22州が最低賃金を引き上げ
 ―2024年1月、990万人以上の労働者に影響

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全米50州のうち22州が2024年1月1日に最低賃金を引き上げた。12州は物価指標などをもとに引き上げ額を算出。10州は州法等で定めた引き上げ額を適用した。全米規模の物価指標をもとにした州ではおおむね3%台半ばの引き上げ率となっている。経済政策研究所(EPI)の試算によると、今回の州最賃引き上げにより全米で約990万人以上の労働者の賃金が上昇し、総額69億5,000万ドル以上の収入増が見込まれる。

物価高を背景に「引き上げの前倒し」も

米国では連邦政府のほか、各州やその州内の主な市、郡などが独自に最低賃金を設定している。州や市などによっては、特定職種等の最賃を別途設けているところもある。

連邦政府は2009年7月以降、最賃を時給7.25ドルで据え置いているが、全米50州のうち約半数は毎年の改定を続けている。最賃の改定方法や改定時期は各地で異なる。今回引き上げた22州のうち12州が物価指標等に連動する形で、10州が州法等であらかじめ定めた水準へと最賃をそれぞれ改定した(図表1)。

図表1:米国各州の最低賃金引き上げ状況(2024年1月)
画像:図表1
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※CPI-U(Consumer Price Index for all Urban Consumer、都市部の消費者世帯を対象とする消費者物価指数)、CPI-W(Consumer Price Index for all Urban Wage Earners and Clerical Workers、都市部の賃金労働者世帯を対象とする消費者物価指数)、ECI(Employment Cost Index、雇用コスト指数)、PCE(Personal Consumption Expenditures、個人消費支出)。同じ物価指標を用いる州でも、最賃算出方法の違い(算出額を5セント単位で四捨五入するなど)により引き上げ率が異なる場合がある。

※ミネソタ州は年間売上高50万ドル以上規模、ニュージャージー州は6人以上規模、ニューヨーク州はニューヨーク市とその近郊の郡における改定前後の金額を記載。

出所:Economic Policy Institute (2023) などをもとに作成

全米規模の物価指標をもとにした州では、アリゾナ州で3.6%、モンタナ州で3.5%など、おおむね3%台半ばの引き上げとなっている。州法等で毎年の引き上げ額を定めた州でも、想定を超す物価高を考慮し、翌年に到達予定の額へと前倒しで引き上げるところが出ている。メリーランド州は従業員15人以上規模の最賃について、2023年1月改定値の時給13.25ドルを24年1月に時給14ドル、25年1月に時給15ドルへと引き上げる予定にしていた。だが、23年5月に州法を改正し、時給15ドルへの引き上げを24年1月に前倒しすることとした。その際、15人未満規模も時給15ドルに引き上げ、企業規模間の最賃の格差をなくした。

ニューヨーク州では2023年5月に州法を改正し、新たな引き上げのスケジュールを定めた。ニューヨーク市とその近郊のナッソー・サフォーク・ウエストチェスター各郡は2024年1月に時給16ドル、25年1月に時給16.5ドル、26年1月に時給17ドルへと引き上げ、27年1月以降は北東部CPI-W(都市部の賃金労働者世帯を対象とする消費者物価指数)に基づき引き上げることとした(注1)。州内のその他の地域は2024年1月に時給15ドル、25年1月に時給15.5ドル、26年1月に16ドルとし、27年1月以降は物価連動方式となる。

コネチカット州は2023年6月1日に時給15ドルへの段階的引き上げのスケジュールを終え、今回の改定から統計指標に連動する方式へと移行した。1時間当たりの人件費の変動を示す連邦労働統計局の全米雇用コスト指数(Employment Cost Index、ECI)を指標に採用。具体的には、民間企業及び州・地方政府の労働者の福利厚生費を除く人件費の2023年6月値(前年同月比)を引き上げ率の算定根拠とした。

ハワイ州は2022年に当時時給10.10ドルだった最賃を4段階で引き上げ、28年1月に時給18ドルにすることを定めた(注2)。今回は22年10月1日に次ぐ2段階目の引き上げにあたり、時給2ドルの大幅なアップとなっている。

990万人以上に影響と推計

リベラル系シンクタンク・経済政策研究所(EPI)は今回の州最賃引き上げの影響について、全米で約990万人以上の労働者の賃金が上がり、総額69億5,000万ドル以上の収入増をもたらすと推計している。

EPIによると、州のほかにも2024年1月に38の市や郡が最賃を引き上げた。ワシントン州シアトル市はそれまでの時給18.69ドルから19.97ドル、同シータック市は時給19.06ドルから19.71ドルへと高まっている(いずれも物価連動方式で改定)。

今後も2023年7月1日にオレゴン州(物価連動)、ネバダ州(段階的引き上げ)、コロンビア特別区(ワシントンD.C.、物価連動)、9月30日にフロリダ州(段階的引き上げ)で引き上げを予定している。

加州でファストフード店員に対する時給20ドルの最賃が4月に施行

カリフォルニア州では2023年9月に成立した州法(AB1228)に基づき、全米に60店舗以上を持つ州内ファストフード店の労働者に対して、時給20ドルの最低賃金を2024年4月1日から適用する(注3)。同州のファストフード店員は50万人以上にのぼり、その2022年における平均時給は16.21ドルだった。次年度以降(2029年1月まで)は州労使関係局に設ける「ファストフード評議会」が毎年の引き上げを決める。引き上げ率は全米CPI-Wの年間上昇率か3.5%の低いほうとする。

同州では2022年9月に、全米で100以上の店舗を持つ州内ファストフード店の労働者の最低賃金を時給22ドルとする法案(AB257)に知事が署名して成立していた。だが、国際フランチャイズ協会(International Franchise Association)、全米レストラン協会(National Restaurant Association)、米国商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)でつくる「ローカルレストラン救済連盟(Save Local Restaurants coalition)」が差し止めの訴訟を起こしたため、施行を延期していた(注4)。その後、法案の制定を求める労組(SEIU/国際サービス従業員労組)と業界団体等が交渉のうえ、AB257の撤回、AB1228の成立に合意していた。

参考資料

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