  • 小売サービスや社会福祉サービス機関に生活支援機能の拡充を奨励。
コミュニティ便民サービスの発展
  • 「15分コミュニティ生活圏(注5)」の構築と、高齢者向けの便利な消費サービスセンターの整備を奨励。
  • 高齢者向けの日用商品店の適切な配置を促進し、商業施設に高齢者向けエリアや便利な相談窓口の開設を支援。
  • コミュニティ組み込み型のサービス施設の発展を推進し、物流、スマート宅配ボックス、野菜直販車の導入をサポート。
高齢者の健康サービスの最適化
  • 総合病院や漢方医学病院での高齢者医療施設の強化を図り、老年病(高齢に伴う病気)の予防と治療の水準向上を奨励。
  • リハビリ病院や看護施設の建設を促進し、小規模医療機関のリハビリ、健康管理の能力強化を奨励。
  • 在宅でのリハビリサービスの拡大や、漢方医学療養保健分野での利用を推進。
高齢看護サービスの充実
  • 地方自治体に対し、高齢者施設の普通療養用の病床数と介護療養用の病床数に異なる補助金制度を提案。
  • 高齢者施設の建設や改修の促進と、認知症高齢者向けの専用エリアの設置をサポート。
  • 医療機関と高齢者施設を隣接させることで、資源の共有を推進し、在宅・コミュニティ・施設間の連携メカニズムの確立を提案。
高齢者向け文化・スポーツサービスの拡充
  • 国家老年大学(高齢者向けの教育機関)の設立を奨励。
  • 高齢者向けの文学、ラジオ、映画、音楽、ショートビデオなどの業界を発展させ、高齢者文化団体や演芸団体の交流をサポート。
  • 高齢者向けのスポーツイベントや施設の整備を強化し、スポーツ場所の利用を支援。
農村の高齢者サービスの向上
  • 農村の特別困難者に高齢サービス施設を活用し、委託経営などの方法で高齢者サービスを展開。
  • 地元の高齢施設や飲食店などが協力して食事支援施設を増やすことをサポート。
  • 農村高齢相互支援型の高齢者サービス、「企業(社会組織)+農家+協同組合」の経営モデルを採用。

2.製品提供規模の拡大

シルバー経済の事業主体の育成
  • 国有企業がリーダーシップの役割を果たし、シルバー経済に関連する事業を展開するよう奨励。
  • 民間企業も活用し、政府とのコミュニケーションを円滑にし、市場の参入障壁を取り払い、シルバー経済に関する政策、資金、情報の流れを促進。
産業クラスターの発展
  • 京津冀(北京市・天津市・河北省)、長江デルタ、広東・香港・マカオグレーターベイエリア、四川省の成都市・重慶市などの各地域において、シルバー経済に特化した高度な経済産業クラスターを約10カ所設立。
  • 自由貿易試験区や開発区、国家サービス業拡大開放総合デモンストレーション区などのプラットフォームを活用し、シルバー経済の国際的な協力を推進。
業界組織の効率向上
  • シルバー経済に特化した社会組織の設立を奨励し、企業や研究機関が連携するプラットフォームの構築をサポート。
  • 公共データ共有を強化し、業界組織が産業運営のモニタリングや情報発信を行う仕組みを整備。
ブランド化の推進
  • シルバー経済のリーダー企業の育成を奨励し、連鎖展開やグループ展開をサポート。
  • 中国の様々なイベントやプラットフォームを活用して、シルバー経済の自主ブランドを広く宣伝。
高水準の標準化プロジェクトの展開
  • 高齢者サービス、文化・観光、高齢者用品、バリアフリー改修、スマートテクノロジーの応用などの分野で標準化の試験を実施。
  • 自主開発や技術先進の製品に対しては、「アップグレードとイノベーション消費品ガイド」に優先的に組み込む。
消費供給チャンネルの拡大
  • 「老人の日」などの伝統的な祭りや行事を活用し、電子商取引プラットフォームや大手スーパーマーケットでの特別な買い物イベントを奨励。
  • オンラインプラットフォームやオフラインの商業エリアを育成し、高齢者が安心して利用できるような消費供給チャンネルを拡充。

