最低賃金、2024年1月に月額204ドルへ
 ―月額200ドルから2%引き上げ

カテゴリー:労働条件・就業環境労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2023年10月

全国最低賃金委員会の答申と首相の政治判断による上乗せの結果、2024年1月に最低賃金が現行の月額200米ドルから204米ドルに引き上げられることが決まった(注1)。カンボジアの最低賃金は2013年以降、コロナ禍にあっても毎年引き上げられている。2013年から2015年までは急激に引き上げられたが、2016年からは客観的な基準に基づく額の決定がなされており、引き上げ幅は抑制され10%程度となった。なお、コロナ禍以降は引き上げ幅がさらに低くなり、物価上昇分よりも低くなっている。

労使の提案には大きな隔たり

カンボジアにおける最賃改定は、政労使三者の代表51人からなる全国最低賃金委員会で審議され、その結果が労働・職業訓練大臣に答申される。2024年1月の引き上げに関する公式の政労使による審議は8月16日に開始した(注2)。当初、労使の提案には大きな隔たりがあった。

委員会の開催にあたり、使用者代表からは、コロナ禍の影響と世界経済の低迷により、カンボジアでは2万人以上の職が失われたと指摘した上で、更なる最賃引き上げは投資への影響が懸念されるため、現行の金額を据え置くべきだという見解を示された(注3)。それに対して、労働組合は8月初旬の時点で、労働者の立場から十分生活が可能となる水準を試算した結果、月額220ドルから300ドルへの引き上げを提案するとしていた(注4)

8月21日の各労組の代表者が参加した会合では、1つの労組が212ドル、5つの独立労働組合が220.20ドルを提案したのを受けて、8月28日の2回目の議論の中で、この2つの額が提案された(注5)。9月4日の3回目の委員会では、労働組合代表が215ドルを提案したのに対して、使用者代表は201ドルを提案した(注6)。9月11日の4回目の委員会においても労使は互いの主張を譲らず、議論は平行線のままだった(注7)

9月18日の5回目の委員会では、使用者代表が201.50ドル、労働組合が204ドルと213ドルを提案したのを受けて、政府が労使の間をとって202ドルを提案した(注8)

今回の最低賃金委員会は、非公式会合も含めて20回もの個別交渉が行われたが、全会一致の合意が得られなかったため、9月28日に最終決定のための投票が行われた(注9)。その結果、51人中46人が202ドルを支持し、労働組合代表の5人は213ドルを支持した。政府、経営者、労組の代表のほとんどが202ドルで合意したかたちとなり、202ドルが委員会の審議結果として労働・職業訓練大臣に答申された。これを受けてフン・マネット首相が2ドル上乗せをして、最終的に204米ドルに決定した(注10)

首相の上乗せ額は年々少額に

1997年に創設された最低賃金制度は、当初、3年から7年に1回の引き上げだったが、2013年からは毎年引き上げられるようになった。2015年にかけて毎年30%前後の急激な引き上げとなったが(図表1参照)、2016年の委員会で客観的基準(注11)が採用されて以降、引き上げ幅が安定し10%前後の引き上げがコロナ禍前まで続いた。委員会の答申による改定額に首相が上乗せする政治的な判断は、2015年の改定から恒例となっている。2018年には委員会の12ドル引き上げ案に対して首相が5ドル上乗せ、19年には委員会の7ドル引き上げ案に対して5ドル上乗せ、2020年には5ドル引き上げ案に対して、3ドル上乗せされた。コロナ下の2021年、2022年には、委員会が据え置き案を提出したのに対して、首相の判断で2ドル引き上げられた。このように委員会の答申額に首相が上乗せする慣行が続いているが、上乗せ額は年々抑制される傾向が見られる。

図表1:最賃額と引上げ割合の推移(1997年~2024年)
画像:図表1

出所:政府発表資料等より作成。

物価上昇が続く中の低い引上げ幅

働く現場の労働者からは、さらなる引き上げを望む声が多いようだ。コンポンチャム州チャン・プレイ地区の工場で働く労働者は、賃上げは歓迎するが、10ドルか20ドル上がることを期待していた彼女にとって今回の引き上げ額は少なすぎるという。一般的な労働者は最賃額では生活が成り立たず、時間外労働をしている現状に加え、最近は多くの商品の価格が上昇しているために、生活は苦しいという(注12)

2013年以降の物価上昇率と最賃の引き上げ率の推移を示したのが図表2である。既述のとおり2013年から2015年までは大幅な引き上げだったが、2016年より委員会において客観的基準に基づく審議が始まり、引き上げ幅が抑制された。コロナ禍には委員会の答申では据え置きの判断がされたため、一層、引き上げ幅は小さくなった。それに対して、物価はコロナ禍前、高くても3%台で推移していたが、2021年以降上昇し、前年同月比で8%上昇に迫る月もあった。2024年の最賃引き上げ率は2%になったが、今後の物価上昇率について、国際機関による2023年と2024年の予測を見てみると、最賃引き上げ幅を上回る上昇率となっている。アジア開発銀行(ADB)は2023年に3.0%、2024年に4.0%上昇と予測するが(注13)、世界銀行は2023年、2024年とも2.5%(注14)、IMFは両年とも3.0%(注15)、AMRO(ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス)(注16)が2.3%、2.7%と予測しており(注17)、4つの機関の予測の平均値をとると、2023年は2.7、2024年は3.05%となる。いずれも最賃の引き上げ幅を上回り、実質賃金は低下することになる。

図表2:物価上昇率と最賃引上げ率の推移
画像:図表2

注:物価上昇率の数値は毎月発表される前年同月比の値の平均値。2023年と2024年の数値は、アジア開発銀行、世銀、IMF、AMROの予測の平均値。

出所:国家統計庁ウェブサイト(Consumer Price Index, Phnom Pen)新しいウィンドウおよび労働・職業訓練省等政府発表資料を参照して作成。

(ウェブサイト最終閲覧日:2023年10月18日)

参考レート

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