高齢者の就労と年金制度の維持
 ―OECD報告

カテゴリ−:雇用・失業問題高齢者雇用非正規雇用

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  • 国別労働トピック:2024年1月

経済協力開発機構(OECD)は23年12月、『図表で見る年金2023年版(Pensions at a Glance 2023)』を公表した。OECD全体の高齢化と、年金制度の維持に向けた加盟国の取り組み状況について、現状分析とともに論じている。また、特集として「危険・過酷な労働」を取り上げ、深刻な健康被害が生じる前に労働者を解放し、健康被害を抱えた人に対しては、年金の早期受給よりも、労働災害保険や医療保険、障害保険など別の支援が提供されるべきだと提言している。以下にその概要を紹介する。

高齢化と高齢者の就業促進

OECD予測によると、加盟国の65歳以上人口の割合は、2022年の18%から、2050年には27%に上昇する(OECD平均)。高齢化の進展に対応するため、OECD加盟38カ国中、23カ国において、法定の年金受給年齢の引き上げが予定されている。このほか各国の実情に合わせて、図表1のような年金制度の改正が行われている。

図表1:OECD各国の近年の年金政策
主な内容
オランダ 私的年金制度を、確定給付型から確定拠出型に変更。
スペイン 従来の自動調整メカニズム(年金支給の低率スライドを含む)を正式に廃止し、物価スライド制を再導入し、高額所得者の保険料を引き上げ。
コスタリカ 年金計算に使用する過去の賃金の参照期間を過去20年から25年に延長。
スウェーデン 法定受給年齢を引上げて、平均余命の3分の2の延びと連動。
フランス、チェコ、コスタリカ 早期年金受給制度の最低受給年齢を引き上げ。
スイス 通常の年金受給年齢における男女差を是正。
カナダ、チリ、エストニア、フランス、イタリア、リトアニア、スペイン、スウェーデン、トルコ 1階部分の基礎年金を大幅に増額。

出所:OECD(2023)を元に作成。

過去10年にわたる調査で、高齢化の加速と年金制度の安定維持の両立には、複数の政策とともに、高齢者の就労促進やエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)の強化が欠かせないということが明らかになっている。

そのため、OECD各国は、年金受給年齢の引き上げ、長期就業継続のインセンティブと早期退職の抑制、雇用の流動化の促進といった措置を、高齢者の就労促進やエンプロイアビリティの強化と組み合わせて実施している。

その結果、高齢者の労働参加は、OECD全体で上昇し続けており、2022年の高齢者(55~64歳)の就業率は、過去最高の64%(OECD平均)に達し、10年前より8ポイント近く上昇した(図表2)。

図表2:OECD諸国における高齢者の就業率(年齢層別、2022年)
画像:図表2

出所:OECD(2023)。

しかし、依然として、多くの高齢労働者は、最新スキル(技能)の獲得や維持が難しい状況にあり、質の良い仕事へのアクセスは限られたままとなっている。急速に変化する労働市場において、高齢者は特にスキルの陳腐化リスクが高く、公式・非公式訓練への参加率は、若い世代の労働者の半分以下に留まる。

こうした高齢者のエンプロイアビリティを強化するために、働きながら新たなスキルを獲得できる政策を、各国政府は積極的に実施する必要があるとOECDは提言している。

また、現在、加盟国の多くは、コロナ禍以降、あらゆる産業や職種の労働力不足に直面している。未充足求人数は2022年に記録的な高水準に達し、景気が減速する2023年においても高水準が続いている。このような労働力不足は、今後、団塊世代が大量に年金受給年齢に達する中で、一層深刻な課題となる。そのため、二重の意味で、高齢者のスキル改善によるエンプロイアビリティの強化や就労促進は、今後より重要になっていくと思われる。

危険・過酷な労働に対する対応

報告書によると、肉体労働を主とする労働者は、他の労働者よりも健康状態が悪い傾向がある。OECD諸国の多くは、「危険・過酷な労働」に従事する人に対しては、特別な年金制度を設けるか、一般年金制度内の特別規定を通じて、早期に年金受給を選択できる等の対策を行っている。

しかし、各国政府が本来取り組むべきなのは、「危険・過酷な労働」に対する健康被害の予防と、健康状態が著しく悪化する前に労働者を過酷な労働から解放することである。可能な限りロボット等の技術支援を活用し、労働者の健康状態の悪化を防ぎ、長く労働市場に留まらせるために、職場環境を再設計すべきである。そのためには、労働時間と安全衛生に関する規制を強化し、その履行確保や検査体制を強化する必要がある。さらに、職務に関連する健康問題を抱えた人々に対しては、年金制度よりもむしろ、労働災害保険、医療保険、障害保険等を通じた別の支援の枠組みが提供されるべきである。

場合により、軍隊、警察、消防士などの公務分野の従事者については、加齢に伴う身体的・認知的能力の低下が、自身や他人を危険にさらす可能性があるため、早期の年金受給の選択肢を提供する政策には合理性があるかもしれない。しかし、このような場合であっても、早い段階で、管理業務など別のキャリアへの転換を支援すべきである。

さらに、いくつかの職務特性(肉体的負担、騒音、非日常的な労働時間パターンなど)が健康に及ぼす遅発性の影響は、確かな証拠に裏打ちされた特別な年金規定があれば、これらの制度を補完できるかもしれない。例えば夜勤のような厳しい労働を続けた結果、健康状態が著しく悪化した場合には、慎重な評価の後に早期の年金受給を解決策として検討することもあり得るだろう。

過去20年で、フィンランドやフランスを含むいくつかの国々は、「危険・過酷な労働」をカバーする年金制度の設計を改善した。これらの制度改正は、早期の受給資格を「職業」に紐づけるのではなく、夜勤などの「職務特性」に関連付けるものである。また、オーストリアでは、夜間労働者の早期年金受給を可能にする特別制度については、対象を厳格に絞り、こうした労働を制限するために、雇用主に対して年金の追加拠出金を課している。

参考資料

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