3.多様なニーズに応える潜在的な産業の育成

高齢者用品の革新
  • 服、靴、帽子などの高齢者向け製品のデザインや機能の向上を奨励。
  • 健康食品や医学用途調整食品の研究開発を支援。
  • 日用品や娯楽用品などの高品質な製品の開発。
スマートヘルスケア新概念の構築
  • スマートデバイスを活用し、在宅、コミュニティ、機構での高齢者のケアを向上。
  • 看護ロボット、家庭サービスロボット、認知症老人徘徊感知機器などのスマートな製品の展示体験を促進。
リハビリ補助具産業の発展
  • 伝統的なリハビリテーション補助具のアップグレードを促進。
  • 認知障害やリハビリ訓練などの生活補助製品の供給を増やす。
抗加齢産業の推進
  • 皮膚の老化メカニズムや抗加齢(アンチエイジング)分野における遺伝子技術などの研究を深化。
  • 生物技術を活用し、抗加齢・老化制御関連製品とサービスの開発を促進。
高齢者金融商品の発展
  • 資金管理や老後の計画に関する金融サービスを提供。
  • 高齢者向けの保険商品の開発を進め、高齢金融商品の研究開発を強化し、健康や介護などのサービスとの連携を促進。
観光サービス形態の拡大
  • サービス施設の充実、家族旅行商品の開発を奨励。
  • 老年者向けの観光事業の成功事例を紹介し、観光の多様な楽しみ方を普及させる。
  • 苦情報告メカニズムを強化。高齢者向けの旅行保険事業を拡充。
  • 全国をカバーした旅居(観光地居住)型高齢者産業協力プラットフォームの構築。
高齢者向けの改造を推進
  • バリアフリー建設を進め、公共スペースや住宅での改造を促進。
  • 住環境整備を推進、古い住宅地へのエレベーターの追加やスマートな安全監視装置の導入。
  • 高齢者向けのデジタルプロジェクトを展開し、オフラインサービスの維持を支援。

4.シルバー経済に必要となる発展環境の最適化

科学技術イノベーション応用の強化
  • リハビリ補助器具、スマートヘルスケアなどの先進技術の研究を巡り、前向きで戦略的なプロジェクトを計画。
  • 中央政府の科技計画を通じてシルバー経済分野の研究をサポートし、自主研究の水準を向上させる。
土地と住宅の確保の充実
  • 高齢サービス施設やシルバー経済産業の用地需要を確保するための供地計画の科学的な編成。
  • 新しい住宅地は社会福祉サービス施設の配置を計画し、古い住宅地は地域の要件に応じて補完。
  • 中程度以上の高齢化地域では、新住宅地の標準を調整。訓練療養機関への転換と高齢サービスの発展をサポート。
  • 安全を確保した上で、空き店舗、オフィス、工業地、倉庫などの既存の場所を高齢サービスに改建。
財政金融の支援強化
  • 中央予算で新しい高齢施設に情報管理システムを搭載し、人工知能設備の使用を推進。
  • 地方政府の専用債券を通じ、シルバー経済産業プロジェクトをサポート。
  • 各金融機関は、高齢サービス施設とシルバー経済産業プロジェクトの建設を奨励。
人材の育成を推進
  • 大学と専門学校は、シルバー経済関連の学部を設置し、高齢者学、薬学、高齢サービス、健康サービス、看護などの専門分野の受験生の規模を確定。
  • 学校・企業の実習訓練の共同構築をサポート。
健全なデータの構築
  • 国家レベルで高齢に関連するデータの共有を強化。
  • スマート製品やサービスにおける個人情報の収集や使用などの活動を規制。
詐欺行為防止の取り組み
  • 高齢者に詐欺防止の宣伝活動を展開。「養老プロジェクト」への投資、「養老製品」の販売、「以房換養(リバース・モーゲージ(注6))」の勧誘、「養老保険」の代行などの名目で高齢者の合法な権利を侵害するあらゆる詐欺行為に対処する。

中国政府は、これらの新しい戦略を通じて、シルバー経済を活性化させ、高齢者が充実した生活を送るためのサポートを展開している。

参考文献

  • 中国人民政府、中国国家発展と改革委員会、新華網、人民網

参考レート

2024年2月 中国の記事一覧

関連情報