労働時間をめぐる労働者の希望と現実
 ―IAB調査

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年12月

労働市場・職業研究所(IAB)が11月に発表した調査結果(注1)によると、2021年にはフルタイムで働く男性の58%、女性の49%が労働時間の短縮を望んでいた。これまで労働者の希望労働時間は数十年にわたり安定的に推移してきたが、近年はやや短くなる傾向にある。この傾向は、特に新型コロナ禍以降、さらに強まっている。

男女の希望の違い

全体的に、労働者の希望労働時間は1985年以降、安定的に推移しているが、直近の10年を見ると、希望労働時間はやや短くなる傾向が観察されており、コロナ禍以降、その傾向が加速している。2021年には、フルタイムの男性労働者の58%、同女性労働者の49%が、労働時間の短縮を希望しており、これは1985年からの観察期間中で、最も多い割合であった。

男女の週実労働時間と希望時間を分けて示すと、図表1の通りになる。

図表1:週実労働時間と希望労働時間(男女別)1985~2021年 (単位:週労働時間)
画像:図表1

出所:IAB(2023).

平均すると、女性の実労働時間は男性より短く、全体の実労働時間の平均を押し下げている。2021年の女性の労働時間は、実労働時間・希望労働時間ともに、男性よりそれぞれ8時間、6時間ほど少なく、男女間の労働時間格差はかなり大きい。また、女性の場合、2021年は実労働時間に目立った変化はないものの、希望労働時間が少なくなり、その結果、現実と希望の乖離がやや拡大していた。他方、男性については、特に男性のパートタイム労働の増加により、10年前から実労働時間が減少しており、コロナ禍によりさらに減少している。さらに、男性の希望労働時間も同様に少なくなっている。男性の実労働時間と希望労働時間の差は4.5時間(2021年)であったが、過去10年間でわずかに増加していた。

雇用形態別で見ると、労働時間の延長を希望するのは殆どがパートタイム労働者であったが、その希望労働時間の平均も、近年減少傾向にある。また、ミニジョブ労働者(注2)が仮に希望労働時間を実現できた場合、女性は週平均14.7時間、男性は同17.9時間であった。

世代間の希望の違い

年代別にみると、雇用労働者のうち、学位取得プログラムを受講している25歳以下の若年労働者の割合は、年々上昇傾向にある。分析によると、労働者の希望労働時間が減り、余暇時間(私生活時間)を増やしたいという希望が増えたのは、若い世代の影響が多分にある。いわゆるZ世代(1990年半ばから2010年代生まれ)の25歳以下の女性は、世界金融危機(2009年)以降、希望労働時間が週平均で7時間も減少している。その背景に、若い女性の間で学生の割合が増加し、ミニジョブで働く者が大幅に増えていることが原因ではないかとIABは推測している。

図表2:雇用労働者に占める学生の割合(25歳以下の男女別)1985~2021年 (単位:%)
画像:図表2
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出所:IAB(2023).

今後の展望

分析を行ったIABのエンツォ・ウェーバー氏は、「フルタイムで働く労働者の多くが労働時間短縮を望んでおり、その背景として、家庭内の育児や介護などのケア責任に対する意識の変化を考慮に入れる必要がある」と説明する。さらに、「世帯の中で、男性が1人のみの稼ぎ手モデルはすでに過去となっており、現在は、個人のライフステージに応じて、労働時間の希望はますます多様化している。したがって、今後は労働者個人の状況に応じて、労働時間を個別最適化できることが重要になってくるだろう」と述べた。なお、同氏は、特に2020年と2021年は、コロナ禍による休業とストレスが大きな特徴であったため、今後、労働者の希望労働時間がどのように変化するかは、未知数だとしている。

参考資料

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